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25匹目 戦闘、涙、ビースト系。

 怒りにブルブル震えだすヴィヴィットバブーンさん。水色肌に赤みが増して紫色になり、ぶわっと毛が膨らんで、身体が大きく見える。目は吊り上がり、眉間には深く皺が寄る。その背後には地獄の灼熱のように燃え上がる烈火の幻影が映っていた。明らかな威嚇だ。


 あわ…あわわわわわわ!あかーーーん!あかんでコレ!キレてまんがな!めっちゃキレてまんがな!


 ヴィヴィットバブーンさんの目は瞬き一つせずランドキングビーさんを完全に捉えており、「逃がさねぇぞ」という不穏な空気がビンビン伝わってくる。しかし幸運なことに、頭部に隠れて覗き見していた私には気付いてなさそうだ。邪魔だろう私は、ささっとランドキングビーさんから降りて木陰に逃げ込み、観戦を決め込んだ。り、リアルモンスターバトルっすかね…!ゴクッ。どんなもんなんだろう。実況者は毎度お馴染みの山田花子でお送りします。



「ヒヒィ!ヒヒーン!ヒヒヒィ!」



 ヴィヴィットバブーンさんが何事か叫んだ。おサルさんとは思えぬ立派な牙を見せ、脅している。口を閉じるたびにガチン、ガチンと金属を鍛えるような音を鳴らせて、迫力は満点だ。

 しかし一方のランドキングビーさんはそれらを無視するかのように、押し黙っている。再び同じような叫び声を上げてもランドキングビーさんは触角をヒクヒク遊ばせているだけで無言。さすがにこれには、ヴィヴィットバブーンさんの怒りが頂点に達したようだ。

 うわぁぁ!煽っちゃってるよ!貴重な情報源を煽ってどうすんだよ!頼むよランドさーーーん!


 ヴィヴィットバブーンさんはグッと身を屈め、その反動で身体を捻るように飛び掛かりながら、その牙で肉に噛み付こうと大きく口を開く。が、相手の紙のようにヒラリとした身のこなしによって、それは避けられた。

 めげずに隆々とした手足の筋力のバネを使い、次々と休む間を与えず、僅かに浮遊しているランドキングビーさんに飛び掛かっていく。

 しかしそのたびにスイスイと軽やかに紙一重のところで避けられていくものだから、ヴィヴィットバブーンさんの憤怒は我を失い、限界を越えて、なおも高まっていくばかり。

 顔を真っ赤にして、苛立ちに地団駄を踏んで鳴くヴィヴィットバブーンさんに、ランドキングビーさんは「グル」とようやく何か納得した風だ。

 「グルル」あれはお前達の交尾だったのか……って貴方の中の確たる交尾という認識がものすごく気になるような発言じゃないですか、それって。二匹そろって何て会話をしてたんだよコラ。




「ヒヒヒーーーーィ!!!」



 ランドキングビーさんの心ない一言で、青筋を浮かせて、一段と大きく声を張り上げたヴィヴィットバブーンさんが、宙へ飛ぶ。ランドキングビーさんは胸元で鈍色に光る鎌をクロスさせ、身を屈めた。

 二匹の影が、刹那、交わった。

 ────勝負はついた。




 ヴィヴィットバブーンさんの栗毛が辺りにパサッと飛散する。


 ………………な。


 な、なななな、なんじゃごりゃあああああああああーーーー!!!何が起こったあああああああ!!!


 目に見えない超速度で綺麗に頭が丸く剃られ、マル〇メみたいになったヴィヴィットバブーンさんと私の叫びは、種族を越え、シンクロしたと思う。目と口をあんぐり開いて、同じ顔になってたから。

 ちょっと昔流行ったベッカ〇ヘアみたいだった自慢の頭を全て剃られ、バルドイーグルさんのハゲ頭よりもその地肌部分が広い悲劇。

 やけに涼しくなった自分の頭を触れては確かめ、触れては確かめ、ようやく現実を受け入れたヴィヴィットバブーンさんはすっかり意気消沈し、力なく地面に倒れ伏した。恐らくこのヴィヴィットバブーンさんの種族は、お洒落に生きているんだろう。身体のお洒落こそがイイ雄の条件なんだ、きっとそうに違いない。

 さて、ランドキングビーさんの方はというと、やはりというか流石というか無傷でいらっしゃり、自分の鎌の具合を角度を変えながら確かめていた。「またつまらぬ物を切ってしまった…」とか言う豆腐が切れない某侍の空耳が聞こえる。大好きなんです、あのアニメ。

 ヴィヴィットバブーンさんの顔からなんか液体が出て、水溜まりになってる。な、涙だ!あれ全部涙だ、あれ!

 ご、ごめんよ、なんて言ったらいいのか…。

 いや、ヴィヴィットバブーンさんが決して弱いんじゃないと思うんだ。我らがボスの能力が反則じみてるんだよ、インセクター系では最強種だって言ってたし。

 ボスに出会ったが運の尽きだったのだ、ヴィヴィットバブーンさん…。


 風に乗って儚く飛散されていく栗色の毛に私はそっと合掌し、南無南無と拝んだ。







 ビースト系は好戦的な分、モンスターの中でも力関係が特に顕著というか「力こそが全てぞォ!」っていう考えが強いらしくて、強いものは支配し、弱いものはその意思に従って奴隷となり下僕となり被迫害者となることを本能的な当然の義務として受け入れるようにできているらしい。何という脳筋…じゃなかった、体育会系ルール。ただ、唯一の例外がサンライトドラゴンに挑んでいったような、ビースト系で限りなく頂点にいるようなモンスターで、そういう輩は知能が他よりずば抜けて高いので、己が認めた者にしか従わないという仕様らしく。

 この体育会系ルール、思い出せばホットライノーセラスさんやバルドイーグルさん、ウッドマウスさんにも当て嵌まっている。ランドキングビーさんに、彼らはよく従ってくれていた。単に性格かと思ってたんだけど、そういうことだったのか。でもハイドモスさんとかも怯えながら従ってくれていたけど、ビースト系と他のモンスターとの違いって何なんだろう。服従を自身の使命だと当然とするか、意志によって仕方なく自身に納得させるか、ってかんじなんだろうか。…………ランドさんの立場からすると、裏切りの心配がビースト系の方がないってこと?

 まぁともかく、例に漏れず嘘のように大人しくなったヴィヴィットバブーンさんも、ランドキングビーさんの質問に何も抵抗せず答えてくれたので、物事がスムーズに進んでくれる便利なルールに感謝感謝と言ったところか。


 どうやらアンシェントリザードさんは地下に潜り込んでいるそうで、その穴がこの山の麓にあるらしい。

 ヴィヴィットバブーンさんに先導してもらって、そこまで案内してもらうことになった。よろしくお願いします!

 ………あ。ヴィヴィットバブーンさん、お尻は真っ黒い肌なんだ。


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