24匹目 捜索中であります
木の茂みの中からガサガサと空へ抜け出すと、隣の木の茂みにバルドイーグルさんが突き刺さっているのが見えた。シンクロナイズドスイミングのように足だけが綺麗に出てて……あっ、スケ〇ヨだス〇キヨ。
あの超スピード移動の時、ランドキングビーさんは咄嗟にこの木に投げたんだそう。足がピクピクしてるんだけど、し、死んでないよね?
ランドキングビーさんが足を掴んで引っ張り上げる。ぶらーんとバンザイして気絶していたけど、怪我もなく呼吸もちゃんとしているようで、死んでなかった。よかった。五月蝿いけど、小物で下僕体質な感じが親近感があって憎めないモンスターなんだよなぁ。
さあさあ、事態は一刻を争う訳ですよ。自然に起きるのを待ってあげたいところなんだけど、仕方なく、仕方なく、仕方なく、ランドキングビーさんがバルドイーグルさんをガクガク揺さ振って無理矢理起こすところを、私は見守った。心を鬼にして。立て!立つんだジ〇ー!
バルドイーグルさんがぼんやり目覚めたところで、ランドキングビーさんのお顔のどアップがバルドイーグルさんを襲う。再び気絶しそうになった所に容赦なくランドキングビーさんは鎌を突き付けた。複眼と顎が怖い気持ちは分かる。が、もはや何も言うまい。
「アンシェントリザードの翁の現在の居どころを知っているか」、とランドキングビーさんが例のごとく脅迫で聞くけど、今の場所なんてわからないと。バルドイーグルさんはピンクの地肌を真っ青にしながら全力で首をブンブン横に振っていた。嘘を吐いているようには見えない。
ダメとなると、じゃあ次だよな、次次。別のモンスターにどんどん聞いてまわろう。
バルドイーグルさんを解放してやり(刑期を終えた囚人のように晴れ晴れとした顔で去っていきました)、短い間だったけどお別れだ。
モンスターとの一期一会が重なっていくなぁ。いや、一期一会で済むのか?聞き込みを始めてから、いきなりこんな情報源が危うくなってて…。
………………。深く考えないでおこう。
複雑な心境の私とランドキングビーさんは、アンシェントリザードさんを知る他モンスターを探しに飛びだした。
ブーーーーーーン。
急いでいるため、普段よりも3、4割ほどスピードが速い。髪の毛が逆立っている。尊敬してやまない地獄の閣下状態です。
飛びはじめて間もないうちに、一匹で木に釣り下がり退廃的な空気を醸し出している孤高のハイドモスさん、それから、巣穴からイチャイチャしながら出てきたウッドラットの夫婦、そして、またもや一匹でいてボトッと地面に落ちてしまうが誰からも助けられずジタバタしていたハイドモスさんに、可愛い彼女に巣穴から逃げられてしまい悲しみに暮れるウッドラットさんに遭遇。対照的で実に比較が面白かった。モンスター界にも人間界に通ずるものがあるよね。
この『ハイドモス』『ウッドラット』の二つは樹海や山で多いタイプのモンスターらしい。さらに両者とも知能は低く、そういうモンスターは他のモンスターを「おっきいの」「ちっさいの」「怖くてギザギザしてるの」「怖くてブンブン飛んで針があるの」などと特徴で認識し、名前は使わないんだとか。
アンシェントリザードは今何処にいるのかと、特徴で表しながらランドキングビーさんが訊ねる。
どうやらアンシェントリザードさんは土塊のような色をして凸凹で髭のある巨体をしているらしい。ふむふむ。
説明でみんな分かってくれたようだけど、どれも答えは一緒で「一番高い山じゃないの?」などと基本的なことしか返ってこなかったとランドキングビーさんは言う。こりゃ、ここら辺りじゃみんな同じ調子だろうね。
ということで一度、高い山まで行ってみることになりました。
そこにアンシェントリザードさんは居ないだろうけど、その近辺ならどこそこに行くのを見かけたよ〜とかいうモンスターが居てもおかしくないだろう、という考えだ。
道はもうバルドイーグルさんに教えて貰っているらしく、ここから太陽の日が落ちる方向へ5つほど山をこえた先の山(6番目?)が経験上、一番高いのだそう。
その経験上ってのが怪しいとこだけど、その山でアンシェントリザードさんらしき、四つ足でのっぺりしてて土みたいな色で長い髭があって相当な歳をくってそうなデカいモンスターがバカでかい巣穴で休んでいるところを以前見かけたことがあるんだとか。
…………の、のっぺりしてて髭ですか。のっぺりってのがよく分からんが、さっきもランドキングビーさんが言ってた髭って、ナマズとか中国の龍みたいな?それともスティック持った世界的有名コメディアンみたいな?スナック菓子のカー〇のおじさんみたいな?サンタクロースみたいな?想像が膨らみます。
それが果たして本当にアンシェントリザードさんなのかとランドキングビーさんに聞けば、バルドイーグルさんの言った特徴は結構的を得ていて、アンシェントリザードさんのことを指しているのはほぼ間違いないだろうと。
アンシェントリザード……一体どんなモンスターなんだろうか。がぜん興味がわいてきた。
■
一時間と時間がかからず、周りより爪先ほど高く見える6番目の山の、最高峰付近までたどり着いた。
やっぱり空を飛べるというのは強みだね。徒歩だとこうは早くいかまいて。
山の尖った先の方は寒いのか雪が積もっており、殆ど植物が生えてなくて、ごろごろとした大岩だらけ。
多分そこがアンシェントリザードさんの私的なテリトリーで、住みかとなっているんだろう。
その上の上部分のテリトリーにはアンシェントリザード(ドラゴン系)を恐れて滅多なことでモンスターは近づかないとランドキングビーさんは言うので、この山の緑があるところ、中腹からテリトリーの真下辺りを重点的に探すことになった。
ブーーーーーーン。
何かいないか。何かいないか。
探しはじめて間もなく、木陰にモンスターのシルエットを発見。
近付くとなんとまぁ、腰を振って交尾中の気まずい場面に出くわしてしまいました。
思わず接合部をガン見してしまう汚れた私を許してください神様。
水色の地肌に栗色の体毛。頬から顎に掛けて紺・オレンジ・白・赤の鮮やかな太い曲線が何本も入った体長1〜1.5メートルほどのマントヒヒだ。おしりを突き出している方の曲線は白だけだ。
性交に夢中なためかランドキングビーさんと私が2メートルとなく傍にいるにも気付かず、腰をズコバコ振るわ振るわ。……疲れないんだろうか。
ランドキングビーさんが水を差すように冷静な声を掛けたことによって、はじめて二匹はこちらに気付いてくれた。
二匹とも目を丸くし、二股に別れた長い尾をビーンと立てて固まる。そりゃそうだろな。
もう一度ランドキングビーさんが「おい」と声を掛けると、メスのほうがはっと我に返り、顔を隠して恥ずかしそうに「ヒヒーーン!」と悲鳴を上げて逃げていく。
オスが「ヒヒッ!」と即座にメスに手を伸ばして止めようとするが、それは届かず、メスは背を向けて走り去っていき、呆然と立ち尽くすオスだけが残った。行き場を失った手が寂しさを増幅させている。
…………………。
いたたまれないな……。すまねぇ、カップルよ。
「グルルルル」
このやけにカラフルなマントヒヒさんはビースト系の『ヴィヴィットバブーン』と言うモンスターらしい。
どこまでもマイペースなランドキングビーさん、素敵です。