22匹目 背後から近づくもの
「ワシ(・・)らのシマ何勝手に踏んどんじゃいワレ!ゴラァ!」などと適当にアフレコしつつ、ギャーギャー叫びながら何度か接近してきた別のバルドイーグルさんらを我らが組長が容赦なくパンパン打ち落としたりして。あれから更に1〜2時間くらい飛んだだろうか。あー、やくざアフレコ楽しかった楽しかった。
さあ、ようやく水平線に緑の山が見えてきましたよ!
火山地帯と樹海を遮るようにずらりとそびえ立つ連山。山に山が重なって、どこまで続いてんだってくらい横並びしている。
もしかして皆の言う火山地帯って、カルデラ地形の中部分のことを言ってたりするのかな。世界最大とかいう日本の阿蘇と比べてどちらが大きいんだろうか。
「グルル」
アンシェントリザードさんはこの連山で一番高い山に住んでいるらしい。なるほど、いくら穏和でもドラゴン系はドラゴン系ということなのか。大陸初期から生きているというアンシェントリザードさんの誇りは、戦時中から生きてるというおじいちゃんの誇りと似ている気がするんですが、どうだろう。
一番高そうな山、一番高そうな山か……。
高そうな山を見つけても、ちょっと先を進めば更に高い山が見つかって切りがないんですが。あと目測にも限界があるし、山が多いわ多いわ。
ランドキングビーさんは最後に一匹だけ生かして捕えているバルドイーグルさんの首に鎌をあてて、案内を脅迫している。ボス、それどこのヤクザですか。
涙をポロポロ流して震えながら、バルドイーグルさんは弱々しい小さな声でギャーギャー鳴いて、ランドキングビーさんに答えている。ううっ、サースティブレイドちゃんの幻影が。
しゅんと項垂れていると、突然ものすごい音が後方から届き、空に響き渡った。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
本当に突然で、びくっと身体が跳ねた。
状況をつかむ間もなく「しっかり掴まれ」と短くランドキングビーさんに有無を言わさぬ口調で命令されてたので、手足に力をぎゅっと入れて首を引っ込ませる。目蓋を閉じると、皮膚が空気の抵抗によって引っ張られ、燃えるようなスピードを感じた。空気が吸えなくて息が一瞬止まる。重く脳内で響くような目眩のあと、気付けば木の葉の中に私とランドキングビーさんは隠れていた。バルドイーグルさんは捨てたのか、ランドキングビーさんの腕には居ない。
……………何。何、何何何。今の爆音は、何。
ランドキングビーさんが眉間に皺を寄せて、上空をじっと仰ぎ見ている。ライノーセラスさんを森で見かけたあの時の厳しい表情だ。それにつられるように視線の先を追うと───────巨大な黄金体が、空に浮かんでいた。
眩しい黄金色の体皮をもつ、巨大な翼竜。幅の大きな二本の足が伸び、太々して安定感のある腹部に長い首があり、三つの頭が日本神話に語られる「やまたのおろち」みたいにそれぞれ意志を持って動いている。攻撃性の高い牙がサメのように何列にも口の中で生え揃ってて、頭部の角は闘牛みたいに雄々しく、身体全体が太く鋭利な刺に覆われている。
空を覆ってしまうような翼をはばたかせ、その場で滞空しながら、三つの頭はしきりに何かを探しているようだ。強烈な眼光の三白眼を炯炯と鬼のように巡らせ、妖しく玲瓏とした白く輝く火炎が、口から煙のように漏れている。
巨大で猛烈な存在が空気を圧迫して、肌がびりびりする。身体が音を立てて震え上がってて、このモンスターから視線が外せなかった。ランドキングビーさんが成体になって初めて姿を見た時の冷厳さとは次元の違う、総てのものに与えられる爆発的な恐怖。荒ぶる力と、破壊の権化。
その姿は最強の名にふさわしい。
今すぐここじゃないどこかに行きたい。逃げたい。怖い。怖い怖い怖い。何なのこのモンスター、怖すぎる。
ランドキングビーさん。ランドキングビーさん…!
「─────グルルル…」
暴君『サンライトドラゴン』。
あれが件のモンスター。
どうして、こんな所にいるのだろうか。いや、この連山はもう火山地帯に含まれていると言ってもいいんじゃなかろうか。縄張り付近どこで遭遇しても、決しておかしな話じゃなかったんだよ。
ランドキングビーさんは一心にサンライトドラゴンを見ている。相手の動向を見極めようとする野性を感じた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」