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19匹目 これから

 私が頬擦りをピタリと止めると、ランドキングビーさんは静止した私の背に鉤爪が当たらないように手を回すことで、なんとか落ち着く位置を掴んだようだ。

 満天に広がる星星が光り輝いて、何ともロマンチックな演出をしてくれてます。残念なのはこうして抱き合ってるのが人間の彼氏ではなく、モンスターだということだろうか。ん〜〜〜っ。ま、いいか。この際なんでも。


 ランドキングビーさんは、穏やかに、淡々と、マザーツリーさんとこれからのことについて話しだした。


 《単独行動ができるような能力がハナには備わっていないため、仲間のいる元の群れまで戻してやろうと、私は大陸の生態や地理について博識であるマザーツリーの元へ赴いた。

 しかしマザーツリーは、ハナの同族の所在について「持ちえる情報のなかでこのようなモンスターは他に大陸に存在しない。対処に窮する」と首を振り、満足のいく答えは得られなかった。

 モンスターには多少なり同族がいるものなのだが、マザーツリーの言い分を鵜呑みにすると、ハナはこの大陸に一つしか存在していない種であることになる。それからハナという特異な生物をどうするかについて、私なりに様々考えた。

 山田花子───ハナはこの大陸について何も知らず、一人ではろくに食糧も捕れず、武器となるものは何一つ身に備わってなく、私が少し触れただけで血を流してしまうほど身体は脆弱で、直ぐに疲労し、体力もそう長く保たない。加え、何故か私以外のモンスターとは意志疎通が不可能だ。弱者に厳しいこの大地に一人放れば、自力では三夜ともたなく命を潰やすであろう。かと言って保護することで、私に利益をもたらすとは考えにくい。

 しかし一からこの大地を教え導くことや、生活の世話を焼いてやること、共に傍で在ることに煩わしさや苦痛といったものは不思議となかった。種族名や“にっくねーむ”をその口で呼ばれると、ランドキングビーという種の内の一個体に過ぎない私が然も特別であるかのように思え、胸の何かに響いては、甘く心地よい波動をもたらす。それを貪欲に、更に欲しいと願っている私がいる。

 これも何かの因果かと思い込むことにした。お前の意思さえ良ければ、長らく連れにしてやるが、どうする────》




 そう言って、ランドキングビーさんは私の顔を覗き込んできた。



 ──────…な、なんだか盛大に愛の告白(プロポーズ)をされたような気分なんですが。


 ど、ど、どどどどうしようマミー!ランドキングビーさんの言葉が嬉しすぎて恥ずかしすぎて虫の居所が悪すぎる!あ、今のは決して駄洒落とかじゃないからね!いやいやいやそうじゃなくて!照れるのってやっぱり自意識過剰なのかな!?過剰反応しすぎ!?

 ランドキングビーさんに、私が思っているようなプロポーズとか愛とかそんなつもり一切ないとは分かっちゃいるけど!私を少なからず気に入ってくれているだけで、連れてってやるってのも荷物が増えちまうけどまぁいっかな〜くらいにしか思ってないのは分かっちゃいるけど!


 いまの私の顔は、多分、いや絶対に真っ赤だ。無感情だと思っていたのに、私を思って行動してくれていたことがすごく嬉しくて、なんだか照れくさくて、胸がドキドキして、ランドキングビーさんの顔がまともに見れない。心臓がうるさい。顔から湯気が出てるんじゃなかろうか。

 ちょ、ちょっとタイム。落ち着けよ私。ターーーイム!

 暫時、間があった。話を整理するため落ち着こうと黙るはいいが、すっかり答えるタイミングを逃してしまう私。ランドキングビーさんはそんな私の答えを待ってくれていたが、やがて痺れを切らす。




「グルル」




 お前はどうしたいか──。

 そりゃ、もちろんランドキングビーさんの保護下に居たいよ。帰る方法を探せるかもしれないし、ここはモンスターばっかで一人じゃ怖いし、一人ぼっちも寂しくて嫌だし、ランドキングビーさんは強くて頼りになるし、今さらランドキングビーさんを捨てて私の面倒みてやるっていう奇特なモンスターを探すのは骨が折れるし出会えないかもしれないし、話せないかもしれないっていうのが本音だよ。

 でも、でもね、ちょっと違う理由もあるんだ。ランドキングビーさん、すごく頼りになるのに時々可愛くて、もっと見ていたくなる。はじめは容赦なかったけどだんだん力の加減をしてくれてるのが分かって、すごく嬉しかった。それ以外にも私なんかを気遣ってくれて優しいし。一緒にいて楽しいことが、沢山ある。一人だったら発狂してしまいそうな状況なのに、空飛んでた時とか自分の置かれた立場も忘れちゃって、ちゃんと私、心の底から笑えてたんだよ。

 だけど私が生きようとしているのは、此処じゃない帰る場所があって、そこに戻りたいからなんだ。帰りたいのに、私の我儘でランドキングビーさんを利用してしまうことは避けられなくて、凄く凄く胸が痛くて苦しいんだよ。

 とてもとても短い間を過ごしただけだけど、ランドキングビーさんがすごく優しいこと、十分知ってるから。利己心のまま動きたいのに、感情が叱責して、何を選べばいいのか迷ってしまう。


 ありのままに私がそう言うと、ランドキングビーさんの鉤爪の裏で、顎の下を持ち上げられた。強制的に顔を上げるはめになる。あっ、あっ、いまは見られちゃ駄目な顔なんだって。




「…グルルルル」




 喜んだり、目や鼻から汗を流したり、忙しい奴だ。呆れた声で言いながら、ランドキングビーさんの爪が鼻の下に触れた。汚いですよ。

 というか、ランドキングビーさんがいきなりこんな話題に入るからだと思うんですけど。ズビッ。

 う〜〜〜〜っ、この女泣かせめっ!罪なモンスターだよ、全く。




「────グルル、グルルル」




 《私の事ならば気にしなくていい、これは私のエゴでもある。私に連れられるか、ここで離別し、別のものを頼るか。お前はどちらがいい。その意思のみ知りたい。》

 間髪入れず大きな声で「連れてって欲しいです!」と答えたら、ランドキングビーさんは一つ頷き、「もう寝るぞ」と私を肩に抱えて地面を蹴りあげ、飛び出した。


 ブーーーーーーン。


 えっ。………ああああっ!干してある私のパジャマと下着達が取り残されてゆくーーーーーーーっ!!


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