18匹目 無駄に王道ですか。
パジャマやパンツ、ブラにキャミソールを順に洗ってよく絞り、そこら辺の苔の上に適当に広げて干して(枝が届きませんでした)。やっと洗えた〜と満足していたところで、自分のひとつの失態に気付いた。
────乾くまで何着ればええねん、わし。
全裸?それまで全裸を曝すのか?何か大切なものを失わないか?頭を抱えて考えていると、聞き慣れた翅音が聞こえてきた。ブーーーーーン。その音は次第に大きくなる。頭が一瞬真っ白になった。
うそ。起きて……いや、こっち来てんじゃねーよ!なぜ来るし!うわーん!どうしようどうしよう!服乾かしたいのに、もう一度濡れたまま着るの!?
慌てふためいていると、波打ち際から「グルル」の鳴き声が。居るのか────はいもちろん居ますとも。私がいること分かってて聞いてますよね旦那。顔と声が私の方に向いてるんですが。
結局水面から顔だけ出して、首から下の身体は水中に隠すことによりこの場を凌ぐことにした。なんじゃこのお約束的展開。
「グルルル」
「いや、あの、ここで何してるかって、身体を洗ってたんだけど…」
「グル」
「こ、こっち来いって言われても、いま着るものがなくて……」
「グルルルル」
勝手に離れるなと言われても、アレはほとんど不可抗力でして。以後拘束は外さないようするって………む、無茶言うなぁ。
……でも、それだけ言ってくれるということは、もしかして、何も言わずに居なくなったから心配してくれたのかな。だとしたら悪いことをした。謝っておかないといけないよね。
「…ごめんなさい、ランドさん」
「グルル」
許しの言葉と同時に、白いものがランドキングビーさんの口から飛び出て、真っ直ぐ私に伸びてきた。えっ?それは水中に入って私の手首を絡め取ると、強い力でグイっと引っ張り上げて────私は水中より華麗に一本釣りされた。
スローモーションで宙に浮きながら、体より滴る飛沫が月明かりによりキラキラ輝く。屈強な男達の「そいやっ!そいやっ!そいやっ!そいやっ!!」という盛んな掛け声の幻聴がバックに聞こえた。
…って、うわあああああああああああああーーーーーーー!!釣り上げられてしまったあああああああああああああああ!!!!
触手のような糸でランドキングビーさんの前で宙吊りにさせられ、ぶらぶら揺れる。精霊信仰の生け贄さながらの、この状況。一体誰が望んだ。
ランドキングビーさんは黙り込んで、めっちゃこっちを熱く見てます。私もそんなランドキングビーさんから不思議と目が離せなかった。身体のつくりを観察しているのか、首から鎖骨、Cカップの胸、おへそ、デリケートゾーン、太もも、ふくらはぎと、順番に複眼の上に体が表れる。うううっ…デリケートゾーンの時間が長いのは気のせい!?減る減る減る何かが減っていく!早く降ろしてくれないでしょうか!いくら私でも一応女の子でして…!いや、あの、下から往復しないでくれませんか。
「─────グル」
三往復くらいしただろうか。長かった。ランドキングビーさんの気は済んだようで、意外とすんなり降ろされた。とれるもんなら金をとってやりたいところだが、そこまで自分の身体に自信がないため、私は何も言わなかった。だ、だって、だってお腹とかプニプニしてるし、胸の形だって綺麗なお椀型じゃないし、お尻も肉付きがよくて(エンドレス)。
あれ(パジャマ)に似たものがあればいいのかと聞かれ、聞いてどうするんだと思いながらも頷く。すると私を釣り上げた長い糸束を、鉤爪を使って残像さえ残さないスピードで編み込み始めた。シャシャシャシャシャシャシャシャ…。目を白黒させている内に、ランドキングビーさんの手にはいつの間にか柔らかそうなタオルケットが2枚も。
うわ…うわうわうわ!な、なんということでしょう!スゴいこのひとスゴすぎる!
ぱさりと頭に掛けられて、私はすかさず1つは胴体に巻き付け、もう1つはマントのように羽織った。
「グルル」
「いやいや足ります足ります!十分足りてます!うわぁ、すごくすごく嬉しいよ!擦り剥いてパジャマボロボロだったから何か他のに着替えたかったけど、ここじゃ期待できなかったから諦めてて、本当に本当に嬉しい!」
「グルル」
「いや、あの、今はいいんだけど、これが汚れたり破けたりしたときにはお願いしてもいい…?」
「グル」
「〜〜〜〜〜〜っ…!!ありがとうランドさん!ありがとう!大好きー!」
感極まって熱烈ハグ。胸部に張り付いて頬擦りする私に、ランドキングビーさんは落涙時以上の狼狽えをみせた。「おい」「こら」「まて」なんて言いながら、手をどこにやったらいいのか分からないようで、せかせか動かしている。
うーん。ボス、可愛いです。