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17匹目 一宿り

 日も暮れてきたことだし、今夜はマザーツリーさんの身体の中で休ませて貰えることになった。

 一体どうやって?と思いきや、うようよとマザーツリーさんの身体(幹)が変化して、大人5人は優に入れそうな空洞が開いていくではありませぬか。自分の意思で身体の部分を自由に変化できるとなると…これはウッドマウスさんに寄生されてたんじゃない、させてたんだな。なんとも優しいモンスターだ。

 中に入ってどんなもんかと確かめてみれば、ふわふわ羽布団のように柔らかくて温かかった。素足と薄着にまで優しいなんて。よく眠れそうなので、マザーツリーさんにお礼を言う。呼び掛けながら、しまった通じなかったかと思い出して言葉を切ろうとしたら───中の壁から触手が伸びてきて、ゆっくりと頭を撫でられた。よしよし、と。

 ……ランドキングビーさんったら何やら深く考え込んでいるようで、マザーツリーさんと話を終えてから「ここで一晩過ごす」等という義務的な通達以外は何も話してくれないし、「これからどうするの?」なんて聞くのも怖くて不安が続いてたから、不覚にもぽろっと出ちゃった。鼻水が。涙は目蓋の(せき)に止められてるというのに、こういった場面で女子力の低さが露呈されてゆく、やるせなさ。来世では素直に涙の流せる可愛い女の子に産まれたいです。



 とまあ、そんなこんなで私とランドキングビーさんが入ったマザーツリーさんは湖の前に留まり(偶然!)、そこで一夜を過ごすことになった。湖の前で留まったのは、地面と接する根っこで水分を補給するためみたい。地面に刺されないから、定期的に陸にある水を摂らないと生きていけないらしい。


 きらきらと水面(みなも)に月光が反射して、とても幻想的で美しい。さっきは断片的に見ただけだから湖があるという認識のみだったけど、いざ近づけばなんとまぁ、海かと思ってしまうくらい大きな湖なんだよね。東京ドーム3〜5個くらいの容積がありそう。何個もひょうたんがつなぎ結ばれたような、湖の集まりです。

 ちらりと流し目すると、空洞の奥にはランドキングビーさんが立ちながら腕を組み、壁に体重をかけてじっとしている。目蓋がないから判別つかないけど、多分睡眠に入っているんだな。少し頭が前に傾いてるし。

 なんだか眠れないので、空洞の崖端に寝そべって下をじっと覗きながら思うわけですよ。文字どおり鬼の居ぬ間の洗濯、いや、鬼の寝てる間の洗濯。



「……湖行きたいなぁ……」



 くんくんとパジャマの汗の染み込みを匂っていると、言葉の通じない筈なのにそんな呟きを聞き取ったのか、動作を見て察してくれたのか、単なる一方的な好意なのか。マザーツリーさんの触手が脇に滑りこんできて胸や肩を拘束し、抱え上げられた。



「えっ」



 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる…。

 あ〜〜れ〜〜〜。

 驚く間もなく、そのまま地表までスライド一直線。なんか遊園地にこういう垂直落下型のアトラクションがあったなぁ。

 浮遊感を感じて数秒後くらいには湖の前まで来てて、ちょこんと降ろされた。あっという間の出来事で、もう、ポカーンですよ。




「…………え?入っていいの?入れってこと?」



 我に返ると後ろに下がって待機する触手に聞いてみるが、何も応えてくれなかった。そうだよね、言葉は通じない筈だし。

 まぁいいわ。念願の水浴びを前にして一々細かいことを気にしてられるかってんだ。現金バンザイ。


 えー、コホン。

 わーーーーーーーーーーい!水浴び水浴び!水浴びだあああああ!!ヤッホーイ!!やったあ!!


 すぐさまパジャマと下着を脱ぎ捨て素っ裸になった私は、波打ち際へ子供のようにはしゃぎながら向かった。

 ハイテンションにつき某有名泥棒アニメ主人公みたいなダイブを決めるが、バシャーン!!と水面に腹部強打で失敗。いたたたた…真似するもんじゃねぇな、コレ。気を取り直して頭まで潜り込む。ぶくぶくぶく。中は透明で、水底の石の一つ一つが見えること見えること。

 しっかし、ぬるいなこの水。温泉かな?そういや火山地帯に隣接するって言ってたよね、赤サイのあんちゃんが。

 ラッキーにラッキーが重なって、この上なく上機嫌です。うふふ。水底にある具合のよさそうな丸い石を手に取り、頭を出して半身浴。鼻歌を歌いながら腕から順番に身体を石で擦っていく。うわうわ、手首から垢がめっちゃ出る。ごしごしごしごし。

 身体を洗っていると、岸にチィチィ鳴く2匹のモンスターが見えた。月明かりのみなので確かではないけれど、深緑の丸々とした毛玉は、噂に聞いたウッドマウスさんでは。マウス(ねずみ)というより、アルマジロみたいな、のっぺりしたフォルムだ。あっ、アルマジロも一応ネズミだったな。

 仲睦まじく毛繕いをしあって、イチャイチャイチャイチャしやがっている(ようにみえる)。…………………ケッ。いい身分じゃねぇか。精々いっぱい子供産んで幸せになってくれよ。

 泣いてなんかいないぞ、泣いてなんかいないからな。ぐすん。パジャマ取ってきて洗おう。

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