15匹目 樹海の探しもの
「シーシー」
「バイバーイ!」
始終怯え続けていたハイドモスさんに別れを告げると、さも用はすんだと言わんばかりにランドキングビーさんは私を肩に抱え、森の中を飛びはじめた。
長かったような短かったような散歩も終了のようです、はい。
ブーーーーーーン。
ふたたび木々の間を縫うように進んでいく。
相変わらずヤシだかヒノキだかどっち付かない大樹じゃないの、あなたたち。けれど不思議と見てて飽きないな。
…………あ。なるほど。出そうと思えばさっきのように視界が追い付かないようなスピードを出せるのに、何で始めから出さなかったのかなと思えば。別に急ぐ用じゃないから、今みたいに景色を眺める余裕のある速度で飛んでたのか。だからこの森を知った風なモンスターに出会うまで、私を散歩させてやったということか。
急ぐでもなしに、何を目的にここへきたんだろうね。
「さっきハイドモスさんと話してた『あそこ』は、どこの事を言ってたの?」
「グルル」
「この森の『マザーツリー』?そこにいくの?」
「グルルル、グルル、グルルルル」
あれっ、場所じゃなくてモンスターだったか。
曰く、『マザーツリー』とはここみたいな樹海にのみ棲息するプラント系モンスターで、さっきのハイドモスさんとの会話は、そのモンスターの出現情報を得ていたらしい。
マザーツリーさんは長命で長く生きているぶん賢く、この大陸のことなら何でもわかる物知りさんなんだとか。
ここの木(十数メートルはありますけど)が子供に見えてしまうくらい大きく、モンスターの中では最大らしい。
そんじゃさぞや見つけやすかろうと思いきや、普段は身体を半透明の姿にしていて、モンスターの眼では映りにくいときた。
なので探すにあたっては、そのマザーツリーに寄生しうろちょろしている『ウッドマウス』という深緑の真ん丸としたビースト系モンスターを目印にするという。
聞くかぎりではそのマザーツリーさん、まるで妖精のようだ。でいだらぼっちだっけ?だいだらぼっち?ファンタジーだなぁ。いや、いまさらか。
うーん、でもねぇ。そのウッドマウスさんとやらはどうやって見つけたらいいんだろう。透明の具合にもよると思うけど、マザーツリーさんの体の中にいたりしたら分からないのでは?旦那。
「グルルル」
──へぇ。半透明になるのはマザーツリーさんだけで、ウッドマウスさん自体はそんな能力がないから空に浮いたような状態になってるのか。…じゃあ赤裸々な私生活がみんなにバレちゃってるね。
そうだ昔、透明な部屋を市街に仮設して皆に覗かれながら芸人さんとかが数日暮らす番組あったなぁ。懐かしい。
寄生する意味はなんなんだろうね、一体。透明じゃ何かと敵に狙われやすいだろうに。
「───グルル」
「おおっ、この辺か」
ハイドモスさん達の言うには、この辺りらしい。どこを見ても同じような森なのに、方向感覚めちゃくちゃいいですよねランドの旦那。
ガサガサガサガサガササササ!
急上昇の圧に耐えながら厚い葉っぱの層を弾みよく一気に突き抜けると───緑、緑、緑、とにかくあたり一面が緑だった。
大地いっぱいに広がる樹木たち。樹の海と書いて樹海、まさしく樹海だ。放り捨てられたら迷うな、完全に。
あっ、あんなところに湖があった!湖畔っ!行きたい!水浴びしたい!…けど今は我慢だ我慢。空気を読もう。
さてウッドマウスさんを探しますぞ、と。裸眼視力1.0が頑張らせていただきます。
気合いを入れ、注意深く視線をゆっくり巡らせていると、前方1キロ先くらいに薄ぼんやり茶色をしたばかでかい透明の円柱(?)を発見。いや、円柱じゃないな。真っ直ぐだけど不規則な凹凸のあるあれは、確かに幹だ─────ああ、『マザーツリー』!木か!
うひゃー、噂に違わないジャイアントぶり。セコイアだな、ありゃ。スゲー…初めて生で見た。今は全く雲がないから分からないけど、乱層雲くらいなら余裕で届くんじゃなかろうか。
ちらりと横にあるランドキングビーさんの顔を見ると、まだ左右に動かしてて、アレが見えてないようだ。私は普通に見れてるんですけど、モンスターと眼の作りが違うのかな、やっぱ。それとも長きにわたる地下生活で目がまだ慣れてないからか。
ともあれ、報告だ報告。
「ランドキングビー隊長、ランドキングビー隊長!こちら隊員花子、目標のマザーツリーさんらしき物体を前方に確認しました!」
「グルル?」
「本当です!天に届きそうなくらい大きな幹をしています!透けてます!」
「グルル」
…褒めてくれた。大したことじゃないけどこの年になっても嬉しいもんだなぁ、褒められると。お礼にスリスリしちゃお。クロガネのように黒光るランドの旦那の胸部を頬で堪能しながら。
ブーーーーーーン。
セコイアへ、いざまいらん。