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10匹目 オモチャと雌

 ちょっと分けて貰った糸束を指に巻いて歯ブラシ代わりに使いながら、てくてく森の中を進んでいく。武士につまようじ、花子に糸ブラシってか?

 すぐ後ろには保護者のランドキングビーさんが、手綱を握りながら付いてくる。お世話になります。

 さっきは失礼にもピーちゃんと重ねてしまったけどね、考えてみりゃ立場的にピーちゃんなのは私だったよ。あっはっはっは。バカだなぁ、私。


 てくてくてくてく。


 景色は相変わらず、木ばっかり。それにしても静かな森だね、小鳥のさえずり一つないよ。

 鼻孔に清涼感。緑の匂いって、感じとるものだったのかと初めて学ぶ。ひんやりとした風が、頬を(くすぐ)り、髪を揺らす。

 日があまり届かないから、ここは涼しいなぁ。森林浴やで、森林浴。癒される…。

 何気なく足を見ると、土や苔が足背や指にこびり付いていた。爪の隙間にも入り込んでる。うへぇ。

 そうなんだ、なんだかんだで意識から外れてたけど裸足なんだよね、私。…しまった、意識したら気持ち悪くなってきちゃった。当たり前のようになっていた文明(靴)の偉大さをこんな形で味わうとは、人生って何があるか分からないもんだなぁ。

 しみじみしながら苔に擦り付けるように汚れを落としていると、後ろからビンッと腰の糸が強く引っ張られ、尻餅をついて()けた。



「あたっ!」


 お、お尻が、お尻がぁ…!苔がクッションになったとは言え、私、立ってたんですけどォ!安産型だったから良かったものを、貧相な尻だったらパックリ割れてたぞ!(?)

 尻をさすりながら不機嫌顔で引っ張り犯を振り向くと、意外と近くに居てビックリ。さっきは3メートルくらい離れたところにいたのに、何故に目の前へ。見上げると、複眼をギラリと光らせながらランドキングビーさんってば、めっちゃこっち見てます。

 えっ、何か私したっけ?

 冷や汗をかきながら自分の行動を急いで思い起こしていると、鉤爪で足首を取らた。チクリと針を刺したような痛みで、身体に震えが走る。



「痛いっ!」



 そのまま持ち上げられ、視界が180度ひっくり返る。反射的に手を地面につけると重心は私に移って、はい、逆立ちのいっちょ出来上がり。

 …………逆立ちなんて、体操の授業以来だなぁ。久しぶりにしたよ。しかも凶器で補助付きときた。

 ランドキングビーさんは私の足をじっと見ている。何か気になることでもあったのかな。



「…グルッ?」


「…いや、別に足に怪我とかはしてなかったんだけどね。今まさに貴方の爪で流血中という」


「…グルル」


「───なんでランドキングビーさんは謝ってくれるの?」


「グルルルル」



 思ったことを素直に伝えてみたら、「お前は雌だろう」という答えが返ってきたよ。そっと足が離されたけど、私は逆立ちしたまま凍った。

 これは何とツッコミすべ…違った、コメントすべきなの。この性格や口、没個性的な顔等のおかげで人間の男には「良い奴だけど」評価でずっと友達止まり、女として扱われた経験がなしというのに、モンスターには一人前に雌認定。いや、待て、落ち着け私。それよりも問題は、先の「珍しい生物」ではなく、「雌」と認識が変わっていることじゃないの。………………。あれか。排泄のくだりでか。



「グルル?」



 違ったか?───いや、確かにヒト科ヒト属ホモサピエンスのメスになりますけども。こう、私の中の何かがせめぎ合って、複雑な気分になる。


「い、いや、合ってるよ。私は…雌で、す」



 雌ですけども。

 雌と認められていることに若干の貞操の危機を覚えている私は、自意識過剰なんだろうか。

 ランドキングビーさんからアピールとか、求愛っぽい派手なアクションや、言葉もなかっ────いや、本当になかったか?あの水や果実や木の実はどうなるんだろう?

 ぐるぐる考えを巡らせている内に、血の出てしまったところに糸が包帯のように巻かれていた。キツすぎず緩すぎず、丁度良い。

 ───そう、たまに加減ができていないけど、ランドキングビーさんは私に優しい。それはオモチャを大切にしているのか、子孫を残すため雌の機嫌をとっているのか。知るのは、怖い。もしも、もしも仮に後者だとしたら、私は…?私は?


 うわ、どうしよう。ランドキングビーさんにどう接したらいいのか分からない。

 バカ、何やってんだ早まりすぎてるだろ私。落ち着け、落ち着け、落ち着けって。

 ボスンと背中から倒れると、ランドキングビーさんの頭部らしきものが上から覗き込んできて、目尻を鉤爪で触れた。今度は刺さらない。



「…グルルル」


「こ、これは流血でなくて…あの、目の汗です。あの、あんまり、私を混乱させないで、いただけませんか。心臓にわるくて、寿命、縮んじゃう」


「グ、グルル」



 うん、善処すると言ってくれるのはありがたいんだけど、その気遣いで更に不安が大きくなってしまうんだなコレが。どうしようもねぇな。

 ────考えても仕方のないことみたいだから、いっぺん泣けるだけ泣いてスッキリさせることにする。

 右往左往して動揺をみせるランドキングビーさんなんて初めて見るし、面白いからね。


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