1匹目 アイアムジャパニーズガール
サークルの新歓(新入生歓迎会)だったんだよ。朝方までカラオケでワーワー馬鹿みたいに騒いで、足もちの先輩がアパートまで送ってくれて。
部屋に帰って、入学式と合わせてまだ二度しか着てないスーツを脱いで、発展途上にある下手くそな化粧落として、うとうとしながら歯を磨いて。
起きたら風呂を済ませようと思って、ベッドに飛び込んだんだよ、うん。
そうなんだよ。多分、帰った筈なんだよ。
筈なんだよ、筈なんだよ、筈なんだよ……(フェードアウト)。
…ここはどこなの。
山田花子、これからますます膨らむであろうキャンパスでの新生活に胸を躍らせ続けていた18歳。おとめ座の乙女、B型。
───いきなりですが、乾いた風の吹く荒野からどうもこんにちは。
こちら前後左右、見渡すかぎり赤茶色の岩山だらけ。天は雲一つなく快晴そのもの。岩陰に避難しているのですが、気温は真夏のように暑くて、さっきから汗がボタボタ垂れています。そして、人の気配はなし、と。
見慣れぬ荒れた大地にて、私、ぽつんとパジャマ一つで素足。場違い感、アウェイ感、共に絶好調。
どうやら現在、遭難中のようです。
「…アメリカ?ステイツ?ウエストサイド?」
モニュメントバレーやウエスタン映画で見た光景に近いから、アメリカ西部だと思うのだけれど。
一体何の目的があって一般善良市民の私をここまで拉致したんだろう、謎のカルト組織は。
否、テロリスト集団か。はっ!まさか、どこかの工作員と間違えられたとか………………映画の見過ぎか。
しかしドッキリや悪戯にしては、やり過ぎだよなぁ。
…………………。
そうか、なんだ、夢だったのか。
傍にあった硬度が高そうな岩に額をぶつけてみる。痛い。当たり前だよね、ぶつけたんだから。
念のためもう一度。やっぱり痛い。
おうおう神様、やっぱり夢じゃないのかい。そうなのかい。
努めて冷静でいようとふざけてみているけど、これが現実、だとしたら、かなり、怖いことだぞ。
まずどうやったら帰れるだろうか。
道路や轍、電線や石油のパイプ一つでもあれば、その先にある機関や施設を期待して、沿って歩くことも出来たのに。
あるのは自然に均された砂利に、3〜4メーターほどの岩々と、侵食されて芸術的な形になりながら連なる岩山と、ちょぼちょぼと点在する枯草だけって、どういうことなの。ねぇ。
コレが噂の放置プレイというやつか。いまどきの放置プレイって世界規模の域に達してるの?流行ってるの?流行らせてたまるかテメェこの野郎馬鹿野郎。
飲み物は?食べ物は?
川も池も何もない。枯草じゃなくて青々とした植物の一つくらいあってもいいのに。 どうやって食べるかは置いて、サボテンも無いなんて、どないなっとるんかい。ここ西部劇とちゃうんかい。
……違うよな、うん。映画はフィクションだ。
自力で歩くにも限度があるよね。水も持たずに炎天下のなか、水平線の向こうまで続いてそうな荒野で、人里を探し歩く体力はない。無いったら無い。ミイラ化してまうよ。
とすれば、誰かに見つけて貰うしかない訳ですよ。
飛行機、ヘリコプター…こんな岩ばっかの所で私が分かるのかな。最近のは速いし、よっぽど注意してないと見落とされそう。それ以前にココを通るのかな。
あとはアレだ。不法入国者を感知する機能とか人口衛星にないのかな。あんだけシャトル上げてるんだし。……いや、無いな。アメリカじゃ不法入国者なんてキリがないよね。
────オイオイオイ。
どうやって生き延びれと。神様、あんまりだよ。餓死プレイなんて。
「………誰かーー!!いませんかーー!!おーーい!!ヘルプミー!!ヘーーイ!!アイアム、ジャパニーズガーール!!」
しーん。山彦さえ帰りゃしないなんて。静かちゃんですね。私一人ということですか。
これは…寂しいなぁ…。
…………………。
…うわ、うわわっ。いやだ、この状況で一滴だって水分無駄にしたくないのに、だめだこれ、やばい、泣く。鼻水出てきた。
怖い、怖いよ、これ。怖い。どうしよう。怖い。夢なら覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めろ…。