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<約束の再会>第二部

数日後二人は少年の墓の前にいた。

「意味がわかったよ。お前はオレたちがどれだけ成長したのか知りたかったんだろ?」

ミュージシャンが言った。

「オレたちからのプレゼントだ。なるほどそれで“悔いはない”って言ったのか」

小説家が言った。

それからミュージシャンは、タイムカプセルの中にあったピックを使って、自分で創った曲を少年に捧げた。

小説家は“屋根裏の冒険”というタイトルの本を供えた。タイムカプセルの鉛筆を使って。


「少しは元気出たか?それじゃあな」

二人は墓を少し離れた。


そのとき二人は、遠くから二人をずっと見ている一人の女性に気がついた。その女性は二人に近づいてきて、挨拶をした。

「どなたですか?」

小説家が尋ねた。

「…その子の母です」

女性はうつむきながら答えた。

「失礼ですがそういった立場おかれていないということを、わかった上で言っていますか?」小説家がそれを咎めようとしたが、女性がそれを止めた。

「わかっています…私は逃げてしまったんです。本当にだらしない親だと思っています」

気まずい空気が流れる。


「何をしにここへ?」

小説家が沈黙を破って言った。

「あの子の名前、ちゃんとあるんです。それだけ伝えたくて…」

「では‥ぜひ聞かせてください」

小説家が言った。


「お墓にある貝殻…あれは昔あの子と海へ行ったとき見つけたものなんです。今でも残っているとは思いませんでした」

女性は一度言葉を切った。

「とにかく海を愛していました。海のように自由になりたいと言っていました。だからあの子の名前は“海”カイというんです」

「海……」

二人は口をそろえて言った。

「海のことはニュースで知りました。私はあの子に会うことは許されません。だからこれで…」

女性はそう言いかけて墓の方を見たが、驚いたように目を見開き、墓に近寄った。


「これは‥?」

女性が取り出したのは三人の宝物、蒼鷺の羽だった。

「あそこの空き家の屋根裏で拾ったのですが‥それがなにか?」

「帰る前に思い出したわ。昔の、蒼鷺のお話」

二人は顔を見合わせたが、その話を聞くことにした。


「昔‥と言ってもそんなに古くはないけれど…一人の貧しい少年がいた。その少年は病気にかかっていて親もいない苦しい生活だった。少年は蒼鷺を飼っていて…唯一の友達でもあった」

女性は、何の話かわかっていない二人を見て静かに微笑むと、また続けた。


「哀れに思った蒼鷺は少年に家を与えた。それが空き家の屋根裏よ」

二人はここで「なるほど」と心の中で思って頷いた。


「そして食べ物を運んだりして、助けてあげた。少年はその感動と感謝を忘れないために…同じ災難に遭った人が困らないために…屋根裏の地図を残して死んでいった。あなたたちが拾ったその羽は、きっとその蒼鷺の羽だと思うわ」

「そんなエピソードがあったとは…」

二人は感嘆の息をもらした。


「じゃあこれで…」

女性はその場を立ち去ろうとした。

「話してくれてありがとうございました」

ミュージシャンが言った。

「アイツ、言ってました。きっと優しいお母さんだって。なにがあって見放したかはわからないけど…オレも今日そう思いました」

女性は背を向けたまま聞いていた。

「だから忘れないでください。海のことも、たまには、名前を呼んでやってください」

女性は顔だけ振り向き、「ありがとう」と、美しい笑顔で言った。そしてその場を去っていった。


「これからどうする?」小説家がすまして言った。

「そりゃあ、自分の道を生きる!海がそうだったように…」

「似合ってないぜ!そんな言葉!」

「ほっとけよっ!」

「……まあ…そうだな、帰ろう。海もきっと笑ってる」

「お前も似合ってないって…」


二人は歩き出した。クローバーをしっかり踏みしめて、風を全身で受けた。

不意に、少年が呼んでいる気がして、二人は同時に後ろを見た。そして暖かい風が通り過ぎた。

二人は顔を見合わせて少し笑った。

二人はまた、歩き始めた。

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