反省のカード
「え、えっと……『薬草の精霊』のカードよ。特別な目薬を作れば……ね?」
「タロットカードに薬草の精霊とかあるん?」
律の顔色が青ざめ、ついに観念したように肩を落とす。
「あ、ごめんなさい……実は占いの結果を良く見せようと嘘をついてしまいました……」
健一は静かに、だが鋭く追及する。
「どこまでが本当なん?」
「睡眠不足と乾燥肌のことは本当よ。でも……結婚運とか恋愛運は、占いを盛り上げたくて……ごめんなさい。」
「視力の事は?」
律はうつむき、声を小さくする。
「視力の低下も……本当よ。医師に相談した方がいいって出たのは嘘じゃないの……」
「それは何のカードが示してるん?」
律はカードを手で覆い隠し、話題を変えようとする。
「……その話はもういいかしら? あなたの運命の相手は私なのよ?」
健一はため息をつき、皮肉っぽく返す。
「運命の相手やったら教えてや」
律は少し落ち着きを取り戻し、カードを指差す。
「『健康を司る女神』のカードよ。でも今は目の健康が心配……私の目薬を買いませんか?」
「目薬の成分教えて」
律は再び焦り、手を振る。
「あ、あの……申し訳ないけど、特製目薬の正確な成分は……企業秘密なの!」
「そんなん怖いやん。成分わからん薬とか使いたないやん。ちなみにいくらなん?」
「3万円よ……でも今なら2万円で! 占いと一緒に特別価格で提供できるの!」
健一の声に、呆れが滲む。
「お前、アコギな商売しとんな?」
律の頰が真っ赤に染まり、慌てて謝る。
「ご、ごめんなさい……占いに必死になりすぎて...でも私、本当にあなたのこと心配で……」
「心配で3万も取るん?」
律はうつむき、小声で呟く。
「……ごめんなさい。占い師として未熟でした。正直な占いをさせていただきます。」
健一は静かに頷く。
「うん。じゃあ健康運お願い」
律は深呼吸をし、カードを真剣に見つめ直す。声に力が戻る。
「睡眠、乾燥肌、視力……全て『要注意』のカードが出ています。今すぐ医師の診察を受けることをお勧めします。」
健一は立ち上がり、財布から1000円札を取り出す。穏やかに、だがきっぱりと言う。
「そやね。こういうのは占い師よりもお医者さんの方がいいよね。ありがとう」
1000円札をカウンターに置き、健一は店を後にした。律は札を握りしめ、涙ぐんだ目でその背中を見送る。カウンターに突っ伏し、小さく呟く。
「待って……私、本当に反省してます。正直な占いを……」
店内の空気が、重く静まり返った。外の路地を、健一の足音が遠ざかっていく。律はカードを片付けながら、今日の失敗を胸に刻む。
安い占いが、時に高価な教訓を生むことを、身をもって学んだ一日だった。
きっと、明日からは少し違う笑顔で客を迎えるのだろう。
偽りのカードの向こうに、本物の運命が待っていることを信じて。




