その後のSTORY
穂乃果は、1年後、また果敢にも同じ事務センターの募集に別の派遣会社を通してエントリーし、どういうわけか就業が決まる。
それをまたわざわざ舞白に知らせるのだ。
穂乃果は今度は、「殺されたっていいから元の職場に戻って今度こそ仕事続ける。」
「呆れかえって物が言えない。」と、また舞白は憤怒し、ラインをかえす。
「まだわからないの?
旦那さんにこのラインを見せて。
距離を置きたいのはわかるけど、精神状態 のばなしにして家に居てほしくないからって働かせるのやめてください。
殺されても働くって書いたラインも見せたほうがいいよ。」
穂乃果は舞白にこの時までに自分が精神を病んでいることは打ち明けていた。
書かれた通り夫にラインを見せた。夫の反応は予想通りに、舞白に対して怒りまくった。
穂乃果の夫は穂乃果より十歳上で定年退職していたので、生活費として穂乃果の収入は大いに有り難いものであった。なのでその邪魔をする者がいることはどんな理由であれ不都合なのだ。
穂乃果の夫は、ラインを読むなり得意の広島産の酷い脅し文句を舞白に投げ付けた。
舞白が恐れおののいているのがわかって穂乃果は、なんだ、なんだかんだ言っても舞白さんもまだ若いのね。と、ちょっとかわいそうな気持ちになった。
しかしながら、舞白は穂乃果が感じていたほどヤワではなかった。自分が正しいと信じ、ラインの内容をスクショし派遣会社のコンプライアンスセンターへ向かった。舞白からの情報により、穂乃果はその後、正真正銘、その職場を出入り禁止となった。
更には、業界内に噂が広まりどこからも雇ってはもらえなくなってしまった。
妻の収入をあてにしていた夫からは冷遇され、精神を病んでいた心は追い打ちをかけるようにすさみ、主治医から禁止されていたお酒に手を出した。もう転落の一途である。穂乃果の将来は暗い一本道を破滅へと突き進むのだ。
舞白は、久しぶりに美月から連絡をもらった。美月はかつて、舞白が穂乃果の夫から暴言のラインをもらった時に相談に乗っていた。「これは警察案件じゃない?」それだけ言い残し去って行った。
その美月が舞白を褒めてくれた。「舞白さん、やったわね。よくがんばったね。」
舞白は、真面目に派遣の仕事を勤め上げ、その働きが認められ、紹介予定派遣を通して正社員として働いていた。
美月と再会し一緒にお茶をした後で、舞白はお気に入りの美容院へ行った。
綺麗に髪を整えてもらった鏡の中の自分に満足気な視線を落とす。
舞白はもう、背後を振り返ることはない。正しく生きる者が、正しく報われる世界。それを自分の手で守り抜いた彼女の横顔は、冬の澄んだ空気のように清々しかった。




