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神隠しのその後  作者:
山の女神達
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4


 翌々日、月曜日。私と景明くんは、下田小学校に来ていた。


 服装は、私も景明くんも私服。

 私はシンプルなワンピースにカーディガンを羽織っている。景明くんは初め、着流しを着ていたけど、私が洋服に替えさせた。なんとなく、学校には合わないかと思って。


 景明くんは和服を好んで着ている。理由は、着慣れているから。なんか、誘拐されていた間、着物が普段着だったみたい。誘拐犯は着物が好きだったのかな。犯罪者と同じ趣味は遠慮したいから、嫌な気分……。

 だから、洋服を着ることに違和感があると、本人は言っていた。それでも、洋服数着を叔父さんが買ってあげていた。その中から上下を組み合わせて、着せた。


「お久しぶりです、紗重さん」


 出迎えてくれた先生を見て、私は驚いた。


「えっ、石原先生!?」


 記憶の中の姿よりもやや老いているものの、見覚えがある。

 石原先生(下の名前は忘れた)は、私が小学校六年生の時の担任教師だった。


「はい。今はここで教頭をしています」

「教頭!?」


 ものすごく驚いた。

 ただ、思い返すと、私が卒業すると共に教育委員会に転勤していた。そのまま、出世コースに乗ったのかもしれない。


「そ、そうなんですね……。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 互いに頭を下げ合う。その後、石原先生は景明くんを見た。


「藤田景明くん。今日は下田小学校に来てくださり、嬉しく思います。ぜひ、校内や児童の様子などを見て行ってください」

「はい……」


 景明くんがおずおずと頭を下げた。


 ドウカちゃんの言う、消えたワンピースの女の子を探す為、私達は下田小学校に入り込むことに成功した。

 部外者である私達だけど、誘拐されたことで下田小学校に通うことができなかった景明くんが、せめて中を一度、見学してみたいと学校に申し入れたところ、あっさりと快諾された。もちろん、ただの建前。

 学校側も、入学予定だった子供が誘拐されたことについては、心苦しく思っていたのかもしれない。


「……この学校は古いのですか?」


 玄関に入った時、景明くんに聞かれた。


「そうだね……。私が在学していたときに100周年を迎えてたから……」


 なにかしらのイベントがあった気がするけど、覚えていない。何年生の時に迎えたのかも、うろ覚え。中、高学年ぐらいだったとは思う。


「今年で創立114年になります」


 石原先生が教えてくれた。

 ということは、私が小学四年生の時に100周年を迎えたということになるね。


「長い歴史があるんですね」


 景明くんが周囲を見渡す。元は緑色だっただろう壁は色褪せ、ヒビ割れているところがいくつかある。


 私と景明くんは、家から持参したスリッパに履き替えた。


「今はちょうど、昼休みの時間ですね」

「昼休み?」

「給食後にある休み時間ですよ。体育館やグラウンドで遊ぶ児童も多いです」


 現在の時刻は、午後一時過ぎ。


 私も教室を飛び出して遊んでいた。身体を動かすことが好きだったので、廊下で鬼ごっこをして走っては、通りがかった先生によく叱られた。


「あっ、廊下は走ってはいけませんよ!」


 そうそう、こんな感じで。


 石原先生が目を向けた方を、私と景明くんも見る。中学年らしき男子児童数人がいた。


「はーい」

「ごめんなさーい」


 と口々に言って、速足でどこかへ去る。


「廊下は走ってはいけない決まりです」


 じと、と石原先生に見られた。これは覚えられているな……。私は思わず、目を逸らした。


「……走っていたんですね……」

「うぐ」


 景明くんに察せられてしまった。頼れるお姉さんを目指していたのに……。


「常習犯でした」

「その節はスミマセンでした……」


 私は項垂れるしかない。


「…………まぁ、今も……」


 今も……なに?

 私は景明くんを見る。そこで切らないで……と一瞬、思ったけど、やっぱり言わなくていい。とっくに成人してもまだ落ち着きがないと、先生に知られたくない。


 私達は玄関から廊下に出て、すぐ側の教室の前に立つ。


「ここが一年生の教室です」


 景明くんがまじまじと教室全体を見つめた。彼がなにを思っているのかは、私にはわからない。


「あれ。あの棚にあるの、タブレットですか?」


 気になるものがあって、つい聞いてしまう。


「はい、そうです。紗重さんの時にはありませんでしたね。三年前から全学年に導入されたんですよ」

「はぇー……すごいですねぇ……」


 私は学生時代、タブレット端末を支給されたことはない。中学までは、スマホも学校に持って来てはいけない校則だった。そこら辺も、今はどうなっているのかな。


「お陰で、テレビもよく使うようになりました」

「私の時は、食後の歯磨きの時にビデオが流れてるぐらいだった気がします……」


 テレビは全てのクラスにあったと思う。ただ、授業で使われることは少ない印象だった。時代の移り変わりを感じる。


「きょーとーせんせー! その人たち、だれー?」


 廊下から一年生らしき児童達が声をかけて来た。


「見学の方ですよ。挨拶をしましょうね」

「「「「こんにちはー!」」」」


 元気いっぱいの挨拶を笑顔でされる。うーん、可愛い。私はつい、相好を崩した。


「はい、こんにちは」

「……こんにちは」


 景明は相変わらず、無愛想だけど。


 不意に、児童の一人が寄って来た。


「しーちゃんのママ?」

「は?」


 誰がママだ、と思ったが、相手は小学生。ここは優しく――


「ううん。お姉さんはしーちゃんのママじゃないよ」


 訂正する。


「しーちゃんって誰かな? お姉さんに似てるの?」

「お姉さん……」


 景明くんや、不思議そうに瞬きをするな。私はどこからどう見ても、若いお姉さんでしょうが。


「おともだち。しーちゃん、いつもお姉ちゃんみたいな服着てるから」


 私は今の自分の服装を見下ろす。膝丈の白いワンピースと、クリーム色のカーディガン。


 ふと、脳裏にチラつく影があった。


「それは……白いワンピースのこと?」


 景明が問いかける。


「うん!」


 児童は力強く頷いた後、


「あっ、でも、こないだは赤かった」


 と付け足す。ドウカちゃんの言う女の子と同一人物である可能性が高そう。


 私も思い切って、聞いてみた。


「もしかして、そのしーちゃんって、こう、髪を二つに結んでる……」


 私は両手を握って、頭の左右に付ける。


「うん! いつも右と左でちがうシュシュつけてるんだよ!」


 衝撃が走った。私、その子のこと、知ってるかも。


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