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神隠しのその後  作者:
鳥×母
16/17

7


 本来であれば、十一月十五日が七五三の日とされる。

 だけど、今日はあいにくの雨。せっかくの土曜日でもあるというのに、七五三目的の参拝客はほとんどいない。


 念の為、タオルを沢山用意しておいたけど、あまり必要ないみたい。それはそれで、洗濯物が減るからいい。


「ほら、紗重ちゃん、ボーッとしない!」

「あっ、はーい」


 祖母ちゃんに尻を叩かれた。


 本殿にいる叔父さんのところに持って行けと、謎の資料を大量に渡される。お、重い……。


「一ミリでも濡らしたらダメだよ」

「ひどい」


 叔父さんが難題を言うのは、祖母ちゃん譲りかもしれない。


 外を見ると、雨足は更に強まっている。いくら傘があると言っても、跳ねる雨は防げない。もうちょっと雨が落ち着いたらでいいかな。


「お?」


 社務所の窓から外を見ていると、見覚えのある人の姿を見かけた。資料の山は畳の上に置いたまま、私の足はそちらに向かう。


 隣の授与所に行くと、景明くんがいる。

 お守りやお札を置いているカウンターの目の前には、景明くんと向き合うように一人の男性が立っていた。健太くんだ。


「先日は愛奈に会わせていただき、ありがとうございました」


 雨天とは対照的に、どこか晴れ晴れとした表情で彼は言う。


「ちょうど昨日が前妻の命日で、長女の誕生日だったんです。それで、長女の骨を前妻が眠っている墓に一緒に入れてきました。でも、どうしても手放し難くて、分骨はさせてもらいましたが」


 骨の一部を分けて、手元供養するということかな。


「いいのではありませんか。子供は、父親も母親も問わず、どちらともと一緒にいたいと思います」


 幼くして親から引き離され、そのまま生きて再会できなかった景明くんが言うと、強い説得力がある。

 景明くんも、ずっと両親に会いたかったんだろうな。


 伯父さん、伯母さんも、景明くんに会いたがっていた。


「そうだと嬉しいです」


 健太くんはホッとしたように微笑んだ後、少し身体を傾かせる。なんだと思ったら、目と目が合った。


「紗重ちゃんも、ありがとう」


 死角に入っていると思っていたけど、普通にバレていたらしい。


 健太くんの背を見送る頃には雨の勢いは弱まり、小雨になっていた。


「紗重さんは僕の母と交流があったと聞きましたが」


 お母さんのこと、聞きたくなったのかな。


「まぁ、お世話になったよ。私が通っていた病院の看護師さんだったから」


 私は幼少期、小児喘息を患っていて、定期的に通院していた。景明くんのお母さんである恵美伯母さんは、その病院の小児科の看護師だった。


 お世話にはなったけど、私的にはいい思い出ではない。迷惑しかかけていないから。

 ただ、景明くんの為なら、私の恥を晒してでも、伯母さんの話をしよう。


「なんていうか、豪胆で明るい人だったよ。注射嫌いの私が大暴れした時は、他の看護師さんと三人がかりで押さえつけたり」

「目に浮かびます」


 ちょっと待って。それはどういうこと?


「……他の検査の時も、私が怖がっていたら、色んなことをして笑わせようとしてくれたかな」


 変顔が下手くそだった。でも、それが逆に笑える。


「入院した時は、仕事の合間を縫って会いに来てくれてた」


 ほんの少しの時間だけだったけど、家族と離れて一人で過ごすことは心細かったから、見知った顔があるだけで嬉しかった。


 伯母さんは娘がほしかったらしい。だからか、姪である私のことも可愛がってくれていた。


 夫である達也伯父さんとは、いつまでも仲が良くて、まさにおしどり夫婦。今時にしては子沢山だしね。

 だから、伯父さんが急死した後は、一気に元気がなくなってしまった。景明くんの帰りを待たず、逝ってしまったことに、どう思ったのか。


 そこに追い打ちをかけるように、伯母さんに癌が見つかった。一年後、伯父さんの後を追うように亡くなった。

 奇しくも、伯父さんの命日と数日違いだった。一周忌までは頑張った、といったところかもしれない。


「伯父さんはお茶目な人だったね。でも流石に、倉庫の二階から飛び降りて両脚骨折をした話は引いた」


 父方の実家は農家。その倉庫の二階から飛び降りたらしい。自殺目的とかではなく、二階近くまで雪が積もっていたから好奇心で――と言っていた気がする。


「それは僕も聞いたことがあります」


 六歳以下の子供になに話しているんだよ。と内心で、亡き伯父にツッコむ。


 けど、私がこの話を聞いたのは、父方の祖父の法事の時。大人達がお坊さんと話していて暇していたところ、手招きされて近寄ったら、聞かされた。

 長男なのに話を聞かなくてよかったのかと、今は思う。真面目な性格である私の父さんの方が、お坊さんの話を聞いていた気がする。


 結論。


「夫婦揃って、愉快だったね……」


 だからこそ、未子の誘拐、両者の早過ぎる死は、大きな陰となった。


 景明くんも頷く。


 今の景明くんは静かで、表情もあまり変わらない。けど、子供の頃はいつも笑顔で、活発だった。両親の影響だったのかな。


 もうすぐ、伯父さんと伯母さんの命日がある。景明くんをお墓参りに誘ってみようかな。


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