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パトロールと言っても、仰々しいことはない。ただ、数時間に一度の頻度で、周辺を歩き回る。一見はただの通行人。
ただ、いちいち巫女装束から私服に着替えるのは面倒だから、そのまま行――
――こうとしたんだけど、何故か、景明くんも付いて来た。
「やっぱり、捕まえた方がいいと思います」
「じゃあ、囮になってくれる?」
「はい」
という会話が、叔父さんとの間にあったとか、なかったとか……。
「既にご存知かもしれませんが、宮司の言葉で言うと僕は人外ホイホイです」
ご存知ないです……。
というか、言い方が失礼じゃない? 叔父がごめんね……。
「だからあの変な狐も景明くんを狙ったの?」
「変な……。いえ、あの狐はそれに関係なくというか……。あの狐のせいでホイホイにさせられたというか……」
うーん。よくわからん。取り敢えず、あのクソデカ狐が元凶ってことでOK? あの時のことはよく覚えてないけど、大口真神様にもっとボコボコにしてもらえば良かった。
「あれっ。紗重ちゃんに、えーっと」
「藤田景明くんです」
「あーそうそう、景明くん」
町中を歩いていると、私の実家の近所に住むおじさんに話しかけられた。
いや、もうお爺さんなのかな? もうお孫さんがいる。今年生まれたお孫さんの宮参りには、うちの神社を選んでくださった。
「二人がパトロールしてるのかい?」
「はい。まぁ、宮司は無理すると腰やるんで」
叔父さんも母さんも、姉弟揃って腰が弱い。すぐギックリ腰になる。私も気を付けないと。
実際には、押し付けられただけなんだけどね! 一応、神社の売り上げは宮司の信用とも繋がるから、他人にはこう言っておく。
「変な感じだなぁ。おじさんの中じゃ、紗重ちゃんはまだ小学生だよ」
自称おじさんなら、呼称もおじさんのままでいいのかな。
そのおじさん(大橋さん)の息子、健太くんは、小学生時代、私と登校班が同じだった。私が一年生の時、健太くんは六年生で班長。入学から一ヶ月の間は毎朝、私の実家まで迎えに来てくれていた。
「子供を狙ってるっていうから、心配だよ。ここらの子供達もだけど、孫もね……」
大橋のおじさんは憂いた表情で言う。
そうだよね。特に、子供がいる家庭は警戒と心配があるみたい。今朝も、厄除けのお札やお守りを買っていった人が複数人いた。
「なにかあったら、すぐに大声を出すんだよ。まだ若いんだから、危ないことはおじさん達に任せて」
「はい」
「紗重ちゃん、声が大きいから、すぐに駆け付けるよ」
「はい……」
そう言われるのは恥ずかしい……。
普段の声はそれほど大きくはない。普通だと思う。でも、張り上げると途端に大きくなってしまう。
「お孫さんがいるんですか?」
大橋のおじさんと別れた後、景明くんに聞かれた。
あ、そっか。
「お宮参りに来たのは、景明くんがうちに来る前だったっけね」
今年の初夏だった気がする。六月のくせに真夏並みに暑くて、大変だった記憶がある。特に祝着は暑くなるから、私は隣に張り付いて、赤ちゃんに風を送ったり、日陰を作ったりしていた。
「大橋さんのとこ、一番最初のお孫さんがお母さんと一緒に死んじゃったから、余計に無事に生まれたお孫さんが心配なんだろうね」
「……死んだ?」
言わない方が良かったかな、と後から気が付いたけど、言ってしまったものは仕方ない。
大橋のおじさんは近くにいないよね、と背後を確認してから、口を開く。
「うん。一番目のお孫さんは難産で、お母さんと一緒に亡くなっちゃったらしい。今年生まれたお孫さんは、息子さんの再婚相手が産んだ二番目の子供」
景明くんが立ち止まる。
私も数歩先で立ち止まり、景明くんを振り返った。どんな表情をしているのかは、長めの前髪が陰になって、わかりにくい。
「一緒に亡くなったんですか」
「え? うん、たぶん」
この話は母さんがご近所さんから又聞きしたものだから、どれほど正確かはわからない。
健太くんは大学進学と同時に県外に出て、そのままそこで就職、結婚した。出産もそっちだったみたいだから、私は最初の奥さんを見たことはない。
妻子を失ったショックで、健太くんは実家に帰って来た。でも、その後、今から一年半ほど前に今の奥さんと再婚した。
「…………そうですか」
景明くんが顔を上げて、歩き出す。
どうしたんだろう。なにかの琴線に触れちゃった感じだろうか。やっぱり、人様の暗い話はするもんじゃないな。
隣を過ぎていった景明くんを追いかけ、私も歩き出した。




