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神隠しのその後  作者:
鳥×母
12/17

3


 パトロールと言っても、仰々しいことはない。ただ、数時間に一度の頻度で、周辺を歩き回る。一見はただの通行人。


 ただ、いちいち巫女装束から私服に着替えるのは面倒だから、そのまま行――

 ――こうとしたんだけど、何故か、景明くんも付いて来た。


「やっぱり、捕まえた方がいいと思います」

「じゃあ、囮になってくれる?」

「はい」


 という会話が、叔父さんとの間にあったとか、なかったとか……。


「既にご存知かもしれませんが、宮司の言葉で言うと僕は人外ホイホイです」


 ご存知ないです……。

 というか、言い方が失礼じゃない? 叔父がごめんね……。


「だからあの変な狐も景明くんを狙ったの?」

「変な……。いえ、あの狐はそれに関係なくというか……。あの狐のせいでホイホイにさせられたというか……」


 うーん。よくわからん。取り敢えず、あのクソデカ狐が元凶ってことでOK? あの時のことはよく覚えてないけど、大口真神様にもっとボコボコにしてもらえば良かった。


「あれっ。紗重ちゃんに、えーっと」

「藤田景明くんです」

「あーそうそう、景明くん」


 町中を歩いていると、私の実家の近所に住むおじさんに話しかけられた。

 いや、もうお爺さんなのかな? もうお孫さんがいる。今年生まれたお孫さんの宮参りには、うちの神社を選んでくださった。


「二人がパトロールしてるのかい?」

「はい。まぁ、宮司は無理すると腰やるんで」


 叔父さんも母さんも、姉弟揃って腰が弱い。すぐギックリ腰になる。私も気を付けないと。


 実際には、押し付けられただけなんだけどね! 一応、神社の売り上げは宮司の信用とも繋がるから、他人にはこう言っておく。


「変な感じだなぁ。おじさんの中じゃ、紗重ちゃんはまだ小学生だよ」


 自称おじさんなら、呼称もおじさんのままでいいのかな。


 そのおじさん(大橋さん)の息子、健太くんは、小学生時代、私と登校班が同じだった。私が一年生の時、健太くんは六年生で班長。入学から一ヶ月の間は毎朝、私の実家まで迎えに来てくれていた。


「子供を狙ってるっていうから、心配だよ。ここらの子供達もだけど、孫もね……」


 大橋のおじさんは憂いた表情で言う。

 そうだよね。特に、子供がいる家庭は警戒と心配があるみたい。今朝も、厄除けのお札やお守りを買っていった人が複数人いた。


「なにかあったら、すぐに大声を出すんだよ。まだ若いんだから、危ないことはおじさん達に任せて」

「はい」

「紗重ちゃん、声が大きいから、すぐに駆け付けるよ」

「はい……」


 そう言われるのは恥ずかしい……。

 普段の声はそれほど大きくはない。普通だと思う。でも、張り上げると途端に大きくなってしまう。


「お孫さんがいるんですか?」


 大橋のおじさんと別れた後、景明くんに聞かれた。


 あ、そっか。


「お宮参りに来たのは、景明くんがうちに来る前だったっけね」


 今年の初夏だった気がする。六月のくせに真夏並みに暑くて、大変だった記憶がある。特に祝着は暑くなるから、私は隣に張り付いて、赤ちゃんに風を送ったり、日陰を作ったりしていた。


「大橋さんのとこ、一番最初のお孫さんがお母さんと一緒に死んじゃったから、余計に無事に生まれたお孫さんが心配なんだろうね」

「……死んだ?」


 言わない方が良かったかな、と後から気が付いたけど、言ってしまったものは仕方ない。

 大橋のおじさんは近くにいないよね、と背後を確認してから、口を開く。


「うん。一番目のお孫さんは難産で、お母さんと一緒に亡くなっちゃったらしい。今年生まれたお孫さんは、息子さんの再婚相手が産んだ二番目の子供」


 景明くんが立ち止まる。

 私も数歩先で立ち止まり、景明くんを振り返った。どんな表情をしているのかは、長めの前髪が陰になって、わかりにくい。


「一緒に亡くなったんですか」

「え? うん、たぶん」


 この話は母さんがご近所さんから又聞きしたものだから、どれほど正確かはわからない。


 健太くんは大学進学と同時に県外に出て、そのままそこで就職、結婚した。出産もそっちだったみたいだから、私は最初の奥さんを見たことはない。

 妻子を失ったショックで、健太くんは実家に帰って来た。でも、その後、今から一年半ほど前に今の奥さんと再婚した。


「…………そうですか」


 景明くんが顔を上げて、歩き出す。


 どうしたんだろう。なにかの琴線に触れちゃった感じだろうか。やっぱり、人様の暗い話はするもんじゃないな。


 隣を過ぎていった景明くんを追いかけ、私も歩き出した。


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