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いつもより忙しい土日を乗り越えた後。神社は再び閑散としている。平日は学校や、幼稚園・保育園があるからね……。
でも、また次の土日もお客さんが多そうだし、今のうちにサボっ……いや、英気を養っておこう!
と思ったんだけど――
「今日から、定期的に周辺をパトロールすることになった」
「へぇ。気をつけてね」
叔父さんは町の消防団に入っている。それでも、普段はただの宮司だから、本物の消防士のように訓練されているわけではない。
いや、不審者の対応は消防士、消防団の業務ではないか。
「なに言ってるの?」
叔父さんはきょとりと目を瞬かせた。
「やるのは紗重ちゃんだよ」
「は?」
私?
「よろしく」
叔父さんに笑顔で言われる。
誰がよろしくするか。
普通、ここは男が行くところでしょ。叔父さんとか、景明くんとか。
いや、景明くんはまだ成人したてだから、危険なことはさせられない。ここは叔父さんがやるしかない。叔父さんになにかあった場合、神社の跡取りはいないけど、どうにかなるでしょ(適当)。
「たぶんだけど、件の不審者は人間じゃないと思うんだ」
叔父さんが真面目な顔と声で言う。だから、私もつい、黙って耳を傾けた。
「目撃者によると、人間が鳥になったらしい」
…………なに言ってるんだろう、この人。
「そんな目で見ないで。本当なんだって」
叔父さん曰く、日曜日の夜、子供が女に攫われかけたらしい。
ただ、近くにいた祖父が声を上げると、子供を置いて逃げた。近所の人が騒ぎを聞いて女を追いかけたけど、突然、鳥になって飛び去ってしまったという。
「鳥人間ってこと?」
「それがね、特徴が該当する妖がいるんだ」
叔父さんが手に持っていたタブレットを操作する。見せてくれた画面に映っていたのは、古めかしい鳥の絵。
「姑獲鳥。鳥と人間の女、二つの姿を持ち、他人の子供を奪って自分の子供にしてしまう妖だよ」
ドンピシャでは?
思わず叔父さんの顔を見上げる。
「人間の女が相手なら、町の人達でもどうにかできるかもしれないけど、妖なら無理」
「じゃあ、叔父さんがお祓いしちゃえばいいじゃん」
「いや、おじさん、そんな力ないから」
「ないの!?」
宮司なのに?
つい、叫んでしまった。
「なにも霊力があって、霊や妖を祓えなければ宮司になれないなんて決まりはないからね」
「えー……」
叔父さんも妖怪の存在を知っているっていうから、てっきり、「破ーッ」って感じでお祓いができるのかと思ってたのに。
「でも、紗重ちゃんは違う! うちの祭神である大口真神の加護を受けた巫女さんだから、そこら辺に立ってるだけで普通の妖は怯えて逃げるんだ!」
「…………そうなの?」
なんか胡散臭い……。
けど、景明くんを誘拐したっていうあの狐も、私が苦手なんだっけ。
私自体は普通の人間だけど、ここの巫女をしているから、大口真神の力がちょっとあるってこと?
「でも、宮司である叔父さんにはないのに、私にはあるの?」
あと、巫女にあるのなら、母さんや祖母ちゃんは? もう東京に行っちゃったけど、学生時代に巫女のバイトをしていた叔父さんの娘は?
「う、うん。紗重ちゃんだけが選ばれたんだ」
なんで? 私一人だけが選ばれる理由は思い付かない。
「大口真神は魔除けの神でもある。妖も魔に分類されるから、追い払うことができるんだよ」
「でも、昨日と一昨日は境内に沢山、妖怪の犬がいたよね?」
大口真神が魔除けの神で、妖怪も祓うのなら、そもそも境内に入れないんじゃない? 神社は祭神の神域なんだから。
「あの犬達とか、この山に棲んでる妖は別だよ。むしろ、この山の女神でもある大口真神の傘下にいるから、庇護されるモノの扱い」
え。この山には他にも妖怪がいるの?
私も何度か、この山には登っているけど、それっぽいものは見たことがない。クマやイノシシには遭遇したことあるけど。でも、襲われることはなかった。ちゃんとクマ避けの鈴を持っていたからね。
とはいえ、境内にいた妖怪犬達も見た目はただの犬。もしかすると、私が山の中で見た動物も、実は妖怪だった、なんてことがあったのかもしれない。
そこで、ふと私は気が付いた。
「あれ? てことは、景明くんを誘拐した狐が嫌いなのは、私個人じゃなくて、大口真神の方?」
「えっ? あ、あぁ、そうだよ」
私は叔父さんが挙動不審であることが気になる。
……ハッ! まさか、勝手に私のおやつを食べたとか? 先々月に私が隠していた醤油煎餅を食べられたことは、忘れていない。
ただ、ご飯前に叔父さんが煎餅を食べていたと祖母ちゃんにチクったところ、しこたま怒られていたから、溜飲はある程度、下がったけど。
後で確認しておかないと。
「ふーん。そうだったんだ」
おやつの件は置いておいて、私は会話を続行する。
なーんだ、良かった。他人に嫌われる要素が私にあるわけじゃなかったんだ。魔除け? の力なら、人間には嫌われないだろうし。
実は他の人にも嫌われてるんじゃないかと密かに気にしていたから、安堵に胸を撫で下ろす。
「今回からはそれで行くのか……」
ちょっと離れたところで、景明くんがなにか呟く。どこかに出かけるのかな?
「いやぁ、紗重ちゃんが言ってくるんなら、もう大船に乗ったも同然だよねぇ!」
叔父さんが笑いながら部屋を出ていく。景明くんの横を通り過ぎ様に、彼の背を叩いた。そのせいで、景明くんがつんのめる。
あーもー、景明くんが痛そうでしょ!
……あれ? ちょっと待って。私がパトロールに参加するの、決定した?




