居酒屋の男
さっさと消えろよ。
あんただよ、あんた。自分でも分かってんだろ。
そうだ。あんたしかいねぇだろ。
一発で分かるよ。あんたがどんな目にあってきたのか。全部うまくいかねぇんだろ。変な廃墟に行ってから。
分かるのかって? 分からない奴の方がおかしいだろ。
姉ちゃん。ちょっとだけ時間くれるか。
あんた、ずいぶん苦労してきたな。
行きたくて行ったわけじゃなかったんだろ。
でも若いから判断を誤っちまった。興味を惹かれる自分もいた。魔が差したって感じに近いんだろうな。
いやだから分かるって。その時の姉ちゃんの感覚や感情まで全部分かるとはさすがに言わねえが。
そんなわけねぇだろ。でもそれも理解出来る。誰だって面倒事は避けたいからな。
だってよ。ずっとそこで話聞かれてるわけだろ? そりゃ下手な事言えねえよ。
あんたは見えねえから簡単に悪口垂れ流せるんだよ。好き放題言えるのはある意味自覚がねぇからだ。
よく考えて見てくれよ。
電車で奇声を発してる人間に、やめてくださいよなんて声掛けれるか?
包丁持った明らかにやべぇ奴に、面と向かってやめなさいって言えるか?
俺が言いてぇ事は分かったろ。
あんたの後ろにいるのは、とんでもなくヤバイ奴だよ。
俺はな、もういいんだよ。
だから言ってんだよ、お前に。
さっさと消えろって。