第16章:物語の向こうの沈黙
泣く松の木々を吹き抜ける風は、香りも鳥のさえずりも運ばず――ただかすかな静電気の余韻だけを残していた。
ホロウメアは彼らの後ろに薄れていった。そのありえない幾何学と壊れたこだまは霧の中に消えていったが、その記憶は皮膚に花粉のようにアルカードにまとわりついていた。
魔法でさえ、その感覚を完全に浄化することはできなかった。
彼らは長い間何も話さなかった。
ルシアンは黙って、しかし用心深く彼の隣を歩いた。彼の鋭い目はしばしばアルカードの横顔へと向けられた――査定し、不確かな様子で。
彼は礼拝堂で見たものについて話さなかった。
エリシアの到来や、大地の下で心臓の鼓動のように震えた破裂について。
しかし、彼はそれを感じていた。
彼は変化を察知していた。
何かが変わったのだ。
アルカードの内部で何かが目覚めたのだ。
あるいは、戻ってきたのだ。
アルカードは彼の視線に合わせなかった。
合わせられなかった。視界の端でシステムが脈打っていた――半透明のグリフがガラスの下のホタルのようにちらついていた。
それは再び自己主張をしていた。
ガイダンスとしてではない。
援助としてではない。
結果としてだ。
それは遠くから見ていたのだ。
待っていたのだ。
彼の許可ではなく――世界の許可を。
彼はかつて、それが二度と戻らないのではないかと恐れた。
そして…それが戻ってくるのではないかと恐れた。
回想:物語の彼方の境界線
彼が人間の王国を去ったのは夜明けだった。
他の者たち――アオイ、ダイチ、レイナ、ソータ――は城に残り、希望にしがみつき、それぞれの役割に固執していた。
しかし、アルカードはあまりにも多くのことを見ていた。
あまりにも多くのことを知っていた。
彼は東門を一人で歩いて通り抜けた。衛兵に止められることもなく、彼を阻止するための召喚も発せられなかった。王はあえてそうしなかったのだ。
誰もが、彼が何になるかもしれないかの責任を本当に負いたくはなかったのだ。
彼はパトロール隊を静かに通り過ぎた。風を背に受け、システムはまだ彼の周りで活発だった――きらめくプロンプトと、オーケストラの音色の繊細な響き。
クエストログ更新:魔女王エリシアを調査する
アライメントの衝突を検出:あなたは英雄であり敵でもあります
物語の錨:アクティブ
目的のチャイムは当時まだ響いていた――偽りではあったが、しつこく。
誰か別の物語のための歌。
そして彼はそれを見た。
半分倒れた石のアーチ、苔に覆われ、地図から忘れ去られたもの。
かつては境界線だったが、今は遺物。
彼の足がその敷居を越えた瞬間、それは起こった。
まばゆい光もない。
ファンファーレもない。ただ…不在だった。
インターフェースが死んだ。
通知は冷たい空気の中の息のように消えた。
沈黙が訪れた、本当の沈黙――森の静けさではなく、注意が引き去られた真空だった。
彼はHUDを期待して見上げた。
何もなかった。
彼はステータスを念じた。
何もなかった。
レベルもない。
称号もない。
クエストもない。
意味もない。
最初は、罰だと思った。
彼に強制された役割を放棄したことに対する拒絶だ。
しかし、日々が過ぎるにつれて、明らかになった:それは裁きではなかった。
それは見捨てられたのだ。
彼は舞台を降りたのだ。
脚本を去ったのだ。
そして、物語に縛られたシステムは、単に…背を向けたのだ。
現在
道は湿った霧の中にカーブし、松ヤニと湿った土の匂いが戻ろうと奮闘していた。
ホロウメアは魔法以上のものを破裂させていた――それは文脈を書き換えていたのだ。
アルカードはそれを骨身にしみて感じていた。もはや正確に一致しない世界の角度の中に。
ルシアンの外套が彼の隣で揺れ、ブーツが苔の上で柔らかく音を立てた。
アルカードは歩き続けた。
彼はシステムを越えた最初の日々の冷たい真実を覚えていた。
監視されていないことの不協和音。
すべての行動が生々しく、測定されず、まるで世界そのものが彼の存在を検証するのを拒否しているかのようだった。
過去の人生で、魔王としてさえ、システムは彼に囁いていた。
今のように明確ではなかったが――示唆を与えていた。
炎に包まれた本能。
予言と間違えられた幻視。
彼は将軍たちに話さなかった。
誰にも話さなかった。
なぜなら、真実は危険だったからだ。
システムは贈り物ではなかった。
それは観察者だった。
世界の骨に組み込まれた構造物。
本来のものではなく――挿入されたもの。
寄生虫、プログラム、監獄。
そして彼はそれに逆らったのだ。
今、それは戻ってきた。
しかし、かつてのようなものではなかった。
ホロウメアがすべてを変えたのだ。
ベールは彼を見たのだ。
それは彼を変数としてではなく、定数として認識したのだ。
侵入者ではない。
錨として。
だから、システムは再び動き出し、今や彼を無視するにはあまりにも不安定な世界へと強制的に引きずり込まれたのだ。
だが、これは未熟な英雄を導くのと同じインターフェースではなかった。
これはもっと古いものだった。
もっと野性的なもの。
調整されたもの。
目撃しているもの。
彼はもはや盤上のどちらかの側の駒ではなかった。
女王を殺すために召喚された英雄ではない。
玉座を取り戻すために帰還した王でもない。
彼は収束点だった。
支点だ。
そして、何か――誰かが――気づいたのだ。
ルシアンの声が沈黙を破った。
「変わったな。ホロウメア以来。」
アルカードは最初は答えなかった。
ルシアンは彼をじっと見つめた。
「あなたの存在は…おかしい。世界があなたに合わせて調整しなければならないようだ。」
アルカードの顔にかすかな面白みが浮かんだ。
「真実に近づけば近づくほど」と彼はつぶやいた、「現実は嘘のつき方を忘れるのだ。」
ルシアンはまばたきした。
「何?」
「何でもない」と彼は素早く言った。その声は遠くに包まれていた。
なぜなら、どう説明すればよいのか?
システムは呪文ではなかった。
武器でもなかった。
それはフレームワークだった。
肉と魔法の世界における論理の骨格。
そして、その帰還は根本的な何かを破壊したのだ。
彼は礼拝堂の螺旋、エリシアが空間ではなく物語を通して降りてきた瞬間を思い出した。
空の裂け目ではなく、世界の前提における裂け目だ。
彼女は彼がずっと昔に渡ったのと同じ線を通過したのだ。
だが、彼とは違い、彼女はシステムによって追放されていなかった。
彼女は決してそれに書き込まれていなかったのだ。
そして今、それは彼のためだけに帰ってきたのだ。
なぜだ?
ベールが彼を干渉ではなく――必要不可欠なものと判断したからだ。
彼はもうキャラクターではなかった。
彼は修正だった。
アルカードは尾根で立ち止まった。風が彼の外套をはためかせた。はるか下では、霧が思考するもののようにもつれ、ありえない弧を描いて谷間をうねっていた。
ルシアンは彼の隣に立ち、不確かな様子だった。
「次はどうする?」と彼は尋ねた。
アルカードはすぐには答えなかった。彼は耳を傾けていた――世界の背後にあるうなり声、引き締まる糸に。かつては遠かった意志が、今や大きくなっていた。
しかし、今、彼もまたそうだった。
システムはもはや彼を不正なコードとして見ていなかった。
それは彼の周りに書き込み始めていたのだ。
「思うに」と彼は静かに言った、「我々は著者と会うことになるだろう。」
ルシアンは眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
しかし、アルカードはすでに歩き出していた。
彼らが何を見つけるのかは知らなかった。
ただ、脚本は壊れていた。
そして彼はもうそれに属していなかった。
彼はその沈黙だった。
そしてその沈黙の彼方に――何かが待っていた。