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01 ~不訪死滅~

口伝でしか残っておらずその存在を知る者は少ない『聖櫃(ボックス)』と、それが不可侵の宝である所以の『守人(ガーディアン)』。しかし開けた者の願いを叶えるという『聖櫃(ボックス)』を求めるものは少なくはなかった。そして今日も一人、『聖櫃(ボックス)』を手に入れようと夜の闇に紛れて行動を起こしていた…。


~~~~~~~~~~


人気のない夜の公園。その更に奥まった所にある林の中に三川久遠みかわくおんは立っていた。

その久遠の前には一人の少女が仰向けに倒れている。左肩から右の脇腹までをバッサリと切られ、鮮血を流しながら。

そしてもう一人、倒れている少女を挟んだ久遠の向かい側に一人の男が立っていて下品な笑いを浮かべている。

「どうだよ?見事なもんじゃねぇか。きれいな血飛沫(はなふぶき)だったろ?」

男が話しかけるが、久遠は何の反応も示さない。

「なんだ、ビビっちまったか?ほら、そいつを渡しゃお前さんは無事帰してやるよ」

男の言うそいつとは久遠の鞄についている紋様を刻まれた一辺6㎝ほどの黄金色の立方体。『聖櫃(ボックス)』と呼ばれるアイテムだった。

少女を切り裂いた刃渡り30㎝ほどある短刀を久遠に向けながら男はゆっくりと近づいていく。体捌きに素人臭さは感じられず、人を躊躇いなく切れることも殺しに慣れている証拠だろう。

「……いい加減にしろ」

「あん?お前今の状況わかって口訊いてんのか?」

男は今まで単純に相手を殺して奪うということはせず、相手に恐怖心を植え付け脅すことによって目的のものを手に入れてきた。相手が一人の場合は死なない程度を見極め痛めつけて、二人以上の場合は見せしめとして一人殺して。その際には今回のように血が飛び散るように派手にやると、「命だけは助けてやる」といえば大抵の人間は首を縦に振った。

しかしそれも男の方便で、結局は目的のものを手に入れた後はすべての人間を殺してきた。男は「助かる」という安堵の表情が恐怖に歪んでいくさまが大好物の真性のサディストであったのだ。

だから久遠の口から出てきた言葉は男にとって予想外の言葉だった。

「もう一度言う。いい加減にしろ」

そう言い放った久遠の顔には恐怖の色はなく、むしろほとほと呆れ果てたという表情をしていた。

「テメェ、これが見えねぇのか!さっさと渡さねぇとそのきれいな顔傷だらけにしてやんぞ!」

男は自分の思った通りの反応を示さない久遠に苛立ちを覚えたのか、胸倉に掴みかかり短刀を眼前に突き付ける。しかしそれでも久遠の顔色は変る気配がない。

「おい、何か勘違いしていないか?オレが声を掛けているのは貴様じゃない(・・・・・・)

「は?」

久遠の言葉に男は一瞬呆気にとられる。続く言葉は男には到底信じられなかった。

「雪夜、何をしている。その程度の傷(・・・・・・)、なんの問題もないだろう」

久遠は倒れている少女、雪夜に声をかけていた。胸を切り裂かれ、鮮血を吹き出す少女に。

男にはそれが狂っているようにしか見えなかった。自ら短刀で人を殺し続けてきた経験から、致命傷を与えたことは間違いない。生きていたとしてもほぼ瀕死、体を動かすどころか虫の息のはずだった。

そう思っていたからこそ、この先起こることは男にとってあり得ないことだった。

「う~、確かに問題はないけど。でも普通よりは鈍くても痛いものは痛いんだよ?」

そう呟きながら今までピクリとも動かなかった雪夜は、ムクリと体を起こした。まるで眠っていたところを起こされたように淀みなく起き上がる姿はとても重傷を負ったようには見えない。

「簡単に切られたお前が悪い。お前の修復は手間なんだ」

「何言ってるの久遠。雪夜の裸体を見せて久遠が押し倒したくなるようにわざと…」

「今夜の飯は青椒牛肉絲だな」

「あのね、ピーマン抜きの青椒牛肉絲と言う斬新なアイデアを…」

「試す気にはならん」

短刀で切り殺されたはずの雪夜とつい数秒前までその短刀で脅されていた久遠。二人はさっきまでのことが大したことでもないかのように、全く緊張感のない会話を続けている。

「な、なんだテメェら…」

「貴様、『守人(ガーディアン)』も知らないのか?」

「あのね久遠、『守人(ガーディアン)』は『聖櫃(ボックス)』とセットだからいくらこのおじさんでも知らないワケ無いと思うよ?」

その言葉を聞いた瞬間、男の顔が真っ青になる。確かに男はその名前を知っていた。けれど男は『聖櫃(ボックス)』の見た目や在処にしか興味はなく、たとえどんなものでも殺してしまえば一緒だと思っていた。そしてそういえるだけの実力も持っていたはずだった。しかし

「こんな死なない化け物なんて聞いてねぇぞ」

「む~、可愛い女の子捕まえて化け物は酷くない?」

確かに見た目は可憐な少女そのものだった。長い黒髪ときれいな顔立ちはどこの誰が見ても美人で通るだろう。だからこそ制服の前面を血で真っ赤に染めながらゆらりと立ち上がるその姿は異常で、とても幻想的に見えた。

「大して違いないだろう」

「違うよ!雪夜はただ死なないだけだもん!」

「十分人間じゃないだろ」

「そんなこと言って久遠、実は雪夜のことちゃんと女の子として意識して…」

「寝言は死んでから言え」

「…うぅっ、最近久遠冷たい」

言い合いしている二人はどこからどう見ても無防備だった。その隙を見逃すような男ではない。

動き始めは一瞬。狙うは先ほど切った雪夜ではなく、『聖櫃(ボックス)』をもつ久遠の方だった。奪う物だけ奪い、あとは逃げる。殺せないのだったらそれしかない。鞄を持つ右手を狙い水平に短刀をなぎ払い、あとは落とした鞄ごと持って逃げるだけ。

しかし男のなぎ払った短刀は久遠に届くことはなかった。

「なっ…!」

「おじさんだめだよ?こんなの振り回しちゃ」

雪夜がしゃがみ込んで親指と人差し指でつまんでいたのだ、何の加減もなしになぎ払った短刀を。

一切力を入れているように見えないが、短刀は押しても引いても動かない。

「こんなものは…えぃっ!」

そして雪夜が少し指先に力を入れたと思うとつまんでいた部分が砕けた(・・・)。指を支点にして折ったのではない、単純な握力で砕いた(・・・)のだ。

「ひっ、ひぃぃっ!」

男は短刀を取り落とし、腰を抜かしてその場にへたり込む。

「終わりだな。雪夜、いつも通りだ。『消せ』」

「りょ~かいだよ」

近づいてくる血まみれの少女の姿に、男は後ずさりするしか抵抗の手段を持たない。いつも「狩る側」だった男は、初めての「狩られる側」の恐怖に心底おびえていた。

「お、おい。なぁ、金はいらねぇか?なんだったら今まで集めたコレクションでもいい。お前らが欲しいもん何でもやるから、見逃してくれねぇか?」

最初の高圧的な態度とはうってかわって媚びるような男の態度。そんな男の命乞いを久遠は聞き入れることなく切り捨てた。

「まぁおじさんにはもう言う意味ないけど言っておくよ?『聖櫃(ボックス)』は『禁忌の匣(パンドラ・ボックス)』。この世の地獄を全て受け止めるぐらいの覚悟はないとダメだよ?」

そう言いながら雪夜は男の頭を挟み込むように両手を添える。その手は小さく柔らかかったが、男には何をされるかという恐怖しか伝わってこない。そしてその恐怖から身じろぐどころか指一本動かすことができなかった。

「じゃあね、サヨナラ」

そして雪夜の別れの言葉を聞いた瞬間、男の意識は真っ暗に染まった。


初投稿です。

拙い文章でみっともないかもしれませんが

読んでいただけたら幸いです。

更新は早くないのであしからず。

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