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19-3 唐突に神様が現れ、唐突に謎が明かされる

 ミヤ、ノア、イリス他騎士二名は無人の町を抜けて、森の中へと足を踏み入れた。

 町の中にも輪がなる樹木があちこちに生えていたが、この森の樹木には、ほぼ全てに輪がなっている。


「木々に寄生しているのかしら~? それとも木がこの輪を生んでいる?」


 イリスが木々の枝からぶらさがる輪を見て、想像を口にする。


「これ、解析できないね。解析できないプロテクトがかかってる」


 拾ってきた小さな輪を弄びながら言うノア。


「儂にはそいつの正体が少しわかるよ。臭いが微かにある」


 ミヤが神妙な口調で言って。


「何なんですかー?」

「人間だよ」


 イリスが尋ねると、ミヤが答えた。ノア以外がぞっとする。イリスは反射的に翼を広げていた。


「人間を材料にしているだけじゃないよ。輪の中には魂が宿っている。人間の魂を道具化するイレギュラーは初めて見るわけじゃないが、中々おぞましいもんだね。しかもこの数だ」

「これが、全部人間……」


 ミヤの解説を聞き、騎士の一人が唸る。


「へー、人間の魂の道具化かー」


 一方でノアはニヤニヤしている。ミクトラと、その中に囚われている母親の魂を意識していた。


「人間なら、俺と気の合う子なら、連れて帰れるかもしれないね。そんなの見つけるのも大変だけど。見つけ方もわからないし」


 と、ノア。


「ふん。山のような袋いっぱいつめこんでおけば、一つくらいはノアと気が会う奇特な子も見つかるかもね~」

「ん? 師匠、それ嫌味のつもり? でもいいアイディアだと思う。魔法で亜空間ポケット作って、輪をため込もうかな」

「却下。余計なことに魔力の無駄遣いするんじゃないよ」


 ミヤがすげなく突っぱねたその時だった。


***


・【子供の心のままのお爺さんは絵本作家】


 ある所に、この世の全てに背を向けた子供がいました。名前はダァグ・アァアアと言います。


 ダァグは明らかに子供でした。自分では子供のつもりでしたし、頭の中は十一歳で止まっていました。

 ダァグは明らかにお爺さんでした。今年で六十歳になるお爺さんで、見た目もお爺さんです。しかし心は子供のままです。


 自分の心は子供のままなのに、体だけはしっかりと歳をとっていくことに、ダァグはいつもいつも悲しんでいます。それはとてもとても辛いことでした。

 人前に出れば、ダァグは年相応の振る舞いをしています。ちゃんと大人のように見せかけます。しかしそれは無理して背伸びして大人の振りをしているだけなのです。その行為も、ダァグは嫌で嫌で仕方ありません。


 現実社会に何の希望も見出せないダァグは、自分で自分の理想の世界を創ることにしました。絵本を描き、絵本世界で自分を神様にして、世界を自由に操れる設定にしました。


 現実世界で嫌なことがある度に、ダァグは自分で描いた絵本の世界を滅茶苦茶にして、絵本の登場人物達を苦しめます。


 印刷所の仕事で失敗して上司に怒られた日は、主要キャラクターの恋人が浮気していたうえに、浮気相手が敵だったという展開にして、主人公達を苦しめした。そして敵に情報を流した恋人のキャラクターを殺してしまいました。


 どしゃぶりの雨の日に、鍵を失くして家に入れず、傘も壊してしまい、濡れながら何時間も鍵を探した日には、絵本の中で突然の災害を発生させて、登場人物達を辛い目に合わせました。


 近所のタチの悪い子供の悪戯で、宅配物を汚された時は、絵本の物語の結末が、ゴミの世界の中に沈んでいくバッドエンドにしました。


 いつしかダァグは自分の心を作品の中に置きました。絵本を描けば描いた分だけ、世界が生まれます。そして創造主となったダァグは、息を吸って吐くように、世界を悲劇に導く頻度が高くなりました。


 しかしある時から次第に、ダァグが創る世界が、ダァグの思うようにならなくなってしまいます。

 キャラクター達が言うことを聞かなくなり、勝手に動き出すようになったのです。作っているのはダァグなのに、絵本を描いている作者であるのに、気が付くとダァグの意に沿わぬ形で、キャラクター達が勝手に動いていたのです。

 頭にきたダァグは無理矢理キャラクター達を従わせようしましたが、キャラクター達は中々言うことを聞きません。


 結果、世界はどんどん歪になっていき、気が付くと物語そのものがダァグの理想とはかけ離れた形になってしまいました。

 ダァグは自分でも制御できないくらい、悲劇を沢山生み続け、とうとう悲劇しか作れなくなってしまったのです。


 ダァグは悩み苦しみました。どうしてこんなことになったのか、わかりません。


 そしてある日、ダァグは悟りました。ダァグが創ったのは、自分が現実から逃げるための紛い物の世界ではなく、明らかに存在する別の世界であると。


 最早ダァグは、創造主でありながらも、己の創った無数の世界、無数のキャラクター達を制御できません。そこで自分の代わりに世界を司る代理の神々を生み出しました。


 ダァグの負の面を象徴し、人を苦痛に与えて嬲る役割を持つ、嬲り神。


 理性と道徳と調和と秩序を司り、時としてダァグにすら反抗してでも、正しき道を選択しようとする宝石百足。


 あらゆる知識を貪り、あらゆる者に知識を与える図書館亀。


 他にも様々な代理の神々を創り、世界の管理を任せました。


 ある日、ダァグが創った世界の外から、ダァグに干渉がありました。メープル一族と名乗る者達の干渉により、ダァグは自分が創った世界以外の世界とも、繋がることが出来ると、ダァグは知ります。

 外の世界の知識と力を、自分の世界に取り入れる事で、壊れていく自分の世界を救うことが出来るかもしれないと、ダァグは考えました。


 そしてある日、嬲り神の前に――


***


 絵本はそこで途切れた。

 人喰い絵本の中に入った瞬間、頭の中に絵本が映し出される。流される。しかし今回はそれが無かった。そして今それが発生した。


「ちょっとーっ、どういうことですかあ? 絵本世界に入った時に流れるはずの絵本の内容が、入った時には流れず、今流れましたよ~」


 イリスが興奮して翼をはためかせ、甲高い声をあげる。


(儂の推測は、当たっていたけど外れていたということか。しかし……こんなにも唐突に、人喰い絵本の真実が明かされるとはね。いや、今のもただの作り話で、真実では無い可能性もあるが)


 ミヤは思い出す。図書館亀の前で口にした、人喰い絵本の正体に対する推測を。図書館亀はわりと当たっていると言っていた。


 共通した一つの世界説と、複数の断片的な並行世界が存在する説。後者が正解だと思っていたが、創造者が同じであれば、派生元である創造者ダァグ・アァアアを核とした、一つの世界の物とも解釈できなくもない。世界を修正しようとした結果、並行世界が複数生じたという説は、外れていた。


「今の絵本は――イレギュラー達も出ていて――まるで絵本世界の誕生の経緯みたいな話だった」

「人喰い絵本の世界の創造主の話に見えたねえ。しかし真に受けてはいけないよ。儂等を惑わすための、嬲り神のペテンかもしれない」


 ノアとミヤが言う。


「師匠、本当にそう思う? 悪ふざけにしてもこれはちょっと……。ただの悪ふざけだとしても、こんな悪ふざけ、一度しか出来ないことだ。二度目からはインパクト薄れるし」


 嬲り神が悪ふざけをするにしても、このような悪ふざけはしない性格のように、ノアには思えた。


「儂は可能性を示唆しただけだよ。その一度しか出来ない悪ふざけの可能性だってあるってことだよ」


 シリアスな声音で告げるミヤ。


(嬲り神が何か大きな仕掛けをしてくる予兆はあったし、もしかしてこれがそれかい? しかしそれにしても……センセーショナルな代物をぶつけてきたもんさ)


 嬲り神を意識して、ミヤがキャットフェイスに不敵な笑みを浮かべる。もちろん嬲り神の仕業と限ったわけでもない。


「いずれにしてもいつもと違うし、警戒が必要よねー」

「何をどう警戒すればいいのかもわからない」


 イリスの呼びかけに対し、ノアが思ったことを口にした。


「そして今ここにいる五人が同時に見えたということは、ユーリも、ブラッシーも、ジャン・アンリ達も、今のタイミングで見えたんじゃないかと思うよ」


 ミヤが言う。


「場所限定のひとまとめの可能性もあるよ、師匠。ブラッシーはもう見ているかもしれないし、先輩はこれからかもしれない」

「確かにそれもあるけどね」


 ノアの異論に対し、ミヤは否定しなかったが、手間暇やこの世界の仕様を考えて、その可能性は低いと考えていた。


***


 ユーリは森の中で呆然としていた。


(入った時じゃなくて、途中で絵本シーンが見えた。しかもこの内容も、いつもと傾向が違う。悲劇に繋がるストーリーには見えない)


 絵本が突然始まった事にも驚いたが、その内容により驚いた。悪い意味で感情が揺さぶられていた。


「ユーリ、今のは見たわね?」


 ユーリのすぐ横に宝石百足が現れ、声をかける。


「セント……」


 ユーリは暗い表情で、宝石百足の胸部にいる女性の顔を見つめる。


「これさ……人喰い絵本の創造主? セントや嬲り神を創ったとも言ってたし。そしてこれは神様が主人公の絵本てこと?」


 怒りを滲ませた声で問いかけるユーリ。


「具体的にはっきり教えてよ。セントはいつも、ちゃんとした答えをくれない」

「今見たままよ。今のは人喰い絵本の全ての物語の創造主の話であり、人喰い絵本のルーツ。それを神様が主人公の絵本という形で見せた。この導きは、嬲り神の仕業よ」


 ユーリが非難気味に要求すると、宝石百足は憂いを帯びた声で答える。


「で、創造主が主人公の話?」

「ごめんなさい。その点は私には答えられない。私の言える範囲で言うわね。人喰い絵本のこれまでの常識だと、この世界で起こった悲劇の物語を、貴方達のいる世界から呼びこまれた人は、絵本という形で解説されていた。そういう仕組みが作られている。でも今回は根本的に違う」


 宝石百足はぼかしながら伝えたつもりであったが、ユーリにはその程度の答えでも十分だった。これこそまさにイレギュラーだと、ユーリは感じる。


「今のを見て、余計に神様っていう存在が憎らしくなった」


 陰にこもった声を発するユーリ。


「神様ってこういう存在なのか? こんな身勝手で……人と大差無い精神構造メンタリティで、腹いせに世界にいる人達を……虐げているものなの?」

「自分が創った世界の住人に、ちゃんと心があることをわかっていなかったのでしょうね。そして物語の中では神様気取りでも、彼等の現実においては、無力な一人の人間でしかない」

「それが神様の正体?」

「人喰い絵本の創造主の正体ではあるわ。神様は……さらに上位にいるかもしれないの。ダァグ・アァアアも神様が創って、その上の神様も、さらに上の神に創られた存在かもしれない。ダァグ・アァアアの創った世界は、実はその上にいる神様が創って操っている可能性だってある。そしてその上にいる神様のまたさらに上で、もっと高位の神様が運命を操っているかもしれない」

「何それ……」


 宝石百足の話を聞いて、ユーリは乾いた笑みを浮かべる。


「世界ってそういう風に出来ているのよ。創造主はいるし、運命を操作する大いなる存在もいる。私や嬲り神も、その一人なのよ。神様としては末端――最下位になるでしょうけどね」


 果ての無い真実を聞いたユーリは、果ての無い世界の中で、運命を弄ぶ強大な存在が大きな手を振り回して、弄ばれる矮小な存在を粉微塵に吹き飛ばすヴィジョンを思い描き、喪失感にも似た感覚を味わっていた。

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