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11-4 ハピネスヴァンパイアのおかげで会社設立

「そんなわけで俺は社長になる。会社を設立する」


 夜。帰宅したノアはユーリとミヤを前にして、清々しい笑顔で宣言した。

 ユーリは苦笑いを浮かべ、ミヤは半眼になって不機嫌そうに尻尾をゆっくり振っている。


「ふん、何で急に……?」

「チャバックを雇って給料払うため。チャバックは仕事一つ失くしたから。配達の仕事だけじゃ食べていけない」


 尋ねるミヤに、ノアが動機を述べる。


「会社名は第二魔王株式会社にしようと思っている」

「おやめ。そんな意味不明でろくでもない名前」


 ノアが口にした会社名を聞き、ミヤはかなり険しい声を発した。


「どんな会社にするの?」

「まだ考えてる。まだ決まってない。何にしようかなあ」


 ユーリに問われて、ノアは顎に手を当てて思案する。


「殺人代行とかどうだろう? 殺したい奴がいたら、うちにお金を払って、俺がこっそりと殺してくるとか。うん、これがいい。魔法使えば痕跡消すなんて余裕」


 これまでもマミの殺人の痕跡を消していたノアであるし、それは手慣れた作業だ。


「お前、ふざけんのもいい加減にしなよ。マイナス6。本気でやったら破門で勘当だからね」

「本気だったけど駄目か。わかった。やめる。師匠も先輩も社会派だから仕方ない。遵法精神皆無の俺とは相性が悪い」


 ミヤの本気の怒気を感じ、流石のノアも恐々として撤回した。


「それが皆無では駄目だと思うよ……」


 ユーリが注意する。


「くだらないこと言ってないで。さっさと掃除しないかい。今日はあんたの当番だろ」

「掃除……そうか、その手があった」


 ぽんと手を叩くノア。


「まさかお前、自分が担当する家事を全部チャバックに押し付けて、それで仕事だの会社だの言い張るつもりじゃないだろうね?」

「悪いの?」


 ノアが不思議そうにミヤを見る。


「はい、ポイントマイナス1。お前達に家事を言いつけてるのは、修行の一環でもあるんだよ。何のために家事の一切合切を魔法でやらせていると思っているんだい」

「はあ……こんな程度でマイナス飛んできた。最悪だ。しかも俺の素晴らしい思いつきを速攻で否定とか。本っ当にこの糞婆……」

「あん? 何か言ったか?」

「いや、何も」


 ミヤが険悪な声を発し、ノアは空っとぼけた。


(俺が魔王になるための手伝いをチャバックにさせることが出来たら、会社としてはベストなんだけどね。それが具体的にどういう仕事内容になるかは、わかんないけど)


 それは流石に口に出来なかった。


「おっはよーん、ミヤ様、ユーリ君。あらあらあらあら、可愛い子じゃなーい」


 と、そこにブラッシーが訪ねてくる。そしてノアを見て表情を輝かせる。


「何の用だい? ブラッシー」

「お弟子さんが一人増えたと聞いて、どんな子か見に来たわ~ん」

「本物のブラム・ブラッシー? 凄い。オカマなんだ」


 ブラッシーを見てノアが感心する。


「どうして魔王を裏切ったの?」


 ノアがブラッシーに尋ねる。


「その質問を受けるのは10105回目よ。そしていつも私はこう答えるの。教えてあ~げないってね」

「いちいち数えてる方が凄いね」


 ノアが微笑みながら言い、ミヤの方を向いた。


「師匠、俺が魔法使っての仕事でもいい? 修行の一環として兼ね備えが出来るなら」

「内容次第だね。話してごらん」

「エニャルギーの生産販売。業者通さないで直に」

「それ、今は辞めた方がいいよ。不足して高騰しているし、魔法使いや魔術師が直接販売すると、噂になって、低価で欲しがる人が殺到して大変なことになるよ?」


 ノアの新たな案に、ユーリが難色を示す。


「その理屈だと、魔法で何やっても駄目になる。魔法使いがいるというだけで、エニャルギー作って売れと言われて、付きまとわれる可能性もある」


 ノアが反論する。


「そこまではないと思うけど。いや……たまにそういう人もいるけどさ」


 と、ユーリ。


「あるいはその領域に入るかもね。このままいくと」


 ミヤが昨日の魔術師の会合を思い出し、憂いの表情を猫顔に浮かべる。


「何の話してるのかしら~ん?」

「この子が会社作るとか言ってるのさ。友達を雇って食わせていくためにね」


 ブラッシーが尋ね、ミヤが答えた。


「あらあら~、偉いのねー。ノア君は幾つなの?」

「十三」

「その歳で起業、しかも友達のためとか、何ていい子なのかしら~。どんな味するのかしら~。ちょっと吸っていい?」

「血を? 嫌だ」


 笑顔を寄せてくるブラッシーに、ノアは身を引いて拒んだ。


「ノア君、あまり堅苦しく考えなくていいから、楽しんで働ける職場にした方がいいんじゃなーい?」

「ブラッシーは普段何してる人?」


 意見するブラッシーに、参考のつもりで尋ねるノア。


「私~? 私なら、世界を救った英雄として、三百年間あちこちでちやほやされながら生きてきたわー」

「そっかー。世界を救ったら公認ニートになれるんだね。羨ましい」

「ちょっとノア、失礼だよ……」

「はん、失礼なことないよ。図星さ」


 ノアの率直な台詞を聞いて、ユーリが注意し、ミヤは笑っていた。


「あのねえ、ノア君。私が訪れるだけで、イベント起こしてくれる町とか村とかあるのよ~ん。それで人々も楽しんでくれるし、経済効果だって生まれるの。私はただ存在するだけで世にハッピーを振りまく、ハッピーヴァンパイアなのよ~」

「酷い自慢……。気分悪くなる。あ、でも閃いた」


 一瞬頭にきたノアであったが、ブラッシーの話を聞いて新たな案を思いつく。


「イベント会社。エニャルギーを景品にしてイベントする会社にする」

「いいアイディアね~ん。私のおかげなんでしょ~? こうやって私は人の役に、誰かの幸せのために貢献しているってわけ。ただ存在するだけでハッピーを振りまくハピネスヴァンパイアなんだから~ん」

「今度は異論無い?」


 ブラッシーを無視して、ユーリとミヤを伺うノア。二人共何も言わなかった。


「本当に大丈夫なのかねえ、この子は」

「大丈夫。ノアはチャバックのために、しっかりとやりますよ」


 案ずるミヤに、ユーリが力強く断言する。


「何で先輩がそんなこと保障できるの?」


 そんなユーリに、ノアが不思議そうに尋ねた。


「僕はノアのこと100%信じているから」

「ごめんね。俺は先輩のこと、0.1%くらいしか信じてない」


 ノアが冗談めかして言う。


「そっか。ノアの0.1%って、すごく大きいよ。僕の100%くらい大きい」

「そうきたか」


 ユーリが悪戯っぽく微笑みながら返すと、ノアはにやりと笑った。


「早速会社設立だ。明日の朝、チャバックも呼んで相談しないと。皆も協力してね」

「儂もかい。儂は体調の問題もあるし、遠慮しとくよ」


 意気込みたっぷりに訴えるノアだが、ミヤは断った。


「ケチな師匠」

「この子は人の話を聞いてないのかい。マイナス1」

「ちょっと悪態ついただけでマイナス判定やめてよ」

「そもそも悪態つくノアが駄目だよ。悪態つくのやめよう」


 ぶーたれるノアに、やんわりと注意するユーリ。


「頑張ってねーん。応援してるわーん」

「ブラッシーさんも社員だよ」


 笑顔で応援するブラッシーに、ノアも笑顔で告げる。


「ええ~? どうしてそうなるの~ん?」

「どうせ暇でしょ。それに客寄せパンダとして優秀だって、今自慢してたじゃない。だったら社員として協力するのが、話の流れとしては正しい。それでニートも卒業できる」

「ブラッシー、どうせ暇だろうし、儂の代わりにしばらくノアの御目付け役をしな。ちょっと話しただけでわかっただろうけど、変わり者だし、割と危うい子だからね」

「ううう……二人がかりでどうせ暇って言われてるし~。ミヤ様に言われたら断れないじゃな~い。わかったわよ~ん」


 泣き真似をして了承するブラッシー。


「師匠に言われたら、伝説の救世主のブラッシーさんでも断れないんだ。師匠って凄いんだね」


 ノアが感心する。


「凄いと思ったらもっと敬意を込めて接するようにしな。って言っても、お前には無駄だろうけど」

「うん、無駄。絶対に無駄。永遠に無駄」


 ミヤの言葉に、笑顔でしゃあしゃあと答えるノア。


「ポイント2引く。お前はあまり舐めた態度取り続けていると、本当に破門で勘当だよ」

「これくらいで2引くなんて横暴だよ。ひどいよ師匠……」


 ポイントマイナスが堪えるノアは、良くなっていた気分が一気に沈んでしまった。


***


 翌日の朝。ソッスカー山頂平野の端っこに、ノア、ユーリ、チャバック、ブラッシーが集まっていた。


 四人のいるすぐ側は、坂になっている。

 無造作に置かれたテーブルの上に、エニャルギー結晶が大中小の三つのサイズで並べられている。そしてテーブルの横には、下手糞な字の手書きで『エニャルギー争奪ソリ大会』と書かれた旗が立てられていた。反対側には、木製のソリが幾つも置いてある。


「結局まだ社名は決まってないのね~ん」

「中々ね……。俺が出す案は尽く婆に反対されるし」


 ブラッシーが言うと、ノアは腕組みして難しい顔になった。


「社長は俺。副社長はチャバック。ユーリとブラッシーさんがヒラね」

「お、オイラが副社長っ。怖いようっ。それならブラッシーさんの方がいいよう。魔王退治に貢献した伝説の英雄で『八恐』の一人なんでしょ~?」


 ノアに副社長扱いされて、臆するチャバック。


「給料の取り分的に、チャバックを副社長にした方がいいという、俺の素敵な采配。ブラッシーさんとユーリは特にお金に困ってないから、安月給でいいよ」

「目の前でそんな風に遠慮無い言われ方すると、苦笑いしちゃうものね~。ノア君はもう少し言動を気を付けた方がいいわよん」

「僕も師匠も、口を酸っぱくして言ってるんですけどねえ……」


 ブラッシーがやんわりと注意し、ユーリが肩を落とす。


「でも友達のためにここまで頑張るなんて、ノア君、口は悪いけど優しい子ね~」

「俺にとってチャバックはただの友達じゃない。俺の体液を体内に注入したし、最早俺の眷属と言っていい」

「え? 何のこと……?」

「わからないままでいいよ……。チャバックも思い出さないでいい」

「何を言ってるのかしら。ノア君は吸血鬼じゃなさそうだけどん」


 ブラッシー、ノア、チャバック、ユーリが喋っていると、ぞろぞろと人が集まってきた。先程魔法で撒いたビラを見た人達だ。


 そのまましばらく待ち続けると、かなりの大人数が集まる。


「ビラにブラッシーさんの顔を載せていたのが効果的でしたね」

「凄いよブラッシーさん」

「いや~ん。それほどでもあるわねー」


 ユーリとチャバックが褒めると、ブラッシーは謙遜しているようでしていない言葉を口にする。


「想定外の人数になった。参加賞のエニャルギーが足りないから、追加で作らないと。昨夜に結構頑張っていっぱい作ったのにな……」


 ノアが集また人数を数え、追加でエニャルギーを作り出す。


「先着何人までとか決めればよかったわね~ん」


 ブラッシーもエニャルギー精製を手伝いながら言う。


「でも参加者全員がエニャルギー貰えるのはいいやり方だよ」

「参加料は取るし、それで何も貰えないで帰るのはどうかと思って。ハズレで帰らせるのは流石に嫌だね」


 ユーリもエニャルギー精製しながら褒めると、ノアが珍しくまともなことを言う。


 参加者分のエニャルギー精製が終わると、イベントが開催された。


 参加者は金を支払い、坂をソリで滑ってタイムを競う。ゴール地点到着のタイムの速い者には、大きめのエニャルギー結晶が与えられるというゲームだ。タイム結果が悪くても、参加賞として、支払った金額に見合うだけの大きさのエニャルギー結晶を受け取る事が出来る。


「あらあら、シンプルだけど盛り上がってるじゃなーい」

「皆楽しそう~。オイラも楽しい~」


 坂ソリレースに白熱している参加者達を見て、ブラッシーとチャバックが明るい顔になる。


「必死さと熱量。いい感じ。もっと崖の側でやって、一歩間違ったら崖から真っ逆さまの、デスゲームにすればなおよかった。何故か皆に止められたけど」

「デスゲームは駄目だよ……」


 笑顔で語るノアに、ユーリが言う。


「エニャルギー結晶販売……本当にやっているのか。困ったものだね」


 と、そこに魔術師姿の老人がやってきて、渋い顔で告げた。


「あ、ロドゲリスさん。今日は」

「あら、元ギルド長、お久しぶりぶりぶり~ん」


 ユーリとブラッシーが老人に挨拶をする。現れたのは、元魔術師ギルドのギルドマスター、パブ・ロドリゲスだった。


「ブラッシー様までこの子達に加担しておられるのか。実に困ったものだ」


 ブラッシーの顔が描かれたビラを取り出し、ますます渋い顔で言うロドリゲス。


「加担とは失礼ね~ん。ま、加担しちゃってるけどぉん」


 ブラッシーがおどけた口調で言い、舌を出す。


「何か用?」


 ノアがロドリゲスの前に立つ。


「困るよ、魔術師や魔法使いが直接販売してしまっては。エニャルギー結晶の販売には、ルールがあるんだ。ちゃんと流通ルートを通さないといけない」

「はあ? 俺がどこで何を売ろうと俺の勝手だよ」


 ロドリゲスに注意され、ノアは気分を害する。


「ノア君、商売するんなら、こういうことはいくらでもあるものだからねん。いちいち熱くなっちゃ駄目。良い対処を考えましょ~」


 ブラッシーがノアの両肩を揉みながら、やんわりとなだめる。


「でもロドリゲスさんの言い分もおかしいですよ。選民派の貴族が中引きしまくる卸売商人に屈服して、そういうルールが出来上がって、それで皆苦しんでいるんですよ?」


 ユーリがロドリゲスを見て、不満げな表情で訴えた。


「その言われ方は心外だ。いや……だが、気持ちはわかる。私としても、こんなことを口にしたくはない」


 ロドリゲスが大きく息を吐くと、イベントに集まった客達の方を向いた。


「申し訳ないが皆さん、この販売は違法だ」


 客達に向かって声をあげるロドリゲス。客達が一斉に注目する。


「しかし、この子達はエニャルギー不足の問題を黙って見ていられず、安値で販売に踏み切った。もし、この子達が非難された場合、皆さんでこの子達をかばってやってくれないか? これは私の個人的なお願いだ」

「応、お安い御用さ」

「こっちが助かってるんだ。喜んで引き受けるぜ」

「楽しかったですしねー。また是非ともやってほしいです」


 ロドリゲスが頭を下げてお願いすると、客達は笑顔で快諾した。


「嫌な爺かと思ったら、粋な所もある」


 それを見て、ノアは機嫌を直す。


「そうだね。ちゃんと御礼言っておきなよ」


 そう言うユーリも、ロドリゲスのことを見直しかけていた。しかし――


(師匠はロドリゲスさんのこと敬遠しているんだよね。理由はわからないけど。この場面だけ見ると、悪い人じゃないように思える……)


 しかしミヤが避けている時点で、ロドリゲスには何かあるのだろうと、ユーリは見ている。

11章、おわり。

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