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39-4 結局南極二号大転生物語 中編の後編

 一晩が経過した。


「つまり異世界で、勇者と魔王がタッグを組み、両陣営でもって、元凶の女神とやらに立ち向かったが、敗北したわけか」


 南極観測基地。観測隊隊長は僧侶クマーからここに至るまでの経緯を再確認する。


「うむ。そうなる。私は魔王と組むなど反対だったがな」

「それで殺されたってのはわかるけど、何でこっちの世界に飛ばされてペンギンにされたんだ?」

「女神は知っていた。我々が再生復活の秘術で、全滅しても全員完全復活させるつもりだったことを。故に、復活する前に異世界に飛ばしたうえに、復活できぬように――魂を肉体から完全に分離させるために、強制的に転生させたのではないかと、考えられる。事実、我々はペンギンに転生して、にっちもさっちもいかない状況にあるしな」


 隊長が疑問をぶつけると、僧侶クマーは神妙な口調で推測を述べた。


「この術には生贄も必要とするが、生贄となる資格がある者は死んだ。最早我々に打つ手は無い。そもそも元の姿に戻ったとしても、どうやって元の世界に帰るのかという問題もある。そしてまた女神と戦うことになろうとも、勝てる見込みは無きに等しい」


 諦めきった口振りで僧侶クマーは語る。


「魔王と勇者が手を組むほど悪い女神って何なんだ?」

「我々の世界は女神を奉っていた。女神が絶対者だった。そう信じていた。しかし女神は非常に残酷かつ冷酷な性質を持っていて、自分に従わぬ者は容赦なく粛清するような、苛烈な暴君だった。魔王タローは、そんな女神を討つために魔王になったと、我々は知った。彼奴から女神の正体を教えられた。故に手を組んだ次第よ」

「ふーん。しかし俺達にしてやれることは何も無さそうだ。餌やるくらいしかな」

「そうだな。この世界は魔力も乏しく、魔法も魔術も使いづらい。おまけにすぐに魔力切れになる」


 隊長と僧侶クマーが話していると、隊員がやってきた。


「隊長、レオパが来てますよ。基地のすぐ外に」

「こんな所まで来たのかよ。困った奴だな」


 隊長が立ち上がり、基地の外へと出る。僧侶クマーも好奇心でついてく。


「ちわっす」


 レオパが片足を上げて挨拶した。


「え……?」

「今……まさか……」


 きょとんとする隊長と隊員。


「秘密にしていたんだけど、実は俺喋れるっ。君達の言葉もわかるっ。ある時からわかるようになったっ」

「えーっ!?」

「ヒョウアザラシまで喋ったあぁっ!?」


 流暢に喋るレオパに、仰天する二人。


「ほらね、やっぱり驚かれると思った」


 想像通りのリアクションに、苦笑するレオパ。


「喋れるようになった理由も、言いづらいしねえ」

「貴様……我々の世界から転生した、魔力ある者を食したな?」


 僧侶クマーが、隊員の後ろからレオパを睨む。


「おや? 君も彼等の仲間だね。うん、まあそういうこと。おかげで知性が身について、喋ることもできるし、魔法や魔術も使えるようになったよ」


 僧侶クマーを見て、レオパが朗らかな口調で言う。


「ただでさえパワーあるヒョウアザラシが、知能も高くなって魔法まで使うとか……」

「一体どうなってしまうのか!? ……って、どうなるんですか?」

「言われてみればだからどーしたって感じだな。こっちに危害加えるつもりもなさそうだし」

「というかペンギンもアザラシも喋り出すとか、どーなってんですかねー」


 囁き合う隊長と隊員。


「俺は君達と友達になりたいんだから、危害なんて加えるはずは無いよー」


 レオパが隊長達を見て言う。


「友達だって?」

「うん、君達とずっと友達になりたくていたんだっ。だからペンギンをプレゼントしてアプローチしてたんだけど」

「すまんこ。あんなアプローチされても困るんだ……」

「そうだったのかー。こちらこそすまんこっ」


 謝り合う両者。


「つまり君達はペンギンが食べられない体なんだねっ。あははっ、それなら話は簡単だ。君達がペンギンを食べられるようになる魔法をかけるよっ。そーれっ」

「ちょっと待った! やめろーっ!」


 おかしな魔法をかけようとするレオパを、隊長が制した。


「ん? どしたのー?」

「俺達人間には決まりがあってだな。ペンギンを食べるようなことはしちゃいけないのっ」

「えー? 何それっ? どうしてそんな決まりがあるの?」


 隊長の言葉を聞き、レオパは驚きながら質問する。


「もし人間が自由にペンギン捕獲していいとかになったら、南極のペンギン滅ぶぞ」

「人間は数がいっぱいですし、悪い奴もいっぱいですしね」

「お前の餌も無くなってしまうぞ。それでもいいのか?」

「別に俺、ペンギンだけ食べてるわけではないけど、確かにそれは避けたいね。うーん……。わかった。それなら君達がほどほどにペンギンを食べるように魔法をかけよう。それならいいよねっ」

「それもよくねーよっ」

「断じてよくないっ!」


 レオパが口に道理を、隊長だけではなく、僧侶クマーも否定した。


「この世界に魔法は無いものだ。それを持ち込んで混乱させるべからず。魔法で他人の嗜好を変えるのも傲慢な所業であるぞ」

「そっか。わかったー。じゃあやめるさ」


 僧侶クマーの理屈を聞いて、レオパはあっさり引き下がる。


「む? 素直だな」


 意外そうな声をあげる僧侶クマー。


「でも代わりに何か好みのものが無いか聞きたいな。アザラシは食べる?」

「食べねーよ。でもまあ魚なら……」

「よーし、じゃあ魚取ってくるねっ」

「お、おう……ありがとうな……あ、ちょっと待てよっ。どうしてお前はそんなに親切にしてくれるんだ?」


 移動しようとするレオパを引き留める隊長。


「ん? 言ったじゃないか。君達と友達になりたいからだよっ。僕は君達のこと気に入ったし」

「それだけですか」

「うんっ、それだけ。じゃあっ」


 レオパは氷雪の上を這い、去っていく。


「あいつ、一人で寂しかったのかな?」


 レオパの後姿を見送り、隊長が呟く。


「ふーむ……話せばわかる手合いかもしれん」


 僧侶クマーもレオパの見方を少し改める。


「まあ喋るペンギンとヒョウアザラシがいてもいいじゃないか。俺達には危害を加えないようだし」

「せっかく喋れるようになったんだし、もっとゆっくりしていっていろいろお喋りすればよかったのに」

「しかしあれは私の仲間を食したのだ。どういう原理か知らんが、それによって彼奴めは知力が上がり、言語を覚え、魔法まで習得したのであろう」

「しかしペンギン食ったらパワーアップとかわけわからん話だな」

「ですねえ」

「何か謎があるのかもしれんな」


 隊長、隊員、僧侶クマーがそれぞれ言った。


***


 魔王タロー、勇者リッキー、ジロロ姫、魔王部下エーイ、ビィ、シーの六名は、今後の方針について語り合っていた。


「転生してしまった今現在の体から、再生復活の秘術で元の体に戻れるかどうか、賭けではある。そして魔力に乏しいこの世界で、それは難しいこともわかっている」


 魔王タローが五人を見渡して話す。


「だがそれでも、こうしてペンギンライフを送るよりかは、そちらを試してみる方に私は賭けたい」

「同意するぜ。じゃ、馬鹿僧侶クマーをここに呼び戻す必要があるな。それにあのヒョウアザラシもここに連れてこないとだ」


 勇者リッキーが言った。


「魔王様が今申した通り、この世界では、私とクマー様による再生復活の秘術が使用できるかどうか、怪しい面もあります」


 ジロロ姫が不安を口にする。


「加えて言えば、そもそも元の世界に戻れるかどうかも、わからない。方法はあっても、見つけるまで時間がかかるだろうしな」


 さらに不安要素を口にする魔王タロー。


「何度も言うが、僧侶クマーを見つけないと話にならない。探知魔法を使うぜ。ただ、この魔力の乏しい世界で、効果は――」

「それよりも空を飛んでいる鳥がいるだろう。あれに憑依した方がいい。そして鳥を利用して探させる」


 勇者リッキーの方針を遮り、魔王タローが提案した。


「おおっ、流石は魔王様っ」

「勇者なぞよりずっと冴えていますなっ」

「ちっ。じゃあ任せるわ」


 おだてるエーイとビィ、勇者リッキーは舌打ちしている。


 魔王タローが魔法を使って幽体離脱し、カモメに憑依して周囲を見渡す。


「見通しが良いし、カモメの目もいいから、捜索しやすいとも言えるな」


 上空からの光景を見て、ペンギンの口の方で呟く。


「む、建造物があるぞ。おかしなものもある。箱? 何だかわからないが、これは明らかに人工物だ」

「ああ、確かに人間がいるとは聞いていたが」


 魔王タローの報告を聞き、勇者リッキーは魔法使いジャックが人間に接触した話を思い出す。


「近づいてみる。おお、人の足跡が沢山ある。そして人がいるぞ……」


 作業している加速隊員数名を見て、それだけで懐かしく、そして嬉しく感じる魔王タローであった。


 建物の側にカモメを下ろし、建物中を探ろうと、窓から覗く。

 中に一羽のペンギンがいた。人間二人と会話を交わしている。


「いたぞ。我々と同じく、喋るペンギンだ。会話内容は聞こえないが、これが僧侶クマーの可能性が――」

「君、ただのカモメじゃないね?」


 魔王タローが報告している最中、カモメの背後から声がかかった。

 ぎょっとして振り返った魔王タローは、そこにいた者を見て、さらに驚くことになる。


 レオパだった。しかも空を飛んでいる。


「ヒョウアザラシのレオパに見つかった。偵察の方に夢中で気付かなかった。いや、憑依しているから魔力感知もしづらかった」

「はあ……よりによってかよ。最悪の相手に見つかったな」


 魔王タローの報告を聞き、勇者リッキーが嘆息した。


***


 闇の中、映像が投射されている。映し出されているのは、雪と氷の世界だ。そして数羽のペンギンだ。


「ふん、魔王タローも記憶を取り戻して合流し、何やら画策しているみたいねー」


 映像を見て、嘲笑交じりの声で呟いたのは、一羽の茶色いカモメだった。この鳥はオオフルマカモメという種類の鳥だ。カモメと名付けられており、見た目もカモメと大差無く見えるが、実はカモメの仲間ではない。ミズナギドリ科の鳥である。


「あんな姿になってもなお、諦めてないってわけね。流石は私に盾突いた勇者と魔王ね。じゃあ……さらなる絶望に叩き落としてやろーっと。きゃはははっ」


 オオフルマカモメが甲高い声で笑うと、映像を消し、次元の門を開いて飛び込んだ。

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