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33-4 ごめんで済ます

 それはまだフェイスオンがメープルFと一体化し、マミ、ジャン・アンリ、アルレンティスと共に、人喰い絵本の中にイレギュラー探しのために潜っていた頃の話。


「はーい、らっしゃいらっしゃい。いつもと変わらぬお値段だけど、水棲生物園にいらっしゃーい。今日も水中のペンギン捕食ショーやるよっ。はーい、そこのおねーさん達、水棲生物園にいらっしゃーい。園長である俺がペンギンを水中で引き裂いちゃうよーっ。見たいよねーっ」


 朝から水棲生物園前で、園長のレオパが明るい笑顔で呼び込みを行っている。


「ちょっとレオパ……こんな所で何してるの?」


 そんなレオパを見て、メープルFが声をかける。


「えっ? ええええっ? メープルF? 何で顔だけになってるの? しかも男の人の頭にくっついてるしっ」


 メープルFを見てレオパは仰天する。


「色々あったのよ……。詳しくは話したくない」

「えー、面白そうだし是非聞きたいのにっ」


 目をキラキラ輝かせるレオパに、メープルFは憮然とした。


「メープルF、この方と知り合いなのかい?」

「私と同じく、世界を渡り歩く者よ」


 フェイスオンが尋ねると、メープルFが答えた。


「他の世界では喋る動物なんて、この世界以上に稀なる存在。そんなものはいないとされている世界も多いわ。でもレオパは、別世界産で喋れるヒョウアザラシだから、かなりレアな存在よ」

「修験場ログスギー経由でここに来ることが出来たよっ。あはっ。ここはいい世界だし、ここに居つくことにしたんだー」

「この世界が気に入ったの?」

「うん。ここは喋る動物がそんなに珍しい世界でもないようだし、そういった動物は、人と同等に扱われるのがいいねっ」


 ただの喋る動物というだけではなく、かなりの喋り好きではないかと、フェイスオンはレオパを見て思った。


「居場所が欲しかったんだよねー。で、俺やっと居場所が得られたみたい。見てよ、この水棲生物園。俺が園長してるんだよっ。凄いだろー」

「そうなの……」

「メープルFはまだ探究を続けてるの?」

「私達はそういう一族だから。でも、一つの世界に定住してしまった者もいるわ。メープルCのように」

「メープルCは元気にしてるかなー? 昔、西方大陸ア・ドウモで世話になったよー」


 この時の二人の会話を、フェイスオンは適当に聞き流していた。


***


「シモンさん、王様だって言ってたよね? それならワグナー議長をここに連れてこれないかな? そして俺と園長の前で謝らせて欲しい」


 バークがシモンに向かって要求すると、今度はレオパの方を見た。


「園長。シモンさん達とこれ以上争ってほしくない。今の俺の案で終わらせようよ。確かにワグナー議長が責任者だけど、生物園を強引に壊した本当に悪い人達とは、別なんでしょ?」

「うむ。拙僧はワグナーのことをよく知っておるが、非道な真似をするような輩ではないぞ」


 バークの言葉にシモンが補足する形で言った。


「ゴォ……そんなんじゃ俺の気が済まないけど、確かにバークの言う通りだー」


 バークに諭され、レオパは床に降りてうなだれる。


「復讐の大部分は果たしたのに、まだ気が収まらなかったのかい?」

「あはっ……復讐に取りつかれちゃってたかもね。俺はせっかく築いた大事な居場所も、初めて出来た家族も失くしちゃって……おかしくなってた」


 伺うフェイスオンの言葉を、レオパは力ない声で認めた。


「バーク、レオパ。拙僧は――否、余はア・ハイの王として、公式に謝罪する。強引な開発による水棲生物園の取り壊しによって、死者が出たことも、多くの生き物が犠牲になったことも、公表しようぞ」


 力強い声で宣言するシモン。


「そしてバーク、それが済んだら、拙僧がお主を成仏できるように経を唱えてしんぜよう」

「ありがとう。よろしくお願いね、シモンさん」


 シモンの言葉を聞き、バークは心なしか寂しげに微笑んだ。


「レオバ、それでもなお気が済まんか? もう復讐は大部分済ませたのであろう? ワグナーも殺さねば気が済まんか?」

「いや、いいよー……。バークにここまで言わせて、何か俺、復讐に取り憑かれていたことで、バークのことも苦しませていたのかなー? だとしたら、バーク、ごめんね」

「苦しんでいたけど……園長が心配だったっていうか……」


 バークか渋面になって、言いづらそうに言う。


「これで一件落着になりそうですか?」


 フェイスオンがシモンの耳元で尋ねる。


「うむ。あっけないが、これでよしだ! カッカッカッ!」


 ひょっとしたらバークはこういう機会をずっと待っていたのかもしれないと、シモンは思う。一人では説得しきれなかったので、自分とフェイスオンが来たことを好機としたのではないかと。


***


 その後、シモンは連盟議会へと赴き、ワグナー議長や連盟議員の貴族達に、事の次第を説明し、この一件を公表して、公式に謝罪するよう求めた。

 当然だが貴族達はいい顔をしなかったが、ワグナーは快諾した。ただし――


「王宮から逃げ出して旅に行くのは当分無しでお願いします」


 と、満面の笑みと共に、シモンに釘を刺したうえで。


 その後、王宮に新聞記者を呼び込み、水棲生物園の強引な取り壊しが行われ、中にいた生き物を殺し、園長の息子まで死なせたことも、全てを明かしたうえで、シモンとワグナーはレオパとバークと向かい合い謝罪した。


 さらにその後、シモンは僧衣に着替え、別の部屋で王から僧になって、バークと向かい合う。レオパとフェイスオンもいる。


「あの世に行っても園長のことは忘れないから。園長との思い出、いっぱいあるんだ」


 バークがレオパに向かって笑いかける。


「プールに突き落とされて、泳いでペンギンを口で捕まえろと言われたこと。園長がズダスタにしたペンギンの残骸を生で食わされそうになったこと。水中でペンギンを二人で引き裂く作業を強要されそうになったこと。皆、忘れられない思い出だ」

「それって虐待では?」

「ペンギンをどれだけ死なせれば気が済むのじゃ」

「えー、虐待じゃないし、俺はヒョウアザラシだから、ペンギンは餌兼玩具だから仕方ないよっ」


 バークの話を聞いて、フェイスオンとシモンが突っ込み、レオパは弁解した。


 それからシモンが経をあげる。

 バークの姿が薄くなっていく。バークがレオパに向かって微笑みながら手を振り、何かを告げようとした所で、その姿が完全に消えた。


「さよなら……バーク」


 バークがいた空間を見つめながら、レオパが涙をぽろぽろと零し、別れを告げた。


「レオパよ。水棲生物園を別の場所に建て直してみてはどうか? 援助は惜しまんぞ」

「ありがたい話だけど、援助はいいよー。俺は俺の力でお金を稼いで、水棲生物園を再建するからねっ」


 シモンが申し出たが、レオパは笑顔でやんわりと断った。


***


 レオパと別れ、シモンとフェイスオンは二人並んで王宮内の一室で向かい合っていた。シモンは再び国王の衣装に着替えていた。


「締まりの悪い話であったが、これにて一件落着じゃの。しかしあのレオパの力、尋常ではなかったのー。豪傑なのは知っていたが、あそこまで強いとは思わなんだぞ」

「ええ、私もレオパの力に驚きました。私と師匠の二人がかりでも敵わないとは。そもそもこの生物園のイメージ体の維持からして、尋常ではない魔力を消耗するはずです」

「女神の魂を食ったとかどうとか言っておったのー。師匠にもこの話はしておくとしよう」


 女神だけではなく、魔王や勇者がどうこうという話も、レオパから聞いた。ミヤ達が絵本世界で別の魔王と戦ってきたという話は、シモンも聞いているので、この情報はミヤに伝えた方がいいと判断した。


「メープルFがいれば、レオパに関して詳しい話も聞けるかもしれませんね」

「それよりあのお喋りアザラシのことだし、本人に聞けば、簡単にぺらぺら喋りそうなものよ。ま、急く事でもないし、今は本人も落ち込んでいるよううだし、そっとしておくことにしよう」

「それはそうと、久しぶりに師匠と共闘できて楽しかったです」


 フェイスオンが気恥ずかしそうに微笑みながら言った。


「カッカッカッ、儂もじゃよ。しかしお互いまだまだ未熟じゃのー」


 笑いながらぺしっと己の頭を叩くシモン。


***


 レオパは一人、繁華街をとぼとぼと這いずっていた。


「ああ……終わっちゃったなー。復讐は虚しいって本当だねっ。俺、今すごく虚しいっ。そして哀しいっ。どうしようかなあ、俺。バークともお別れしちゃったし。幽霊でも一緒にいて欲しかったけど、やっぱりそんなの駄目だし、これでよかっただよねっ」


 ぶつぶつ独り言を言っていると、目が急に熱くなり、レオパは立ち止まる。


「ああ……でも駄目だ。哀しいっ。道の真ん中で涙が出てきたっ。通行人の皆、俺を見ないでー」

「んがふふっ!」


 一人で喚くレオパの前に、立ち止まって声をかける者がいた。イボだらけで唇が分厚い異相の男だ。


「あ、ンガフフ。おひさ――って、何でア・ハイにいるの? 観光?」

「んがふふ!」


 レオパに問われ、ンガフフは短く叫んで答えた。


「メープルCの命令で働いている? ふーん、そっかー。あはっ、じゃあ俺もメープルCに会いに、ア・ドウモに戻ろっかなー?」


 ンガフフの言葉がわかるレオパであった。


「んがふふッ」

「え? それならこっちを助けてほしい? 今はア・ハイで活動しているし、人手が欲しい?」


 きょとんとした顔になるレオパ。


「んがふふ」

「うーん……」


 うんうんと頷くンガフフ。レオパは首を傾げて唸って思案する。


「うんっ、いいよ。メープルCには借りがあるし、丁度暇になった所だしねっ」

「んがふふっ!」


 レオパが承諾すると、ンガフフは嬉しそうな声をあげて大きく頷き、毒々しいお菓子をレオパに向かって差し出した。

33章はこれにて終わり

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