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32-23 頭の中に途中で挟まれる絵本の意味

 ミラジャが主人公の絵本を見終えて、ユーリ、ノア、チャバック、スィーニーの四人が、ミラジャ達と距離を取って集まる。


「ミラジャさん、魔族の生まれ変わりだったんだ」

「そして魔族に復讐するため、ネロを煽ったのか。力を手に入れた後で、この力で復讐できると考えたわけだ」


 ユーリとノアが言う。


(そんな……ミラジャが……)


 最も衝撃を受けていたのは、チャバックの中のネロだった。


(ネロにも見えたんだね) 

(うん、僕にも絵本が見えたよ。チャバックと精神が繋がっているおかげかな)


 チャバックが声をかけると、落ち込んだ様子のネロが答える。いつも明るく前向きなネロらしからぬしょげ方だ。そしてチャバックにはネロの気持ちが、ダイレクトに伝わってきてしまっている。


「魔王を倒すために力を求めたわけじゃなく、魔王討伐は、力を手に入れた後に決めたんね」


 スィーニーが言った。


(僕はミラジャのことを信じていた。今でも信じたいし、仲間だと思いたい。でもミラジャは僕達のことを道具くらいにしか思っていなかったのかなって、そんな疑いが湧いてくる。これは僕の心が醜いからなのか?)

(そ、そんなことないようっ)


 ネガティブモードのネロを、チャバックは何とかして励まそうと努める。


「あうあう……オイラの中にいるネロにも今の絵本が見えちゃって、ネロが凄く悩んでる。傷ついてる」


 しかし自分の手には負えないので、言葉に出して助言を求めた。


(傷ついているってほどでも……いや、あるかな)


 苦笑するネロ。


「仲間だと思っていた者が、復讐のために自分達を利用しようとしていたなんて事実知ったら、それはキツいと思うよ。少しそっとしておいてやった方がいいよ」


 と、ユーリ。


(僕は大丈夫。あんまり心配しないで。いつもと立場が逆だね)

(あうあうあう……)


 ネロに言われ、チャバックは自分が情けなくなる。


「図書館亀もいたね。あいつ、絵本の中に出てくるんだ」

「イレギュラーでダァグの手下だけど、出ちゃいけない理由もないし、ダァグの判断一つってことかな」


 ノアとユーリが言った。


「ミラジャ本人にはっきりと真相を聞いてみたらどう?」

「ちょっとノア……それは不味いんよ」


 ノアの提案に、スィーニーは眉根を寄せる。


「ネロ達とミラジャの間に不和が生じかねないよ?」


 ユーリも否定的だった。


「正直それが見てみたかった」

「ノア……あんたねえ。思いつきで楽しんでいるだけじゃんよ」


 あっけらかんと言うノアに、呆れるスィーニー。


「俺は生粋の悪だから仕方ない」


 ノアが笑顔で胸を張る。


「まあ、ミラジャの動きには注意した方がいいと思う。何かおかしなぜんまい回そうとしたら、すぐに制止できるよう構えておく」


 真顔になってノアが告げた。


「その注意喚起のために、頭の中に絵本を流してくれたったことなん?」


 スィーニーが疑問を口にする。


「それは……あるかもね」


 物語を誘導しようとしている意思を感じ、ユーリの胸の中に黒い火がくゆる。


「僕の考えだけど、チャバックが勇者ネロの役を担ったことに、ミラジャも関係してくるから、そのバックストーリーを見せてきたんじゃないかな? 何の意味も無く、途中で個々の絵本を流さないと思うんだ」


 ユーリが私見を述べる。


「そっかー。アリシアと精霊さんの絵本の時も、絵本で皆の過去を知ったことで、皆のことがよく知れたもんね」

「親近感も湧いたしね」


 チャバックとノアが言った。


「話は変わるけど、この先勇者の軍隊はどうなるの?」


 ノアがスィーニーとチャバック方を向いて尋ねる。


「進軍した先で、連合国軍はさらに四つの国と合流予定らしんいよ。大陸でも二位の勢力を誇る帝国とも合流できるとか言ってたわ」


 スィーニーがミラジャから聞いた情報を伝える。


「一位は?」


 ユーリが尋ねる。


「大陸どころか世界一の軍事国家があったけど、真っ先に魔王軍に潰されたってさ」


 スィーニーが肩をすくめて答えた。


***


(今の何? 頭の中に映像流れたっ)


 ミヤの頭の中で、驚きの声をあげるイヴォンヌ。


(儂と精神がリンクしているせいで、イヴォンヌにも見えたようだね。勇者軍のナンバー2の聖女とやら、過去を見た限り、とんだ食わせ物だ。まさか魔族憎しの元魔族だったとはねえ)

(自分の復讐のため、勇者という駒を作って、利用しているわけだー。でもミラジャも利用されているんじゃない?)


 イヴォンヌの言葉を聞き、ミヤは小さく笑った。


(儂も同じことを思ったよ。ミラジャを天啓という形で導いたのは、彼女に力を授けた図書館亀だろうさ。あいつも時折余計なことをしてくれる)

(あの喋る亀さんとも知り合いなんだ)

(絵本世界を――お前達の世界を創っている連中の一派だよ。まさか絵本の中に現れるとは思わなかったけどね)


 嬲り神もそのうち絵本のキャラの一人として現れるのだろうかと、ミヤは勘繰ってしまう。しかし嬲り神の性格を考えると、それは無いような気もする。


(へー、つまり作者か編集者が、本の中に登場しちゃったと?)

(まあ、そんなところだよ)


 イヴォンヌの解釈は、限りなく確信に近いとミヤは感じた。かつてダァグ・アァアアも、自らを主役にした絵本を見せたうえで、自分達の前に現れている。


***


 ミラジャの絵本を見た数日後。


 連合国軍が新たに四つの国と合流する目前にして、立ちはだかる者達がいた。魔王軍の陸軍本隊だ。

 地平線を魔族の軍が埋め尽くし、連合国軍と向かい合っている。数のうえでは連合国軍が勝っているが、魔族と人間、兵の個々の戦闘力に差がある。


「おいおい、あいつぁ魔王軍地上主力軍団じゃねえか。しかも三将軍の一人、陸軍トップのヴ・ゼヴウさんもお出ましだぜ。上等じゃねーか」


 望遠鏡で敵陣を眺めていたキンサンがうそぶく。


「何名かの魔王軍の下位将軍と、それらが指揮する軍団や師団も連れているようだ」


 ミラジャが言った。


「つまり、魔王軍の陸軍が集結している感じ?」

「そうかもしれない」


 ユーリが問うと、ミラジャは曖昧な答えを返す。


「しかしよう、こちらの目論見通り、地上の魔王軍主力を誘き出せたまではよかったが、残り四国と合流した後にしてほしかったなー」

「理想はその形であるが、仕方あるまい」


 キンサンとミラジャの台詞を聞いて、ユーリは思い出す。そもそも連合国軍を組織した理由が、魔族の陸軍を出来る限り掃討することだった。つまりその目的が遂げられようとしている。


 やがて戦闘が開始された。地響きをたて、砂煙をあげて、気合いの雄叫びと共に、万単位の兵士達がぶつかりあう。

 キンサンとウスグモは前線に出ていった。二人の能力は、多数を相手にして無類の強さを発揮する。一度に何人もの敵を屠れる代物だ。後方で腐らせておくよりも、前線に出した方がいいと、ミラジャは判断した。


 戦いの趨勢は、三十分もしないうちにはっきりとわかった。連合国軍の兵士達の数が目に見えて減っている。一方で魔王軍の兵士達は、連合国軍の陣営にどんどん切り込んでいる。


「キンサンとウスグモは奮闘しているけど、どんなに強くても、二人で戦局を引っ繰り返すのは無理があるんよ」

「あの二人がいなければ、より被害は甚大になってそう」


 本陣から戦闘の様子を眺めて言うスィーニーとノア。


(見てられないな……)


 ネロがチャバックの中で強いもどかしさを覚える。チャバックにそんなネロの気持ちが伝わってきて、チャバックも同じ気分になる。


(あのさネロ……勇者の力を使いたいの? あの緑色の光を使えば、こっちが有利になる? そうしたいの?)

(うん。使いたい)


 恐る恐る尋ねるチャバックに、ネロは即答した。


(ミラジャはそれを望まないだろうけどね。あの力を使えば、敵軍の多数を薙ぎ払える。士気にも影響を与えるだろう。出し惜しみなんてしていたくない。被害が広がる前に使いたい)

(わかった。オイラやるよ)


 ネロの気持ちを汲み取り、チャバックは剣を抜いた。


 チャバックの全身から緑色のオーラが立ち上る。周囲の注目がチャバックに集まる。


「ネロ! 君はまだ力を使っては駄目だろう! あまり手の内を見せすぎると、魔族に対処されてしまう危険性が高くなるんだぞ!」


 それを見てミラジャが怒号を放ったが、チャバックは従うつもりはなかった。


(ミラジャの言う通りなんじゃないか? こればかりはミラジャが正しい気がするけど……)


 ユーリは思ったが、制止はしなかった。自分とミラジャの考えが絶対に正しいとも言い切れない。


 チャバックが力を解放しようとしたその時――


(チャバック! 逃げて!)


 チャバックにはわからなかったが、ネロは真っ先に攻撃の気配を感じて叫んだ。


「チャバック!」

「ネロ! 危ない!」

「逃げろ!」


 ユーリ、ミラジャ、ノアも全く同時に叫んでいた。


 それらの声に触発されるが如く、チャバックは動いていた。


 チャバックが大きく横に跳んだ直後、巨大な光の柱が、チャバックがいた場所に降り注いだ。


「チャバック!」


 スィーニーがチャバックの前に立ち、ハルパーを抜いて構える。


 全員の視線が上空に向けられる。

 そこには二人の男が浮かんでいた。一人は箒を持ち、もう一人は長い巻物を持っている。二人共ボロボロの僧衣を身にまとって、二人とも異相と断じてよいほど特徴的な顔をしていて、笑みが張り付いている。


「あちき達は殺す気は無かったのに、皆必死だね」


 箒を持ったボロボロの僧が、くすくすと笑う。


「某、あの方からチャバックは殺すなと言われているが故に」


 巻物を持ったボロホロの僧がへらへらと笑う。


「何者だ? 魔族の気配はしないようだが」


 ミラジャが問う。


「あちきかね?」

「某かね?」


 二人が笑いながらミラジャを見る。


「あちきはジットク」


 箒を持った僧が名乗り、箒をくるりと回転させる。


「某はカンザン」


 巻物を持った僧が名乗り、風になびく巻物を手の甲で軽く撫でる。


「某等は嬲り神様の僕よ」

「ま、あちきらもイレギュラーであり、ダァグ・アァアアに創られし神々という所かな」


 カンザンとジットクが口にした台詞を聞き、ユーリ、ノア、スィーニー、チャバックは驚愕する。


「其方等のことは嬲り神様からよく聞いている」

「ここで勇者の力を使わせるわけにはいかぬ」

「それは某等が防がせてもらう」

「嬲り神様は他の用事で忙しいので、あちきらが其方らの相手をしよう」


 カンザンとジットクが言い、地上に降りた。


「何でここで嬲り神が出てくるのよ……」


 訝るスィーニー。


「何を言ってるのか、よくわからんが……。君達は知っているようだな」


 ミラジャがユーリ達を見て言う。


「嬲り神が俺達の邪魔をする理由は? ただの遊び?」

「さあね~? 遊びかもね?」

「教えて欲しいかね? 教えてあげてもいいよ? あちきと遊んでくれたらね」


 ユーリの問いに、カンザンとジットクは笑いながらとぼけた答えを返し、二人同時に、弾けるように動いた。

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