31-1 スィーニーの目利きイベント
ある日の朝、ミヤの家の前に、チャバック、スィーニー、ブラッシーの三名が集まっていた。
「ちょっと遅刻しちゃった身でこんなこと言うのも何だけど、社長さんはまだ出てこないの~?」
「遅刻ったって、ブラッシーさんはたった二分じゃんよ。私とチャバックが約束の時間着いた時、ノアは寝てたんだわ。にゃんこ師匠がすぐに起こすって言ってたし、今準備してると思う。それにしても遅いけど……」
ブラッシーが問うと、スィーニーが時計を見ながら言った。すでに集合時刻を十五分も過ぎている。
「すまんこ。二度寝しちゃった。婆に起こされたけど。ふわぁ……」
寝ぼけまなこのノアが出てきて、謝罪した後で欠伸した。
四人で歩き出す。歩きながら打ち合わせを行う。ノアとチャバックとブラッシーは、イベント用の道具を持っている。これからノアの会社で、新たなイベントを行う予定だ。
「さて、今回の主役はスィーニーね」
「K&Mアゲインとの抗争入る前に言ってたのに、ずーっと棚上げしていたイベントだね」
ノアとチャバックがスィーニーを見る。
「私のサファイアの瞳の目利きが存分に活かされるってわけね。やってやんよ」
スィーニーが自信満々に言う。今回のノアの会社によるイベントは、スィーニーの目利きによる、お宝探しイベントである。良品はスィーニーが買いとることになっている。特別優秀な品を持ってきた者には、エニャルギー結晶もプレゼントする予定だ。
今回、会場となる場所は、ソッスカー山頂平野入口周辺の街道近くだった。人の出入りがある場所なので目立つ。イベントに飛び入り参加も出来るようにするために、この場所を選んだ。
イベント会場の設営を終えると、早速客がぞろぞろとやってくる。数日前から事前に広告を出した結果――だけではなく、以前のイベントのリピーターもかなり多い。
「今回は結構人がいるよ。大丈夫かなあ?」
チャバックが案ずる。
「心配しなさんなって。しゃかりきになって鑑定しまくってやんよ」
力強い口調で言うスィーニー。
やがてイベントが始まり、次々と鑑定していくスィーニー。
高い値段がつくと歓声があがり、自信満々の品に安い値がつくと笑いが巻き起こりと、目利きイベントは想像以上の盛り上がりを見せた。
そこにランドとアウリューが来る。
「おー、やってるやってる。今日は~」
アウリューが手を振って声をかける。
「あー、ランドさんとアウリューおねーちゃんも来たよー」
「お二人共いらっしゃ~い」
チャバックとスィーニーが明るい表情で二人を迎える。
「いらない掘り出し物ならいっぱいあるよー。見て見てー」
「妻がわりと色々買い込んでいてな……」
アウリューが無邪気に、ランドは気恥ずかしそうに、スィーニーの前で様々な品を並べていく。
「ちなみに俺も珍品はわりと持っている。正確には母さんが買った怪しいグッズの数々だけど。母さんが飽きて俺にくれた奴。今出すかな。あ、俺はイベントは不参加ね。ただ鑑定してくれればいい」
ノアが言い、アウリューとランドの後ろから、様々な品を並べていく。
「うんうん……アウリューとノアのは、全部インチキ商品だわ、こりゃ」
「えー、つまり母上、騙されてたってわけ?」
スィーニーの容赦ない鑑定結果に、アウリューは肩を落とす。
「いや……待って。ノアのこれは……」
三日月のペンダントを見て、初めて解析の魔術をかけるスィーニー。
「封印されていて気づかなかった。かなり強い力が封じられているんよ」
「そうなの? 俺も持っていて気付かなかった」
「気付かれないようにする術もかけてあるね、こりゃ」
スィーニーが難しい顔になる。
「解除してみよう」
ノアが魔法で解除しようとしたが、出来なかった。
「駄目だ。解除できない。後で婆に見せてみよう」
かなり強い封がかかっていたので、ノアは期待に胸を膨らませる。
(母さんに訊いた方が早いかな。いや、俺に渡した時点で、多分母さんも気付いていない。値打ちものなら俺にくれるはずがない)
ミクトラの存在と同時に、マミを意識するノア。
「やってるねえ。乗り込んできたよー」
そこにシクラメも現れた。
「うわ、シクラメまで来た」
「ノア、駄目だよー。お客さん相手にそんな顔しちゃ。シクラメ、いらっしゃあい」
露骨に顔をしかめるノアを注意して、チャバックは歓迎した。
「ねね、チャバック、ちょっと明日になったら付き合ってくれないかなあ」
「ん? 何の用?」
シクラメの誘いを受け、訝るチャバック。
「内緒。悪いことじゃないよう」
屈託の無い笑顔で人差し指を口元に立てるシクラメ。
(嫌な予感は……しない。この期に及んで、シクラメが変なことするとも思えないし)
シクラメを見てノアは思う。
続いて、オットー、ウルスラ、ガリリネも来た。
「ガリリネも来たんだ」
ノアがシクラメの時よりさらに嫌そうな顔で言った。
「チャバックが頑張ってるから応援しに来たんだよ。ノアは余計だったけどね」
「ちょっとー、いきなり喧嘩は駄目だよー」
ガリリネがかちんときて挑発し返すと、またチャバックが仲裁に入る。
「これはこれはスィーニーさん、上手い商売を考えついたものですな。いや、ズルい商売と言った方がいいですか?」
スダレ頭の中年小男がへりくだった口調で声をかけてきた。
スィーニーの顔色が一瞬だけ曇る。西方大陸エージェントであるカーク・マロニーだ。立場上は、スィーニーの上司にあたる。
「この人、スィーニーの知り合い?」
胡散臭い見た目のカークを見て、ノアが尋ねる。
「行商人仲間でございます」
「仲間だとは思ってないわ。冷やかしなら帰ってくんない?」
答えるカークに、スィーニーは不快を露わにして言い放つ。
(このおじさん、スィーニーと仲良さそうには見えないな。最初の台詞からすると商売敵って感じ?)
ノアがカークを見て思う。
「おお、この商品は私がほしかったものなのですよ。譲ってくれませんか?」
「ちょっとカークさんっ、何やってんのっ。勝手に触んないでっ」
鑑定品の一つを掴むカークに、スィーニーが声を荒げる。
「し、失礼をば。興奮してしまって。どうしてもこれが欲しいのです。譲っていただけませぬかっ。どうかこちらで交渉を」
「ごめん、ちょっと休憩にして」
カークが鑑定品を持ったまま距離を取ると、スィーニーは諦め顔で断りを入れ、カークの後を追った。
「カークさん、こんな目立つ所に出てきたうえに強引すぎるんよっ」
「ふふっ、現地人と仲良くやっているようですな。結構なことでございます。貴女はやはり優秀なようだ」
抗議するスィーニーに、カークはけろっとした顔で言ってのけた。
「魔法でこっそり聞かれてはいないようですな。では大事なお話をしましょう」
真顔になり、シリアスな声を発するカーク。
「当たり前と言えば当たり前ですが、管理局はターゲットMの周囲が騒がしくなってきたと認識し、警戒しております。八恐のうち三名が集結し、この地に送りこんだ工作員達が殺され、おまけにあのAの騎士の正体が八恐の一人だったのですから」
「騎士団や魔術師に工作員を潜入させる計画は進んでいるの? ターゲットMをどうにかしようにも、足場が欲しいじゃない」
「まだ私はターゲットMをどうにかするなどと、申しておりませんが?」
「そういう話の流れに聞こえたんよ。私をからかってるん?」
険のある表情になって睨んでくるスィーニーを見て、カークは息を吐いた。
「そのようなつもりはございません。スィーニーさんねえ、話が飛び過ぎていますよ」
なだめるかのような口調にカークに、スィーニーも少し落ち着きを取り戻す。
「貴女はターゲットMやその弟子達とも懇意です。言わばターゲットMと最も近い場所におられます。その立場を利用し、ターゲットMにより接近し、彼等の企みが何であるか探り当てて欲しいのですよ」
(企みって……にゃんこ師匠何も企んでないでしょ。多分)
スィーニーが高速で頭を巡らす。
(でも一度こういう疑いを抱いた相手に、『何も企んでないみたいでーす』って言っても、絶対に『そんなはずはない』になるんよ。わかってるんよ)
口で言っても信じない相手に、理解を求めても仕方ないとして、適当に合わせることにする。
「わかったわ。でも成果はあまり期待しないで」
「ガードが堅いということですか?」
(いや……そうじゃなくてね……。ま、勝手にそう思わせておけばいっか)
問いかけるカークに、スィーニーは無言で頷き、肯定することにした。
***
イベントが終わった後、スィーニーはミヤに直接会って、カークとのやり取りを報告した。
「――というわけなんよ」
「ふん、なるほどねえ。そりゃ八恐が三人も一ヵ所にいれば、西に疑われるのも当然だね。しかも一人がディーグルとあれば猶更だ」
スィーニーの話を聞いて、ミヤは笑っていた。
「何も企んでいないと言っても、確かに通じなさそうだね。ま、八恐を側に置いているのには、確かに理由はあるんだ。いっそそいつを正直に述べちまうかねえ。いや、わからせるというやり方がいいか」
「理由がちゃんとあったん? どんな理由なん?」
「人喰い絵本の対処に協力させるためさ」
尋ねるスィーニーに、ミヤはあっさりと答えた。
「人喰い絵本の発生頻度が上がっているだけじゃなく、その在り方も変化しつつある。人喰い絵本の創造主なんてもんが出てきたうえに、儂やユーリやノア、それにチャバックまでもが狙われているようだしね。奴等に対抗するため、そして決着をつけるためにも、戦力が欲しいのさ」
「チャバックまで……? 何で?」
「わからん。しかしスィーニー、お前には一つ教えておくよ。誰にも言うんじゃないよ」
「うん。約束する」
緊張するスィーニー。
(魔王との約束破るとか、怖くてできるわけないじゃん)
口の中でそう付け加える。
「儂はチャバックと会う度に深い縁を感じていた。おそらくチャバックの前世が、昔の儂と深くかかわった誰かなんだろうよ。それが誰だかまではわからないけどね。それだけは薄々わかっている。しかしチャバックが人喰い絵本に二度も吸い込まれているのは、明らかに人喰い絵本に狙われていると見ていい。その理由まではわからんよ」
「そっか……」
ミヤが何を言わんとしているか、スィーニーには何となくわかった。ミヤはチャバックが人喰い絵本に狙われている理由が、自分にあるのではないかと疑っているのだろうと。
***
夜。ミヤ家。
ノアはマミから貰った三日月のペンダントをミヤに見せ、封印を解いてもらった。ついでに解析もしてもらう。
「これは……エニャルギーの吸引機だね。魔力も変換してエニャルギーに出来るよ。一回限りの使い捨てだけど」
ミヤがペンダントの正体を言い当てる。
「起動できるようにしておいてやったよ。しかし使い捨てだから、使うタイミングは見計らうんだね」
「ここぞという時の切り札だね」
ノアがにやりと笑い、ペンダントをミヤから受け取る。
「それで今日のイベントは成功したの?」
ユーリが尋ねる。
「大盛況だった。スィーニーが大変そうだったけど、スィーニー的にはかなり儲けられそうだと言っていた。つまりこっちも大儲け」
嬉しそうに答えるノア。
「まあ、スィーニーの鑑定力を利用する発想は、中々良かったんじゃないかい。プラス3やろう」
「師匠、プラスくれるのは嬉しいけど、もっとサービスしてよ」
笑顔で告げるミヤだが、ノアは不服な表情になった。
「師匠、悪いけど明日も修行休ませて」
ノアが言う。
「休む理由を言いな」
「チャバックがシクラメに誘われている。危なさそうだから付き添い」
「ふーむ……もうシクラメは心配ないと思うけどねえ」
「俺もそう思うけど念のため」
ミヤの言葉を聞き、ノアが言った。




