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28-2 真実に辿り着いた者が現れた

 さらに一日経過した。

 山頂平野繁華街にある小料理店『刀傷の安らぎ』に、中年夫婦と十代半ばの少女の三名の客が訪れる。


「あっ……」


 客の一人――ランドが、店内にいた知り合いを見て思わず固まってしまった。出来れば知り合いに会いたくはなかった。


「あらランドちゃん、珍しいわねー。山頂に来るなんて。ていうかお連れさんがいたのねー」


 紅茶を飲んでいたブラッシーが、ランドに声をかける。


「ああ、今日は家族サービスの日だよ」


 頭をかくランド。


「うわ、本物のブラム・ブラッシーだっ。しかも父上と知り合いっ」


 ランドの後ろから、少女が嬉しそうに声をあげる。


「こら、初対面で礼儀なってねーぞ。しかも呼び捨てとかどういうつもりだ」

「あらあら、別にいいのよー。私は気にしないわーん」


 ランドが娘を叱ると、ブラッシーが笑顔で軽く手を振る。


「ランドの妻、メルル・グリーンです」

「よろしくね~ん」


 ランドの隣にいた中年女性がえしゃくする。


「ランド・グリーンの娘、アウリュー・グリーンでっす。以後お見知りおきを~」

「あら、溌剌な娘さんのねー。貴族らしさもなくて、いい感じよ~」

「あははは、それって誉め言葉ってことでいいよねー?」


 アウリューが屈託なく笑うと、他の客がうるさそうにアウリューを一瞥した。


「おい、声でけーよアウリュー。他のお客さんに迷惑だろうが」

「っいさなー、父上は細かいことを」

「細かくねー。大事なことだ。礼儀作法はまだいいとして、人様に迷惑だけはかけねーようにしろよ」


 むっとした顔で言い返すアウリューに、ランドは怒気を孕んだ声で注意する。


「父上、こんな凄い人と知り合いだなんて、もしかして今の仕事から抜け出ることできそうなの?」


 話題を変え、ランドとブラッシーを期待を込めた眼差しで見やるアウリュー。


「何でそうなるんだよ。どういう繋げ方だ」

「何だ~、違うんだ。がっかり。コネ使って何とかできないかとか思ったのにー」


 ランドの言葉を聞いて、アウリューは落胆する。


「えー、お父さんは一生懸命仕事しているんだから、そんなこと言っちゃ駄目よーん」


 ブラッシーがやんわりと注意する。


「だってさあ……。私、友達の前でも恥ずかしいよ。父上がかつては副団長補佐にまで出世したってのに、今は落ちぶれてこんな役職だよ?」

「こんな仕事とか人前で馬鹿にすんなよ。大事な仕事だ。旧鉱山区下層は色々と火種を抱えている場所だから、しっかり務めないと――」

「あー、こんな所にまで来てお説教いらなーいっ」

「お前が先に言いだしたんだろーがっ」

「はーい、喧嘩はやめー。他のお客様に迷惑よ~ん」


 段々とヒートアップする親娘を、ブラッシーが制した。


「どーよ? ブラッシー殿。俺が大変なのわかっただろ?」


 苦笑しながらブラッシーに同意を求めるランド。


「ほらほら、私がせっかく喧嘩ストップかけたのに、またそんなこと言ったら、また空気悪くなっちゃうでしょーん。ランドちゃんも問題あるわよ~ん」

「デリカシー無さすぎなのよ、父上は。空気も読めないしさ」

「ぐっ……すまん」


 ブラッシーとアウリューの二人がかりで言われ、ランドは申し訳なさそうにうなだれた。


***


 旧鉱山区下層部にある診療所。休み時間に応接間の扉を開きフェイスオン。


「ノア、君が来るとはね。何の用事だい?」


 自分を訪ねてきたノアに、フェイスオンが尋ねる。


「母さんのことだよ」


 ノアがにやりと微笑む。


「フェイスオン、あんたは母さんの体を作って蘇らせた。母さんの魂はまだ冥界に飛んでいない。肉体を失っても、魂だけで現世に留まり、生きている状態。実にからっぽな生だけどね」

「ああ、でも失敗してしまったよ」

「もう一度挑戦してみない? 実の娘である俺の細胞を使えばさ、もっとうまくいくんじゃないかな?」


 ノアから思いもよらない申し出を受け、フェイスオンは目を白黒させる。


「今度は君がマミを復活させたいのかい?」


 フェイスオンが真顔で問う。


「完全に復活は勘弁。ちょっと違う。完全に蘇生させろとは言わない」

「どういう意味だい?」

「あのね――」


 それからノアは、自分の要望をフェイスオンに伝えた。


「なるほど。そういうことか……。中々面白いね。それならいけるかもしれない。ただし、最初のうちは、何度もここに足を運んでもらって、データの提供を頼むことになるよ。今度は失敗しないように、こまめに調整していきたいからね」

「それくらいお安い御用」


 フェイスオンの条件を聞いて、ノアはにっこりと笑った。


***


「あ、ユーリきゅーん。こっちこっちー」


 ユーリが繁華街を歩いていると、声がかかった。見るとイリスとンガフフと白い鎧を着たゴリラがいる。


「今日は、イリスさん、ンガフフさん。それと……」


 ユーリがゴリラを見る。白騎士団に喋るゴリラがいるとは聞いたことがある。


「白騎士団所属のロック・Dと申します。以後お見知りおきを」

「あ、魔法使いミヤの弟子、ユーリ・トビタです。はじめまして」


 ゴリラの白騎士――ロック・Dに低い美声で挨拶され、ユーリはイメージの違いに一瞬戸惑いながら、自己紹介する。


「ロック・Dさん、ユーリきゅんはあのジャン・アンリと死闘繰り広げたっていうのよー。すごいでしょー」

「存じております。かつてはXXXXクアドラエックスをも仕留めたそうですね。まだ若いのに素晴らしい戦果をあげておられる。流石は大魔法使いミヤ様のお弟子さんと言った所でしょうか」

「んがふふ!」


 称賛するロック・Dに、ンガフフも力強い声で同意しているようであった。


「いやあ、僕なんてまだまだですよ」


 形ばかりは謙遜しておくユーリであるが、正直、名のある騎士に褒められて、かなり嬉しい。


「私とロック・Dさんも、手柄あげたんだからー。ヤバイ魔道具搭載した超デカいゴーレムやっつけたしねー」

「そうなんですね」


 最強の黒騎士と最強の白騎士のタッグが戦う姿は、見ておきたかったと思うユーリ。


「私は白騎士団の一員で、地方の魔物退治が専門ですので、ユーリ殿と轡を並べる機会はそう無いでしょうが、もしそのような機会がありましたら、よろしくお願いします」

「はいっ」


 ロック・Dの言葉に、元気よく返事を返すユーリ。


「あ、先輩。それにンガフフとオウムも」

「誰がオウムですかーっ!? わざとでしょっ、私を怒らせるためにわざと言ってるでしょーっ!」


 そこにノアが現れて声をかけると、イリスが翼をはためかせて怒号をあげた。


「うおっ、ゴリラだっ」


 ノアがロック・Dの姿を見て、瞳を輝かせる。


「お初に御目にかかります。白騎士団に所属するロック・Dと申します」

「名前は聞いたことある。俺は魔法使いミヤの弟子のノア・ムサシノダ」

「存じております。先日のK&Mアゲインとの戦いでも、戦果をあげたと。復活したXXXXを仕留めたと聞きました」

「その話、巷に流れちゃってるのか……」


 ロック・Dの話を聞いて、ノアは憂い顏になる。


(つまり俺と母さんが戦っている姿、誰かに見られていて、母さんがXXXXだということもバレたってこと? あるいは婆が報告したのかな? 後者なら問題無いけど……。いや、多分後者だろう。前者はちょっと辻褄が合わないというか、母さんがXXXXだと知っている人はそんなにいない。黒騎士なら……一度交戦しているから知っているだろうけど)


 自分がマミと交わした会話も聞かれていやしないかと、ノアは案じていた。


「ところで、ドラミングしてみて」

「ちょっとノア、初対面で失礼だよ」


 ノアがロック・Dに要求し、ユーリが注意する。


「お安い御用です。ウホホホホーッ!」


 ロック・Dがドラミングを始め、通行人達がぎょっとしてロック・Dを見る。


「凄い。流石だ」

「ンガフフ!」


 先程自分も同じ台詞を言ったと思いながら、ロック・Dのドラミングに感心するノアであった。隣ではンガフフが拍手している。


「ドラミングとインコとンガフフも見たことだし、一緒に帰ろう、先輩。痛たたたっ!」

「もう許さーん! ミヤ様の弟子でも許さーん!」


 帰宅を促したノアの頭の上に止まって、嘴で突きまくるイリスであった。


***


 ミヤの家に、意外な人物が訪れた。


「軟禁はもう解かれたのかい?」

「目的を告げたうえで、見張りつきであれば、外出は許されることになったということでよろしいか? 外には見張りの魔術師が一人待機していると言っておく」


 ミヤの問いに対し、布にくるまれた二枚の画板を抱えたジャン・アンリが答えた。


「大魔法使いにしては質素な暮らしだと言っておく」


 広間を見渡して言うジャン・アンリ。


「ふん、猫にしては贅沢さ。それで何の用だね?」

「二つの用事がある。まずはこの二つの絵を届けにきた」


 そう言ってジャン・アンリは床に画板を置く。しかし中を開いては見せない。


「また絵かい」

「だが今度は怒った顔を描いたわけではない。ミユとユーリ、そしてノアに、それぞれプレゼントだ。是非見ていただきたいとしておく」

「ふーん、どれどれ」


 ミヤが魔法で布をめくろうとする。


「待たれよと言っておこう。今広げず、ユーリとノアが揃った所で開けて欲しい。その方がインパクトがある」


 ジャン・アンリに制され、ミヤは布を開く魔法を止めた。


「それは何だか楽しみなようであり、怖くもあるね」


 一体どんな絵なのかと、興味が湧くミヤ。


「もう一つの用事は?」

「質問であるとしておく。はっきりさせておきたいことがあった。知的好奇心で尋ねたいということでよいか? お弟子殿が二名とも不在は丁度よい機会と言っておく。よろしいか?」

「何だい?」


 ミヤが伺うと、ジャン・アンリはいつもと同じ口調で告げた


「大魔法使いミヤ――魔王ミヤと言う方がよろしいか? 貴女の正体は魔王であるとしてはどうであろう?」


 ジャン・アンリの言葉を聞いて、ミヤは一切そのキャットフェイスを変化させなかった。しかし彼女の周囲の空気は明らかに変わった。

 ジャン・アンリの指摘を耳にしたのは、ミヤだけではなかった。その時丁度、家の外にノアとユーリがいて、扉を開けて中に入ろうとしたその直前で、家の中からジャン・アンリの声が聞こえた。聞いてしまった。


「今の声、ジャン・アンリ? とんでもないこと言った……。先輩も聞こえたよね? 婆が魔王だって……」

「師匠が……魔王?」


 ノアとユーリ、二人揃って呆然としていた。

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