表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/306

19-8 ミヤも一応こだわる

 ユーリの攻撃は全く通じなかったが、ブラッシーの攻撃は嬲り神の体を吹き飛ばしていた。この違いが何であるか、ユーリにはわからない。


「おやおや、見抜いたかァ~。流石は魔王に仕えていた大幹部様だァ。ひゃははははっ」


 頭から血を流し、へらへら笑いながら身を起こす嬲り神。


「貴方は人の頭の中を覗くのが得意なんでしょ~? それなら私が、貴方が攻撃をすり抜ける術理を見破った事だって、わかっているんじゃないの~?」


 からかうように言うブラッシー。


「ブラッシーさん……どうなっているんです?」


 質問する一方で、ユーリは霊園の樹木に視線をやる。樹木にはあの輪がぶら下がっている。


「嬲り神はねえ、周囲の空間ごと次元を瞬間的に一つずらして、攻撃をすり抜けているのよ~。転移ともまた微妙に違うわん。空間操作であることには変わりないけど、コストパフォーマンスが優れている感じ~。力の扱いそのものは、難易度高いんだけどね~」


 そこまで術理を説明すれば、あとはどうすればいいか、ユーリにも判断がついた。ブラッシーはその次元のズレに合わせて、自身の攻撃も瞬間的にずれた次元に送り込んでいる。故に、嬲り神に攻撃が届く。


「つまり、神様だろうと不可侵の存在じゃないってことだね」


 ユーリは念動力を用いる。対象は、樹木になっている輪だ。


「ごめん」


 一言謝ってから、ユーリが樹木になっている輪を取った。


「おいおい、まさか」


 嬲り神が面白がるようにユーリを見る。


 ユーリが命の輪を自分の体に食い込ませる。


「ちょっとちょっとユーンリく~ん、そこまでする必要無いでしょ~。何かあったらどうするの~?」


 ブラッシーが呆れる。ユーリが命の輪から力を得ようとしている事は明白だが、それが上手くいく保障はどこにもない。命の輪が力を与えるものだとしても、適当に自分の体に入れて、それで力を得られるかどうかなどわからないのに、ユーリは自分の体でいきなり実験しだしたのだ。


(これで一時的にでも、僕の魔力の蓄積量、最大放出量、そして集中力の向上による魔力制御技術が上がれば……ブラッシーさんと同じように、嬲り神に攻撃が通じるかもしれない)


 そういう目論見がユーリにはあった。


「駄目よっ、ユーリ」


 宝石百足が制する。


「駄目じゃねーよ。よく見てみろ。制御してる」


 嬲り神は心底楽しそうにユーリを見ていた。


 ユーリが魔力の矢を大量に作り、嬲り神に向けて放つ。


 嬲り神はブラッシーが説明した通りの方法で、瞬間的に次元をずらして、攻撃をやりすごそうと試みる。


 矢の多くは次元のすり抜けによって、嬲り神に当たる事は無かった。しかし何本かは、ユーリの空間操作によってずれた次元へと侵入し、嬲り神の体を刺し貫いた。


「おお~。やるじゃねーか。全部じゃねーけど、ちゃんと制御できたじゃねーか。俺がミヤに代わってポイントつけてるやるぁ。プラス23な」


 ダメージを再生させながら、嬲り神は上機嫌でユーリを称賛する。


「儂はそんなに高得点はやらないよ。せいぜい今のはプラス7という所だ」

「師匠にしてみれば結構な高得点だ。そもそもプラスが珍しいし」


 ユーリ達の後方から声がかかった。

 ミヤ、ノア、イリス、豚に乗ったサユリ、再び豚に乗ったダァグ・アァアア、騎士二名が現れる。


 ユーリは振り返らず、嬲り神に視線を向けたままであったが、その口元は綻んでいる。


「ミヤ様~ん、御足労かけさせちゃってごめんなさーい」


 ブラッシーは振り返って、笑顔でミヤに手を振る。


「おおっと、ダァグまでいるな。そしてサユリか。ジャン・アンリもこっちに向かっているし、どうやら面子が揃いそうだぜ~。ひゃはははははっ」


 現れた面々を見て、嬲り神が楽しげに笑う。


「嬲り神、どうして君が客人達と戦っているんだい? それは趣旨と異なるじゃないか」


 ダァグが豚から降りて、眉をひそめて問う。


「ダァグ君? 貴方の配下を名乗る騎士や術師、それに獣も私達を襲ってきたんだけど~ん」


 嬲り神が答えるより前に、ブラッシーがダァグに声をかけた。


「そうか。それは悪かった。すっかり存在を失念していたよ。でもあれは自動的に侵入者を排除するものだから、大目に見てよ」


 ダァグのその答えを聞いて、ユーリはカチンときた。嬲り神から目を逸らし、ダァグの方へと振り返り、睨みつける。


「自分の配下の存在も失念するほど、神様って偉いんだ。そのうえ大目に見て? 自分の配下も死んでいるのにそれだけ?」

「ええ……? 配下と言っても、あれは魂が無いし、人形みたいなものだよ。何で僕をそんな怖い顔で見るんだい?」


 ユーリに睨まれ、ダァグは鼻白む。


 その時、ようやく宝石百足が嬲り神から受けた束縛を解いた。


「ダァグ。嬲り神の口車に乗って、魔王廟の封を緩めるつもりなの? 貴方は中立では無かったの?」


 今度は宝石百足が嬲り神に問い詰めた。


「僕はそんなつもりで来たわけじゃない。ミヤの目的は逆。坩堝の封印を締め直す事に賛同した者達だよ。嬲り神には機会を与えたけど、間に合わなかったようだね」

「あたくしは賛同してないのでして」

(俺も賛同してないけど、師匠の手前反対できないし)


 ダァグが言うと、サユリが否定し、ノアが口の中で呟く。


「坩堝の封印を緩めるも締めるも、坩堝に辿り着いた者に任せる形。坩堝はそういう取り決めだよ。欲望の赴くままに封印を緩めて、この前のミヤのように力を引き出してもいい。平和のために封印を締めて、次なる魔王の誕生を先延ばしにしてもいい。僕はこの件に関しては中立。どちらにも加担しない。ただ、案内と説明はする。君達の世界とこちらの世界が密接になりすぎたおかげで、三百年前? 坩堝が解き放たれ、魔王がそちらの世界にも出現してしまった。最大のイレギュラーだ。初のイレギュラーであり、初めて二つの世界が繋がりを持ったと言ってもいい。そしてそれが再び出現する可能性が高まってきた」


 ダァグの話を聞いて、何人かは息を飲む。

 そして何人かはダァグの言い回しが気になった。魔王がそちらの世界にも現れたと言っている。つまりは元々魔王なる存在は、人喰い絵本の中にいた者だと受け取れる。


「望む者が望むことをすればいいよ。先に達成した者の勝ちだ。放置しておいてもいいけど、嬲り神が機会を与えるべきだと主張したから、いつも世話になっている君達の御礼の意も兼ねて、機会を与えたんだ」

(どういう言い草なんだ……。偉そうに……。神様だからか?)


 まるで御褒美をくれてやるという口振りに聞こえてしまい、ユーリはダァグに対して激しい苛立ちを覚える。


「うへへへ、頑張るお前達にサービスしてやったんだよ。ミヤ、お前は特に、人喰い絵本の研究に熱心だっただろ? 創造主様を呼び出した事で、一気に謎が氷解しまくったじゃねーか。よかったなあ」


 嬲り神がへらへら笑いながら言うと、ミヤは無言で嬲り神を睨みつけた。


(こいつが何を企んでいるのか、計り知れないね。本当に言葉通りに、ただの気まぐれのおせっかいかもしれないし、全く面倒な奴だよ)


 ミヤと嬲り神との付き合いは長い。三桁以上の年月になる。それでもなお、彼の考えはわからない。


「嬲り神が何を企んでいるかはさておき、僕は君達を騙すつもりはないよ。君達の存在は知っていたし、気にかけていた。徐々に歩み寄っていうと思った。手始めに坩堝に案内しようと思って。あれは君達の世界にも大きな関わりがある」


 ダァグが言う。


「ふんっ、取り敢えず魔王廟に行くよ」


 ミヤが促し、全員で移動を開始する。嬲り神との戦闘は自然消滅する格好になった。


 やがて大きな建造物が現れる。特に変わったデザインでもない。むしろ簡素で無個性な造りの建物だ。しかし禍々しい雰囲気が噴出しているのが、全員の肌で感じられた。


「ここが魔王廟。入るよ」


 ダァグが言い、一同は魔王廟に入る。


 中に入った所で、嬲り神、ダァグ、宝石百足、ミヤ以外の全員が驚いた。建造物の中は広大な空間が広がれ、一面の星空だ。いや、足元も星空が広がっている。見えない床の下が星空だ。


(この空間も久しぶりよの。入口は別だったが……)


 感慨深さに、目を細めるミヤ。


「これが坩堝?」

「違う。ここが夢の世界。全ての世界と通じている世界だけど、本来、自由に行き来できるものではない。メープル一族が僕の創った世界と、ある程度自由に行き来できるようにしてしまった」


 ユーリが誰とはなしに問うと、ダァグが答えた。


「坩堝はこの先。管理人を呼ぼう」


 と、ダァグ。


「話がまだよくわからないんだけどな。魔王の力の封印とか、魔王のお墓とか、夢の世界とか」

「そーそー、色々単語が出てきて、整理できませーん」


 ノアとイリスが言った。


「魔王の力は魔王廟から繋がる、夢の世界=『坩堝』に蓄積されていき、いずれ封印から溢れ出て、誰かを魔王にするという仕組みよ」


 宝石百足が端的に説明する。


「坩堝に溜まっていく負の念が力の源となるのさ。あらゆる世界から流れ込んでくる、負の念の溜まる場所、それが坩堝ってなァ。いずれ封印は破れ、坩堝から力が溢れ出ちまう。それは時間の問題だが、時間が来ないとそれは起こらねえ。んで、封印を緩めることで、坩堝の封印が解ける時間も早まるってこった。今はどうあっても、完全に解き放たれるってことはねーよ」


 嬲り神が補足する。


「その負の念は……創造主である君が、悲惨な運命を作り続けているから、増えているんだよね?」


 ユーリが硬質な声で、ダァグに話しかけた。


「そ、そういう一面も確かにあるけど……。全部僕の責任ではないよ。夢の世界は全ての世界と接している。死後の世界もそうだという話も聞いたことがあるね。坩堝には、多くの世界の負の念が流れ込んでいる」


 先程からユーリに敵意を向けられ続けているダァグは、釈明も交えて説明した。


「でも君の責任でもある。何で酷い話ばかり作るの? 何でそんなことするのさ」

「ユーリ、およし」


 明確に非難するユーリを、ミヤが厳しい声を発して制した。


「何で止めるんです? 師匠。言わせてください」

「君、隋分と僕を敵視しているみたいだけど、僕が君に何か悪いことでもしたの?」


 ミヤに向かって告げるユーリに、ダァグが曇り顏で尋ねる。


「したよ。僕だけじゃない。多くの悲しみを生み出しているじゃないか」

「ユーリ、悪い子だね。マイナス1。今はそういう話をする場面じゃないよ。黙ってな」


 ユーリが怒りを滲ませた声で指摘し、ミヤがさらに厳しい声を発して急いた。


「管理人を呼んだけど応じない。仕方ないな。封印を緩めるも締めるも自由だ。君達の望む方でやって」


 ユーリの批難によってげんなりした表情になったダアクが、心なしか投げ槍な口調で告げると、目の前に突然巨大な黒い渦が発生した。


「これが坩堝なのね~ん……」


 黒い渦が放つ凄まじい禍々しさに、闇の気配を好む吸血鬼であるブラッシーですら、圧倒されていた。


「で、どうするの?」


 ノアがミヤの方を向いて伺う。


「封印を強化するんだよ。魔法でね。魔力で固めるイメージだ。皆でとりかかるよ。魔法を使える奴は全員協力しな」

「ぶひ~? そんなの、あたくしに何の得にもならないから嫌でして。サユリさんは自分の特にならないことは一切やらない女なのだ」


 ミヤが命じたが、サユリは非協力的だった。


 サユリを無視して、ミヤ、ノア、ユーリ、ブラッシーで作業に入る。


(封印を外から緩めることは出来ても、締め直すのは側にいないと出来ないとはね。しかも時間がかかって、緩めるよりずっと大変な作業ときた)


 封印のために、魔力の凝固作業を行いながら、ミヤは皮肉と感じていた。


「霊園に人が来たわ。ジャン・アンリ達よ」


 宝石百足が報告し、封印作業が途中で中断される。


「あいつら遅かったなあ。いや、まだ間に合うか」


 嬲り神がへらへらと笑う。


「うわあい、先にミヤ達が来てたねえ。嬲り神の言った通り、サユリもいるよう」

「ブラッシーも合流したようだな。そしてあれがダァグ・アァアアか。ふむ……随分と儚い雰囲気という感想にしておく」


 シクラメが歓声をあげ、ジャン・アンリが淡々と喋る。ロゼッタもいる。


「来たか。間に合わなかったね。嫌なタイミングだよ」


 ミヤが振り返る。ユーリとノアとブラッシーも作業を中断させて、星空が広がる空間で、K&Mアゲインの三名と向かい合う。


「ミヤ、君は僕とアザミとの戦いで、あっちの空間からこの坩堝に干渉して、夢の世界と現実世界を繋げて、力を引き出したんだよねえ。そんな凄まじいことが出来るなんて……君はジャン・アンリ達より遥かに人喰い絵本に熟知してるってことお?」


 シクラメが問いかけるが、ミヤは答えない。


「さて、どうするか思案のしどころではないか?」

「人数的に不利なのれす。こっちは三人、向こうは魔法使い四人と八恐のブラッシーれすし」


 ジャン・アンリとロゼッタが言った。


「私も魔法使い勘定でいいのよ~ん」


 ブラッシーが身をくねらせて主張する。


「あーあ、やっぱり騎士三人は戦力として勘定に入れてくれないのねー」

「正直人喰い絵本の攻略に騎士いらないもんね。足手まとい」


 イリスが諦めたように言うと、ノアが容赦無く切って捨てる。


「こら、ノア」

「むっかーっ、私達だって決死の想いで頑張っているってのにィ~っ」


 ミヤが叱り、イリスが憮然として翼をはためかせる。


「言うまでもないが、俺達は干渉しないぜ~」

「つい今しがたまで、私達にちょっかい出していたくせに何言ってるのよーん」


 嬲り神が言うと、ブラッシーが突っ込んだ。


「ぶひぃ……そうかっ、ジャン・アンリとシクラメは封印を緩めたい側なのであるかっ」


 はっとするサユリ。


「うむ。その解釈で正しいと言っておこう」


 ジャン・アンリが頷く。


「実はあたくしもそうでしてっ。というわけで、サユリさんはこっちにつくのであるっ」


 言うなリ、サユリは駆け足でK&Mアゲインの三人の側へと移動し、ミヤ達と向かい合う体勢を取る。


「おおっ、これで四対四れすよっ」


 ロゼッタが歓声をあげる。


「こうなると、質は向こうが勝ってしまうでしょうか」


 ユーリがミヤに伺う。


「ユーリ、ノア。お前達にはまだ教えなくちゃならないことがいっぱいだが、魔法使いとしての実力は、ここ最近で急成長を見せている。あいつら相手にもそれなりに戦えるさ。足りない所は儂が補ってやるから、臆せず、力いっぱいぶつかりな」


 ミヤが力強い声で鼓舞した。


「師匠もたまにはいいこと言うね。プラス2してあげる」


 胸に熱いものを感じ、にっこりと笑うノア。ユーリも珍しくミヤに力づけられて、やる気が溢れていた。


「儂に採点するんじゃないと何度言ったらわかるんだいっ。しかもたった2かいっ」

「師匠もつけられる点数の大きさにこだわるんだね」


 ミヤが憮然として声を荒げると、ノアがおかしそうに言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ