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断章 28-?? 師匠は魔王?
それは何時の話か?
「嘘でしょ……師匠。悪い冗談ですよね?」
長髪の少年が、一匹の猫に視線を向け、声を震わせて問いかける。
「嘘ではない……。本当のことだよ。魔王が勇者に討たれたという伝説の方こそ、真実とは異なるのさ。魔王はこうして生きているんだよ」
黒白のはちわれ猫が暗い声で告げる。
「師匠が魔物の軍を率いて、多くの人間を殺し、国を滅ぼしたって……。『人喰い絵本』や……魔物……様々な災厄をもたらしたなんて……」
「ああ、その通りだよ。お前の母親も――」
蒼白な顔で喋る少年を見据え、はちわれ猫は言った。
「師匠が魔王なんて……信じられない」
「こんな嘘をついてどうする。残念だがね、儂が魔王なのは事実だ。儂こそが、この世で最も忌むべき悪なんだよ」
声だけでなく指先まで震わせる少年に向かって、猫は厳粛な口調で事実を述べた。