補給任務
駅のホームでは戦時中だというのに未だ活気に溢れていた。
路上芸人や新聞売り、恐らく売っている新聞にはあいも変わらず、祖国の勝利が大体的に報じられているのだろう。
俺の祖国は長い間戦争をしていた、始まりは三年前の些細な出来事たった。
いや、その前から緊張状態ではあったが、まだ戦争は回避できた。
だが、俺達の旅団が国境沿いで演習をしていると、突如仲間の一人が姿を消したのだ。
参謀本部はこれを敵国の工作と断定し宣戦布告…
だが今考えていれば、もともと開戦は決まっておりあとはきっかけを作り出すだけだったのかもしれない。
そもそもいなくなった仲間はその日の晩に帰ってきており、消えた理由は彼女に会うためといったひどく自己中心的なものだった。
しかしどんな始まり方であれ始まってしまった戦争は未だ終わる気配は無く泥沼の様相だった。
しかも祖国の人海戦術により人的資源は損耗するばかり、今となっては将校すらも前線に立つのが日常化している。
そんな人命ものともしない戦略を採っているせいで諸外国からは、畑から人が生える国と揶揄されているらしい。
しかしソンナクニデ俺は高校卒業後軍隊学校に入り職業軍人に成った、そのためいくら死ぬ危険があったとしても作戦通りに駒に成る必要があった。
先日も同期の死亡通知が届いた、これで16人目だ、自分の番が来るのもそう遠くは無いだろう。
しかしこの戦争で功績を挙げれば駒ではなく、逆に駒を操る側になるかも知れない。
そしたらこんな前線勤務とは程遠い参謀本部で安全な思いを出来るはずだ。
――俺は参謀本部からの指令で、前線への補給部隊の護衛兼増援として前線へ移動していた。
去年の冬から前線は殆ど動いておらず、いたずらに命と物資が消えている。
しかし俺が今輸送しているのは我が祖国の虎の子師団のカチューシャ部隊だ、これが前線にたどり着いた暁には敵兵を憐れな肉片に出来るだろう。
前線まで十キロ地点にある補給拠点の村に到着すると増援部隊はそのまま前線へ急がせ、自分は補給拠点で持ってきた物資の引き渡し業務をしその晩はそのまま眠りについた。
明日になったら再び前線に行く事になる、今更死を恐れる訳でもないが、死にたい訳でもない、たが俺は軍学校では首席で卒業し任官した。
そして南方戦線でも功績を挙げた、さらにここでも活躍したら参謀本部への移動も夢じゃない。
だったら多少の無理をしてでも手柄を挙げるべきか?
明日に成ったら前線に行き功績を挙げてやる。
そんな事を考えながら俺はまどろみの中意識を消していった。
しかしその夜俺は部下の叫び声と砲撃音で目が覚めた。
「起きて下さい上官殿っ!!夜襲です!
敵の機動部隊とおぼしき部隊が攻撃を仕掛けてきました、指示を!!」
「なに?」
その時俺は半分眠ったままの頭を無理やり叩き起こした。
確かに今ここで一番階級が高いのは俺だ、防衛するにしても退却するにしても俺の指示が必要だ。
それにしても何故機動部隊がここに?前線が崩壊したのか?
いや、何をするにしても敵の規模が分からないとどうしようもない。
「おい!!そこの伝令員!!敵戦力の数と構成は分かるか?」
「はいっ、夜襲なので正確な者は分かりませんが先程までの情報ですと、軽戦車20両装甲車30両随伴歩兵300人程だと思われます」
普通の機動部隊として格段数が多いわけではない、だとしたら前線がここまで後退した訳ではなくこの補給拠点への攻撃をするための別動隊だろう。
だったら敵は突出しており味方の増援まで守れば俺達の勝ちだ。
「ここに居る防衛部隊の規模は?」
「おおよそ500名駐屯していますががその殆どがまともは戦闘訓練を受けていない補給部隊です。
武器弾薬は、先日の増援部隊に殆ど引き渡したためここには糧食位しかありません」
「はぁ?」
少数の補給兵と食料しかない中でどうやって守れってんだ!!
いやまだいくらでもやり様ある、こちらは味方の増援が来るまで耐えれば良いだけだ、まだ諦めるべきではない!!
「全戦闘員に指令!!
全員中央の教会跡に集合、武器は…食料のこの中に適当な酒があるだろ、それに布切れでも入れて火炎瓶でも作れ!!」
まだだ、俺の死に場所はまだここじゃない!!
今ここで死んだら今までの俺の人生がすべて水泡に帰してしまう…
すると、ヒューっと音がした途端物凄い爆音と熱と共に目の前が真っ白になった。