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パーティメンバーは個性的①

 親しげに近付いてきたのは、繊細な美しさをたたえる青年だった。

 腰まで届く絹糸のような銀色の髪に、澄んだ金色の瞳。冴え渡るほど透明感のある肌。

 暗い色味のローブを羽織っているが、ルネル村ではお目にかかれない神秘的な銀髪を、むしろ際立たせているようだった。

 青年のすぐ後ろを歩いている女性も華やかな美貌で、レネは目を奪われた。

 赤みの強いストロベリーブロンドは緩く弧を描きながら肩を流れ落ち、華奢な体を一層儚げに見せている。小さな面には紺碧の瞳が星空のごとくきらめいていた。

 ――あぁ、あれが噂の第三王女だ。

 レネは自然と確信していた。

 のどかな村には不釣り合いなほど、端然とした佇まい。いいや、きっと都会においても、誰もが特別視するに違いない。

 そしてそれはセーヴィンをはじめ、他の面々も一緒だった。

 もちろん、クラウスも。

 勇者一行の噂にはこんなものもあった。

 平民出身の勇者は、魔王討伐後に褒賞として王女と結婚するのではないか。王族となり、この先も民を守り続けてくださるのでは。

 まるで物語のような噂。

 けれど特別な者同士、彼らが仲睦まじく寄り添う姿を想像すれば、まさにお似合いといえるだろう。それこそ、誰もが祝福するような――……。

 思考にふけっている間に、中性的な美しさを持つ青年はレネの目の前まで迫っていた。

「本当に面白いねー。見たところ魔力も持っていないようだしぃ」

 髪に触れかけた青年の指先を、これまたいつの間にか接近していたクラウスが容赦なく弾いた。

「……やめろ、ヴェルヌ」

 セーヴィンに対してより、もっと低い声音。

 クラウスから放たれる威圧感に、レネは知らず息を詰めた。

「あんたのような下半身ゆるゆる変態魔法馬鹿は、僕の大事な幼馴染みに近寄らないでもらおうか。見るな、声も聞くな、同じ空気を吸うな」

 毅然とした態度で青年を睨み据える勇者を、レネはまじまじと見つめた。

 彼は、どの面を下げて他者を批判しているのか。

 脳裏にこれまでの変態行為が次々と甦り、思わず口を出しそうになる。

 ――いやいや……会話の邪魔はしちゃ駄目よね。どう考えてもあの人も勇者一行の一人だろうし。

 ヴェルヌと呼ばれた青年は、子どもっぽく頬を膨らませてクラウスに抗議した。

「えー、面白いのにぃ? 魔物によってそれぞれ急所は違うのに武器もなしに退治できちゃうってことは、一目でそれを看破しているって証明でしょ。ものすごい特殊能力だよぉ。研究の価値あり」

「それは僕への愛情が開花させた才能だ。研究したとて常人には身につかない」

 レネは幼馴染みの正気を疑った。

 ――確かに変態勇者から逃れるために磨かれた技術だけども……。

 両者はそこから、息をつかせぬ舌戦を繰り広げはじめる。

「えー、つまり常人ではないってことでしょ? ますます気になっちゃうなぁ。体を暴いて啼かせれば、何か教えてくれるかなぁ」

「頭の中のみだろうとレネを穢すな。殺す」

「それが一番手っ取り早いんだよねぇ。人って快楽に弱い脆弱な生きものだもん」

「確かに快楽に流されてしまうレネも魅力的だろうが、抗おうと潤んだ瞳で必死に僕を睨みつけるレネもまた堪らない」

「あぁ、反抗的な子ほど陥落させるまでが楽しいってやつだねぇ」

 震えるほど低次元、そして変態。

 この上なく下品な会話を垂れ流す勇者一行に、レネは戦慄した。

 そういえば先ほど、セーヴィンとクラウスの会話にヴェルヌの名が出ていた。幼馴染みが変態と断じていたのはこういうところか。

 というか、真面目な顔で何の話しているのだろう。一般人の感覚として、本当に彼らが勇者一行でいいのかという疑問を呈したい。

 クラウスが至極迷惑そうに頭を振った。

「あんたとレネを会わせたくなかったから、黙って逃げ出したのに。下半身が緩くて男女問わず引っかけては乱交をはじめようとするし、魔法への探求心を満たすために平気で人を拐おうとするし。旅の間も勝手にふらふらしてどれほど迷惑したか」

 ――引くくらいのクズ。顔はいいけどそれでは補いきれないほどのクズ。

 しかし他人事と言わんばかりのクラウスの態度も本気でどうかと思う。

「えぇー、迷惑のかけ具合なら君も大差ないでしょ。クラウスがずっと『僕のレネちゃん』に会いたいって呪詛を唱えるから、会ったこともないのに夢にまで出てくる始末だよぉ。どこかで適当に発散しちゃえばいいのにさぁ」

 ――いやクラウスのものではない。

「あんたは誰でもいいんだろう? 僕は僕に愛情を向けてくれるレネにしか反応しない」

 ――さっきから愛情があるかのように言ってるけど、ないから。そんなの一切ないから。

 懸命に空気に徹していたレネだが、もうそろそろ限界だった。

 我慢できている内に彼らの暴走が止まればいいのだが、それはむしのいい話。

 現にまとめ役だというセーヴィンも頭を抱えている。きっと彼は、レネが想像していた以上に苦労してきたのだろう。本気でお気持ちお察しする。

 普段のレネならばここで怒りの鉄拳が飛ぶところだが、初対面の者もいる前では憚られた。ましてや一人は王族だ。

 レネは苛立ちを必死にこらえ、話を逸らすことで仲裁を試みる。

「……な、名乗るのが遅れましたが、私はルネル村のパン屋のレネです。あなた方は、噂に高い勇者ご一行様ですよね?」

 丁寧な名乗りには、丁寧に名乗り返す。それがレネの知る礼儀だ。

 けれど彼らときたら、全く聞く耳を持たず喧嘩を続ける始末。

「クラウスさぁ、そりゃ愛情ってやつは大事らしいけど、それが相手の負担になることも考えないと駄目じゃない? 初めて同士の交合は失敗しやすいっていうし、色々試して慣れておいた方がお互いのためってものでしょ」

「頭の中で何度も予行演習をしている僕には何ら問題ないな。僕の全てを懸けて、初めての夜を最高の思い出にしてみせる」

「気持ち悪いし重いなぁ。どうしても操立てをしたいなら男を相手にすれば――……」

「――いい加減にしなさいっっっ!!」

 あっさり限界値を振り切ったレネの怒号が飛ぶ。

 話題に挙げられていた当人からすれば、正直どちらも気持ち悪いし許しがたい。

 彼らは旅をしている間も、ずっとこうして下品な会話でレネを貶めていたのだろうか。考えただけで寒気がする。

 この怒りのまま、どちらにも制裁を下そう。

 クラウスはいつものごとく全力で蹴り飛ばせばいいし、ヴェルヌは初対面だから少々手心を加えて、投げ飛ばすくらいにしておこうか。それでも森の中へ放ってしまえばすぐに脱出は難しいはずだ。

 怒りに目が眩み、幼馴染みの胸ぐらを掴みかけたその時。


「――喧嘩はやめましょう」

 涼やかな声が、レネに正気を取り戻させる。

 それは、困ったように微笑む第三王女……フルール・クローディアヌスが発したものだった。




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