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ヲタッキーズ116 新幹線フレイター

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第116話"新幹線フレイター"。さて、今回は貨物線になり下がった新幹線で列車同士の正面衝突事故が発生、多数の死傷者が出ます。


ポイント切替ミスが噂される中、新幹線のレールレンタルで参入した貨物事業者の疑惑も浮上。一方、事故生存者の救出は遅れ現場には疲労と焦燥が募り…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 長い夜の始まり


全国の地下鉄がリニア新幹線化し、列島を縦断スル高速交通システムとして完結、JRは厳しい経営判断を迫られる。

ドル箱の在来型新幹線は一瞬で"現代の万里の長城"と化し、辛うじてレール通行権を切り売りして糊口をしのぐ←


今回は、そんな時代のアキバが舞台だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ナジカ。"キロポスト112.9"通過」

「了解。"キロポスト112.9"だな?JRレールレンタルセンターに連絡」

「JRレールレンタルセンター。"貨物超特急004便"は"キロポスト112.9"を通過。5分後にポイント。切替をリクエスト」


センターではマグ片手の"お客様係"が応答スル。


「了解。速度は?」

「全速力で走行中。貨物は"東北の誇り"ザッと1万トン」

「了解した」


004便は地下4Fにある上野駅を通過。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ほぼ同時刻。羽田・成田の2つの国際空港と直結し、毎夜が不夜城の高輪ゲートウェイ駅を発車した"東照宮66便"。


「あのカップル、激し過ぎるわ」

「注意しておきましょう…もしもし、子供の前ですょ」

「…あぁそっか悪かった。ヤメるょ」


パーサーに注意され"熱烈キス"を中断するカップル。

大陸訛り、深夜のライドシェア便への乗車…観光客(インバウンド)か?


「じきに貴女にもカレ氏が出来るわ」

「そして、ライドシェア超特急の中でキス?ヤメてょママ」

「明日は、パパと中禅寺湖の観光ょ。早く寝ましょ」


早くもウトウトする母親を横目に、幼女はスマホを抜く。


「どうした、ウィナ」

「運転席に乗せてょパパ」

「帰りの便でな。ソレから、お仕事中のパパへの電話は非常時だけだ。OK?」


どーやら幼女の父親は"東照宮66便"の運転士らしい。

娘からの電話を切り運転士はコーヒーマグを口にスル…


「おかしいな。標識が赤?ポイントは切り替えたのか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「レールレンタルセンター!こちら"貨物超特急004"!聞こえるか?」

「ダメだ、間に合わない。緊急ブレーキを使用スル。何かに掴まれ」

「こちら"貨物超特急004便"!レールレンタルセンター、応答願います!」


急制動!全てが前に吹っ飛ぶ!


「ダメだ。止まらない?…飛び降りろ。早く!」


運転士は、助手を乗降口から突き落とし、自らはそのママ…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「こちら"東照宮66便"。間も無くです。JRレールレンタルセンター?」


運転士の胸に一抹の不安が過ぎる。一方、車内では"熱烈キス"カップルはじめライドシェア客の多くが就寝中w


「お嬢ちゃん。ドチラへ?」

「パパに会いに」

「運転中はダメだと言われたろ?」


初老のパーサーが優しく諭す。


「でも、パパに呼ばれたの」

「お嬢ちゃん。私は、年はとったがモウロクはしてないょ」

「だって…きゃあああつ!」


次の瞬間、車内の何もかもが前へ吹っ飛ぶ!


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「進行方向に何かある!どーなってんだ?」

「レールセンター!第1上野トンネルの手前に…間に合わない!緊急制動!何かにつかまれ!」

(神田明神)ょ!」


上野の地下4Fからアキバの高架へと駆け上る"004便"とライドシェア急行"66便"が正面衝突…いや"激突"だ!

速度に勝る"66便"は坂道効果もアリ"004便"の上に乗り上げる形で脱線し横転!火花が飛び"004便"は炎上w


HOUR ZERO(事故発生)


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。"潜り酒場(スピークイージー)"。


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら、ヤタラ居心地良くて常連が沈殿、回転率が急降下で大失敗だw


「"タカマガハラ・プロジェクト"が始まった当初は、正義の側に立って戦うんだ、という自信があった。でも、そんなのはただ青臭いだけだったょ」

「そんなコトはナイですょテリィ様」

「今の僕は、信念を曲げた妥協の肉塊さ。もう人間関係や書類仕事にはウンザリだ。一般人(パンピー)は、みんな腰が重くて自分のコトしか考えナイ根性ナシばかりだ」


メイド長(ミユリさん)にクドクド絡む僕。出禁になりそうw


「テリィ様は違います」

「もうわからなくなった。自分が何をやっているのか…」

「…御屋敷にテリィ様宛てのお電話です。NTSB?国家運輸委員会?」


何ソレ?美味しいの?


「ヲタッキーズCEOのテリィです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部(の女子ロッカールームw)。


南秋葉原条約機構(SATO)はアキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に対抗スル首相官邸直属の防衛組織だ。

ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"は、民間軍事会社(PMC)としてSATOの傘下にアル。


「マリレ。私、立ったママ眠れそう」

「コレでタップリ2日間は休めそうね。エアリは何スルの?」

「もちろんサブスクで海外ドラマ三昧ょ」


ソコへハッカーのスピアが顔を出す。


「貨物輸送中の新幹線が脱線だって」

国家運輸委員会(NTSB)からのお仕事?」

「YES。SATO経由でリクエストされた。秋葉原に危険物流出の恐れがアルんだって」


秋葉原に危険物が流出?


「インバウンドからのコロナ拡散みたい」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地獄だw


脱線し横転した2本の新幹線車両は、醜くねじれ、火花を散らしながら、時に焔を噴き上げる。

消防車が高架上にハシゴを伸ばし、酸素ボンベを背負った消防士が次々と車両の中へ飛び込む。


第2秋葉原南高架橋下は、4車線に渡って緊急車両がビッシリと縦列駐車して身動きが出来ないw


「004便の積載貨物を詳しく教えて!リストをこのスマホ宛てに大至急送って!有毒物はあるの?」

「確認中だ。避難命令が必要な場合もあり得る」

「マスコミが嗅ぎつけたわ」


アキバ発の巨大メディア"ワラッタ・ワールドワイド"のカメラクルーだ。

非常線を越えようとして、万世橋(アキバポリス)の警官隊に力づくで押し止められているw


「ヲタッキーズか?来てくれたのか。助かった」

「国家運輸安全委員会(NTSB)は何処ですか?」

「わからない。とにかく、負傷者の救出を優先だ。しかし、激突して激しく絡み合った車両が、いつ崩落スルかわからズ極めて危険な状況だ」


現場指揮は、神田消防(アキバファイア)らしい。馴染みの隊長と話す。


「OK。飛行呪文で飛ぶエアリが負傷者を運びます。ロケットガールのマリレは噴射は控えて!」

「助かる。明神坂ガード下のスーパーアンビュランスが臨時の救護所だ…クソッ何てこった!」

「どうしました?」


スマホを見詰める消防隊長の手が震える。


「現場は汚染されてる!タンク車から有毒物が流出してるぞ!全員退避!速やかに退避しろ!」


阿鼻叫喚の騒ぎを圧する警報サイレンが鳴り響き、マスクのない消防士、警官が潮が引くように一斉に後退スル。

入れ違いに化学消防車、高所放水車、泡原液搬送車が現場に入り、消火ノズルから白い粉末消化剤を撒き散らすw


HOUR 1(1時間後)


第2章 チームワークは知性


HOUR 2(2時間後)


現場には、化学防護服の姿がメッキリと増える。

照明車が様々な声が交錯スル現場を照らし出す。


叫び声、悲鳴、命令、嗚咽、そして、祈りの声…


「半径3kmの住民は避難した。10分後には記者会見だ。未だ残骸の中で生存者が救出を待っている。特に有害物質が流出したタンク車の下の車両にいる乗客だ。急がないと命がナイ。ムーンライトセレナーダー、何処から手をつけよう?」

「先ず有毒物質の正体は?」

「1万t(トン)のイソシアン酸メチルだ。農薬やプラスチックの原料だが、インドのボパールでは漏洩事故で3000人以上の死者が出た」


ムーンライトセレナーダーは僕の推しミユリさんがスーパーヒロインに変身した姿でメイド服にレオタードのコスプレw


こんな時だが作者の妄想が満載←


「消防隊長、ソレって1種の化学兵器ですょね?」

「YES。貧者の核だ。現在の濃度は2ppm。甘い匂いがしたら4ppm以上だから逃げてくれ。通常は液状で、空気に触れて気化、水と反応して燃焼スル。この燃焼プロセスで発生スル毒ガスが致死性」

「全てが萌える前に救出しないと」


消防隊長とムーンライトセレナーダーが振り向くとサーチライトに照らし出された車両の残骸からは焔がチラ見えする。


「新幹線車両は、貨物列車でもブラックボックスを積んでるけど…今回は破壊されてるわ。でも、昔のJR中央指令室なら、列車の運行は、全てコンピュータでモニターしてるハズだから、先ずJRの電子記録を入手しましょう」

「ミユリさん。一緒に誰がタンクの中身を知ってたかも調べよう。念のために爆弾処理班も待機だ。万世橋(アキバポリス)に頼んで、ココ24時間以内の国家行事のリストもゲットだ」

「テリィ様は、コレはテロだと?」


ありゃ疑り深い暗い奴と思われたか?と、ソコへ…


「スミマセン…メイドさんが責任者か?」


血塗れの男が声をかけて来て…バッタリと倒れる。


「大丈夫?しっかりして!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 4(4時間後)


SATO司令部のフロアをミニ4駆…ん?よく見ると8駆?が見ただけで10数台、急カーブを切り段差を乗り越え走り回る。


史上最年少の首相官邸アドバイザー、超天才ルイナのレク。


「コレが"スウォーム・ミニ8駆"ょ。それぞれの構造は単純だけど、10数台で群れを作って協調するコトにより、ある種の知能を獲得スル。ねぇコレを見て。先ず群れに対し、任務をプログラミングする。例えば、事故現場の残骸における生存者の捜索ょ。すると、ミニ8駆達は、自分達の中からリーダーを選び、勝手に集中制御や協調行動をとって、残骸の中から生存者を見つけ出す」

「もし途中でリーダーが事故で失われたら?」

「自分達で自律的に判断して新しいリーダーを選び出すわ…ホラね?」


車椅子のルイナが赤ランプの灯ったリーダー車を呼び寄せてスイッチを切るが、群は相変わらず忙しく動き続けている。


「過酷な環境下では、人間より遥かにタフで協調性が高い。しかも、感情抜きで上手に連携スル。真社会性昆虫のハチやアリは、フェロモンで情報伝達を行う。僕を世話して、食料はコッチだ、敵だ攻撃しろ!とかね。その動きを"化学走化性"と呼ぶンだけど、この"ミニ8駆スウォーム"は"情報走化性"を採用し、目的物の位置情報を更新、ターゲットを絞り込んで行くというアルゴリズムを組み込んだ。個体が集めた情報をネットワーク化するコトで全体像が得られるワケ」

「事故現場の全体像が明らかになる?」

「なるわ。そーゆープログラムをして、小型カメラやセンサーを搭載すれば可能ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。血染めの副運転士ナジカが僕達に語る。


「急ブレーキをかけたが間に合わなかった」

「なぜ?」

「何重もバックアップがアルのに、どーゆーワケか、一挙に全部イカれた。イジン・ムティが必死にブレーキをかけたが新幹線は走り続けた」


念のために確認。


「イジンは"004便"の正運転士だね」

「YES。奴は逃げようとしなかった。最後まで運転席に残って。真下にエンジンがあるのに…奴の遺体は?」

「捜索中。イジンは何系?」


メイド姿のムーンライトセレナーダーが質問。


「半島だょメイドさん」

「彼は半島に身内がいた?政治活動歴はアル?アナタ、警察の取り調べ前に歌うと得点高いけど?」

「メイドさん。残念だがアイツは秋葉原育ちだょ」


悲しげに首を振る副運転士のナジカ。僕が選手交代。


「なぁナジカ。バックアップごとのシステムの故障だか何だか知らないけど、あと数mでライドシェア急行が危険物満載のタンク車にツッコんでたンだぜ?」

「アンタ、国民的ヲタクのテリィたんだな?TVで顔を見たぜ…新幹線利用の貨物便の事故は時間の問題だった。危険物を乗せた古いタンク車が毎晩あのポイントを通過スル。ソレなのに線路はボロボロ。分岐装置の電子機器も1世代前。おまけに無人。今まで無事故だったのが奇跡ナンだょ」

「マジか」


ナジカは首を振る。


「俺はナジカだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 9(9時間後)


ルイナの相棒スピアが到着スルと、現場は相変わらず緊急車両がひしめき、酸素ボンベを背負った消防士でゴッタ返すw


現場の空気に圧倒されるスピア。


「この状況じゃ私のアルゴリズムが力になれるか…」

「生存者が助かる可能性は36時間を過ぎると急降下だ。何もしないよりマシ。ダメ元でやってくれ!」

「ヲタッキーズのスピアさん?首相官邸から話は聞いてます。コチラへどうぞ」


秋葉原駅中央口改札の駅前ロータリーに大型テントがいくつも張られ現地本部となっている。奥のテントに案内される。


「テントの中の有害物質の濃度は?」

「外気と同じです。現在、流出源を調査中」

「生存者は?」


本部員がモニターの1つを指差す。朧気な人の形が…6体?


「サーモセンサーの画像です。瓦礫の中で体温を感知出来るのは6人です。他はあらかた救助。ソレ以外は、既に体温が…」

「ココを"スウォーム8駆"の前線基地にしても?」

「御自由にお使いください。電源も用意します」


メインのテントに案内されたようだ。傍らのホワイトボードには、老若男女の写真が貼られている。


「エアリ、写真の方々が?」

「6人の生存者。モレラ・エステとウィナ・エステは運転士の家族。父親の運転士は…多分亡くなってる。フラニ母娘の内、娘の方は救出した。ダグラ21才と連れのスザンは19才。パーサーのジフリ・トイエは鉄道無線のトーキーを持ってるけど、バッテリーが切れそうょ」

「ジフリさん!ヲタッキーズのマリレです。そちらの様子はどうですか?」


現場に先行したヲタッキーズのエアリ&マリレが合流スル。

ロケットガールのマリレが、トランシーバーに話しかける。


「ウィナと私は何とか。他の人は瓦礫に潰されて見えない」

「脚が痛いわ。ねぇパパは大丈夫なの?」

「…ウィナ。ヲタッキーズのマリレょ。貴女、パパのためにも強くならなきゃ。頑張れる?」


何か声が聞こえかけたが、空電にかき消される。


「切れたわ」

「ねぇ助け出せるの?下手に入ると、瓦礫やタンク車が崩落して生存者はペチャンコょ」

「だから"スウォーム・ミニ8駆"に瓦礫を崩さズに生存者を助け出す"安全ルート"を探させるワケ」


持ち込んだジェラルミン製大型ケースには"スウォーム・ミニ8駆"が入っている。動力は原子力から電池に切替済み。


「狭い隙間から瓦礫の中を探索して毒性、温度、地形を報告させる。現場の3D状況図が完成すれば、安全な救出作戦を立てるコトが出来る」

「なるほど。直ぐかかってくれ。現場に案内スル」

「お願い」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。SATO司令部に併設されたルイナのラボ。


「JRのホストコンピュータからダウンロードしたモニター記録の解析は?脱線の原因はわかった?」

「今、やってる。でも、ソレより爆弾処理班は現場で何か拾ってナイ?線路で爆発があったのなら、爆弾の残骸は今も瓦礫の下。運転士は半島系だから、爆弾テロの可能性がアル。脱線した急行がタンク車に突っ込んで、秋葉原中に毒ガスを撒き散らすテロだったカモ」

「ルイナ…そう思う根拠は?」


ミユリさんに聞かれ口をとんがらせる超天才ルイナw


「だって、テリィたんがテロだって…」

「おいおい勝手なコト逝うなょルイナ。話すより聞くコトを学べ。ラギィ警部の話だと、特にテロの標的となりそうな国際的イベントはなかったらしい」

「でも、さっき…」


コーヒー片手に入って来たらソンな話で慌てる僕←

大好きなパーコレーターで淹れたコーヒーを溢すw


「わかった。実は、テリィたんに言われて、鉄道会社や化学会社、内調から公安、外務省、警視庁のテロ対策ユニットのデータなどからリスク解析を行ったけど、テロの可能性は低かったの」

「(ソレを早く逝えょトホホw)で、副運転士は何て?」

国家運輸安全委員会(NTSB)が事情聴取とアルコール検査をして次の仕事に帰したそうょ」


さすがにソレには驚く。


「何だって?ソレをラギィ警部は許したのか。今回の重要参考人だぜ?」

「あら。テロじゃないんだったら、ソレで充分でしょ」

「も少し話を聞いた方が…呼び戻せば?」


ルイナは、キラキラした目で僕を見るw


「運転士とテロ組織の関係も一応調べ直してみるわ。念のためょあくまで念のためだから。私、決して疑り深い暗い陰謀論女子じゃナイから」

「…あの、ルイナ。コレ多分テロじゃナイから」

「モチロン!明らかにテロとの確証は無いわ。とにかく、事故直前のキー操作や通信内容を調べてみるね!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 10(10時間後)


「ドクター!ドクター!」


メチャメチャになった車両の瓦礫の山の中から、エアリが負傷者を抱え、這い出して来て叫ぶ。

化学防護服の作業員がワッと集まって負傷者を助け出す。その中の1人は背中に"Dr."の文字。


「エアリ、大丈夫?」

「ええ。スーパーヒロインは防護設備が不要だから、中に入ってみた。でも、今、完全に救えるのは彼女だけ。コレ以上入ったら上の瓦礫が崩落スルわ。"ミニ8駆"は?」

「まだ時間がかかるみたい」


メイド姿のスーパーヒロイン同士が話していると金切り声w


「きゃー!娘は?娘は何処?」


酸素マスクで息を吹き返した負傷者が叫ぶw


「大丈夫だ。もう病院に行ってるハズだから」

「ウソ。ウィナは私より前方にいたの」

「ウィナ?ウィナ・エステか?アンタ達は運転士の…」


ライドシェア超特急運転士の妻モレラは泣き叫ぶ。


「ウィナは…あの子は喘息なの!ソレに…夫はどこ?超特急を運転していたのょ!」

「残念ですが…」

「嫌ょ!ウィナを助けなきゃ!私、あの子のトコロに行かせて!お願い!」


泣き崩れるモレラ。立ちすくむ救助隊員。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 15(15時間後)


事故現場に朝が来る。燻る瓦礫の山が街に長い影を引く。

化学防護服の男達は瓦礫の撤去を試みるがはかどらない。


現場からエアリが報告。


「"ミニ8駆"のスウォームが、有毒ガスの流出源の1つを突き止めました。濃度は2ppmのママですが、拡散する可能性があります。ライドシェア超特急の内部は相変わらズ不明です。"ミニ8駆"がさらに瓦礫の奥へ入りました」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


現場本部のテントの中。


「"ミニ8駆スウォーム"との通信は良好。鮮明な映像を送って来てるわ。熱反応を探しながら、さらに…ああっ!」


突然、正面モニターに血塗れ女子の顔のUP←


「残念ながら…死者1名ね」

「スピア。死体の横の隙間から、さらに奥に入れそうょ」

「わかってる。でも"スウォーム"がソコは不安定だと格付けしてるの…亡くなったのはフラニ・リスカさんね」


スピアはホワイトボードに貼られた女性の写真を振り返る。


「2時間ほど前までは体温反応があった。生きていたのに」

「死因は有害物質のせいだわ」

「でも、致死量ではナイのでしょ?」


エアリの問いに悲しそうに首を振るスピア。


「健康な大人なら死なないけど、負傷者や子供、高齢者にとっては命取りだから」

「特に幼女と老齢のパーサーね?」

「ウィナは、喘息で気道が狭いから、毒ガスにやられるリスクも高いわ」


その時、背後で女性の大きな声。


「ウィナ!直ぐに助けるからね!ママ、直ぐ近くにいるからね!」


ケータイしながらテントに入って来たのはモレラ・エステ。傍らに、ヲタッキーズのマリレがピタリと寄り添っている。


「キッズケータイが通じた?奇跡だわ!」

「ウィナ!聞こえる?もしもし!もしもし…切れたわ」

「生存者全員のケータイ番号を調べて!直ぐ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜更けに立ち上がった万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「警部さん、救出作業は進んでるかい?」

「余計なお世話。ソレより指令員、じゃなかった、お客様係だっけ?アナタ、どーして急いで帰宅したのかを教えて」

「帰宅してない。仕事をも1つ掛け持ちしてルンだ。経験豊富な指令員はモテモテだからな。まぁコッチはコレでクビかもしれナイが」


太々しい態度の男は、JR新幹線レールレンタルセンターお客様係のレイロ・レイル。帰宅中を呼び戻されて不機嫌w


「あら。今度の事故でクビになるの?」

「責任を取らされる。トカゲの尻尾切りさ。いつも犠牲になるのは末端だ。俺は解雇されると困るんだ。子供7人と病気の妻がいる」

「家庭の事情よりも昨夜の様子を歌ってょ」


万世橋(アキバポリス)の敏腕警部ラギィ自らの取調べだ。


「俺の勤務シフトは4時からで、全て普段通りだった。7時ごろ貨物新幹線"004便"がマイルポスト112-9を通過したとの連絡があり、ポイントの切り替えを許可した」

「あら。"66便"のパーサーは、ポイントは切り替わってなかったと証言してるわ。標識が降りてたとか」

「故障だ。そもそも新幹線は昭和レトロな技術の集大成だからな。だが、機械系統の故障なら、中央指令所、じゃなかった今はレールレンタルセンターだったか、とにかく、監視スクリーンに表示が出るし、列車側にもバックアップがあるハズだ」


JR全盛時代を生きた男は、過去の栄光に胸を張る。


「でも、機械の故障は一切なかったそうょ」

「電子記録を確認しろ。俺は5分前にポイントを切り替えている。ホントだ」

「では、今も瓦礫の下で救助を待つパーサーがウソをついていると?」


さすがにバツの悪そうなレイロ・レイル。


「そーは言ってない。多分奴はラリってたんだろう」←

「乗車前の記録だと特に薬物反応は出てないわ」

「じゃ爆弾だ。テロの可能性を検証しろ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 18(18時間後)


「生存者の救出を急いでください!大打撃だ。このママでは倒産してしまう。我が社の存亡に関わる問題です!」

「御社が新幹線で使用してた中古車両の老朽化が原因では?」

「何をおっしゃる!実は、このイソシアン酸メチル1万t(トン)は、先週までマゴビ運送がトラックで輸送していた。ソレをウチが入札で競り落としたのです」


またまたウルサ型の役者が登場だ。新幹線で貨物輸送を行うスタートアップ"貨物超特急"CEOリチャ・ドコリだ。


「おっと待ってょ。マゴビ運輸って、あのトラック王のロマス・マゴビ?」

「YES。あのストリートギャング上がりのロマス・マゴビです。ウチがあのトラック王から仕事を奪った」

「アンタ、もしかして、トラック王に恨まれてる?」


リチャCEOは首をすくめるw


「そりゃもう。アッチにとっては大打撃ですから。だが、トラック輸送はもう古い。コレからは新幹線輸送の時代だ。仮に私が潰れても、他の新幹線業者が引き継ぐだけだ」


ラギィ警部は溜め息をつく。その目の前を黒い死体袋が搬出されて逝く。

陽に焼かれるタンク車にハシゴ車から白い粉末消化剤が吹きつけられる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


本部テントの中。


「そうょソコソコ!ソコにもう1台"ミニ8駆"を入れて安全ルートの確認をして!」

「大丈夫。"スウォーム"が自律的に判断して適当な"ミニ8駆"を差し向けるから」

「ウィナ。もうすぐだからね。ゆっくり呼吸をスルのょ」


娘と通じたケータイを握り母は叫ぶ。

"Bot-4モニター"を指差すスピア。


「脚が見えるわ。子供ね」

「ウィナ。そんな…(ドスンと倒れる音w)」

「ママ?どーしたの?」


素早くケータイを代わったマリレが応答。


「心配しないで。何でもナイわ。ママは大丈夫。スゴく元気で準備が出来たら、直ぐに助けに行くって。ウィナ、貴女はスーパーヒロインょ。スーパーヒロインはカッコ良いのょ?ねぇヲタッキーズに協力してくれる?」

「ママはどうしちゃったの?」

「…ウィナ、ママょ。ごめんね、ちょっと目まいがして…でも、もう大丈夫!ウィナも頑張りなさいね。ママと直ぐに会えるからね」


マリレの肩をこずくエアリ。


「ちょっと来て」

「何?」

「気持ちはわかるけど…この状況で幼女が助かる確率はかなり低いわ。覚悟はしておかないと。OK?」


マリレは、唇を噛む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「金の亡者が思わぬ大損ね、ロマス・マゴビさん」

「おやおや。いったい何の話です?」

「この前、新幹線業者に入札で負けたんだって?」


ラギィ警部がギャング上がりのトラック王を取り調べ。


「警部さん。ビジネスは順調だ。新幹線業者に破壊工作を仕掛けたと疑っておられるようだが、ソンなコトをすれば、逆に損害を被りかねません」

「あら。どーゆーコトかしら?」

「最近、ウチは新幹線貨物事業への投資を始めました。だから、自分の利益を減らすワケがないでしょ?」


経済犯罪にも明るいラギィはヒルまない。


「わかったわ。脱線事故で株価を下げておいて、一気に買い叩くつもりね?アナタ、業界では"墓場のダンサー"と呼ばれてルンだって?」

「…失礼な!ソレこそ犯罪者の発想だ!」

「資本主義社会を守る警察官の職業病。自分でも嫌になる」


ギャング上がりのロマス・マゴビがドスを利かせる。


「ラギィ。今は力づくより、多角経営の方が儲かる。今回の事故は"貨物超特急"のリチャ・ドコリが墓穴を掘った。ソレだけのコトさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


HOUR 19(19時間後)


「スマホの電話番号は213-555…埼玉在住のダグラ・アボトさん。21才」

「もしもし、ダグラさん?ヲタッキーズのエアリです」

「今まで何してた?!遅いじゃナイか!」


イキナリ怒声だ。元気な証拠?


「直ぐに助けるわ。隣の人の様子も教えて」

「恋人のスザンは骨折してる。でも、足に乗ってる金属が冷えて来たから、何とかどかせそうだ」

「ダメょ崩れるわ!動くなと言って!やめさせて!」


"ミニ8駆スウォーム"からの画像を指差しスピアが叫ぶ。


「ダグラ、待って!何も動かしてはダメ!崩れるわ!」


次の瞬間、瓦礫が崩落スル音がして通話途絶w


「ダグラ!ダグラ・アボト!スザン・グリン!」


エアリの呼びかけに答えはナイ。顔を覆うスピア。

モニターから2人の熱画像がボヤけ…消えて逝くw


スマホを投げ捨てるエアリ。残る生存者は…2人。


第3章 お客様係の号泣


HOUR 22(22時間後)


「人類が火星探査スル時代に、近くの瓦礫の様子がわからないナンて。スウォームは惑星探査機ナンでしょ?」

「仮眠をとりましょマリレ。もう40時間近くも寝てナイでしょ?」

「昨日が遠い過去みたい。亡くなったダグラとスザンの御両親には連絡したの?」


悲しげに首を振るエアリ。


「マリレ。そもそも死亡は未確認だから」

「何を言ってるの?熱反応が消えたのょ?生きてるハズないでしょ!御両親に連絡はしたの?」

「だから、秋葉原に呼び寄せたわ。TXで急行中。マリレ、貴女も休んで。今は仮眠をとるのも大事な仕事」


仮眠に入るエアリを横目にマリレは本部テントに戻る。


「あ、マリレ。さっきの崩落で"ミニ8駆"は半数を失った。でも、直ちにアルゴリズムをリセットして安全ルートの再構築を図るわ」

「ダメょ」

「え?」


思いがけないマリレの反応にスピアは驚く。


「ダメょもう待てないわ。ねぇ貴女の"魔法の小道"はいったいいつ現れるの?」

「何もソンな言い方をしなくても…」

「スピア。貴女は既にアルゴリズムロボットを6台、人命を2つも喪失した。さらに貴女が失敗を重ねる確率を知りたいの」


極度の緊張が、マリレに心にもない言葉を吐かせる。


「私が失敗スル確率?」

「そうょ。貴女が失敗スル確率。5割?ソレとも6割?」

「マリレ!あの瓦礫の山を見て!あの山の下には幼女と老いたパーサーがいる。瓦礫を崩しタンク車の有毒ガスをぶちまけたいなら、今すぐ貴女が飛び込めば?貴女、スーパーヒロインなんでしょ?」


テントの中で対峙するマリレとスピア。お互い内心しまったとは思っているが、引っ込みがツカナイw


「貴女の3D状況図って何かの役に立つの?」

「エドモンド・バーク曰く"忍耐は力に勝る"」

「ブラックパンサー曰く"忍耐も度を過ぎればタダの臆病"」


名言合戦は相打ち?


「とにかく、いつまでもオモチャで遊んでないで、私が入れる隙間を探して」

「ソレは他の"ミニ8駆"が探してるわ」

「幼女のウィナは、カラダが小さい分、有害物質に弱くて危ないの」


ハッカーとロケットガールは互いに引かないが…


「この吸入器を届ければ、少しは時間が稼げるの」

「わかった。でも、急いで」

ROG(了解)


マリレは、スッカリ残り少なくなった"ミニ8駆"に喘息の吸入器を取り付ける。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。ルイナのラボ。


「どう考えても、ポイントは切り替わったのに脱線事故が起きたというのが腑に落ちないわ」

「ポイントは、ホントに切り替わってたのかな?」

「JRのレールレンタルセンターのホストコンピュータに記録が残ってる」


僕は、車椅子の超天才ルイナの話相手になっている。


「ところで、ホストコンピュータに残ってたデータは、ポイント切替の遠隔操作ボタンを押した時間なのかな。ソレともホントに線路が動いた時間?」

「良い質問ね、テリィたん」

「だろ?7時発の飛行機を考えてょ。定刻の7時にドアが閉まっても、長い誘導路を移動、順番待ちして実際に離陸スルのは15分?いや、羽田じゃもっとかかるょね。でも、記録上は定刻通り出発したコトにナル。もしかして、新幹線のポイント切替も、実際は2つ目のコマンドで切り替わるのに、電子上は最初のコマンドが完了時刻として記録されてルンじゃナイか?」


珍しく超天才から尊敬の眼差しで見られる僕←


「ダウンロードしたデータの意味がやっとわかったわ。新幹線の貨物ポイントの切替には2段階のコマンドが必要。7時1分に最初のコマンド。ソレから約3分半、何も起きズ7時4分に脱線、ポイント切替の2度目のコマンド入力は、衝突の7秒後だわ!」

「でも、電子上は7時1分にポイントは切り替わったコトになってる」

「実際は、事故が起きてから慌てて2度目のコマンドを出したのね。もう現場では大事故が発生した後なのに」


ココで念のための発言をしておく。


「コマンドを入れたのは、ホントにJRレールレンタルセンターのお客様係のコンピュータなのかな?ハッキングされた可能性は?」

「そうよっ!テロの可能性ょね!コレだからテリィたん大好き。電子指紋を照合しておくわ」

万世橋(アキバポリス)の組織犯罪課によれば、ロマス・マゴビが新幹線業者の株を購入したのは事実らしい。彼は、裏ではなく表稼業で堂々と荒稼ぎスルことにしたようだ」


車椅子のルイナは、僕を見上げるようにして言う。


「こーなると"貨物超特急"のリチャ・ドコリCEOが気になるわね」

「徹底的に調べなきゃな」

「先ずは指令員、じゃなかった、お客様係からね。ラギィに少し絞ってもらいましょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「レイロ・レイルさん、起きて」


JRレールレンタルセンターのお客様係は居眠りしてるw


「夕べ、誰かレールセンターに来た?」

「え。来客?待てょどーだったかな?ってか、今日は何日だ? ココは何処?私は…」

「昨夜、新幹線同士が衝突した時に訪問者は?」


ようやく目を覚ますお客様係。


「いない。電子記録を見てくれ」

「誰かにお金をもらって、コンピュータを操作させたりしなかった?」

「何だと?バカ言うな。そんなことしないし…あれ…」


フト頭の中に霧がかかり…次の瞬間もう眠りに落ちてるw


「居眠りね?アンタ、今みたいにポイント切替の操作中に居眠りしてたのね?」

「ま、まさか!違うょ」

警報(アラート)を聞いて起きたんでしょ?!」


しどろもどろになるお客様係w


「俺は切り替えた!ちゃんと操作したんだ!」

「あのね。ポイント切り替えのコマンド入力が衝突直後だったコトはわかってる。ココでシラを切るか、自供スルかで、この先10年の人生がガラリと変わるけど!」

「…妻が病気なんだ。俺1人で7人の子供の世話をしてる。この1週間まるで眠ってない。昨夜は目を開けるのも辛かった。ちゃんと操作を切り替えたつもりで、冷たい水で顔を洗いにトイレに行った。以前は、2人体制で勤務していたがリストラで人員削減さ。顔を洗って指令室に戻ったら、指令室に警報アラームが鳴り響いてた。マズいと思ってつい…悪気はなかった。スマナイ。まさか、あんな大惨事になるナンて。ホントに申し訳ナイ…」


お客様係は号泣スル。


第4章 腐女子の品格


HOUR 30(30時間後)


気味の悪いマリレの猫撫で声w


「ウィナ。今、貴女を救助スルために小さなロボットが向かってる。そのロボットは、貴女の呼吸を楽にスルお薬を持って行くわ」

「わかった。でも、喉が渇いた」

「そうょね。ウィナは良く頑張ってる。パーサーのジフリさんと代わってくれる?」


マリレの背後からスピアが耳打ち。


「あと3mだ。30分あれば安全ルートの3Dマップが完成スル。ソレまで何とか持ってくれれば」

「30分?ソンなに?あぁ…」

「モレラさん…」


マリレが爆発スル前に母親のモレラが絶望の叫びw

マズいコトに前進中の"Bot-8"の画像が急停止←


「何事なの?ウィナはどーなるの?」

「ダメだわ。パスファインダーのNo.8が前に進めないw」

「何でょ?あと3mナンでしょ?」


母親の怒声はケータイにダダ漏れだw


「25cm以上の開口部を進むには、他のロボットとリンクしなきゃならない。そーゆーアルゴリズムになってる」

「ジフリさん。貴方にお願いがあります。ウィナに出来るだけユックリ呼吸させてください」

「任せてくれ」


マリレは、その場で静かに立ち上がる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「マリレ、待って!私を信じて。あと少しなの。私を疑っているの?」

「いいえ…でも、もう聞き飽きたわ」

「マリレ。お願いょ」


本部テントを飛び出したマリレを追うスピア。


「もう待てない。忍耐も限界。ウンザリだわ!」

「やめて、マリレ!」

「adiós」


寂しげな笑顔と投げキスを残して、マリレは客車の窓ガラスを割って瓦礫の中へと消える。ワッと泣き出すスピア。


「あら。スピア、どーしたの?"ミニ8駆"達はチャンとお仕事してる?」

「ソレが…マリレが3Dマップの完成を待たズに瓦礫の中へ入って行った!私、止めたのに…」

「まぁ。で、今どこら辺?」


"仮眠"から醒めたエアリだ。


「テントに戻って画像で探してょ」

「OK。そーだったわ。サーモ画像オン。GPSトラッキングをアクティブ…見つけた!今のトコロ順調に進んでる。ズッとモニターを見てたから、おおよそ見当がつくのね」

「マリレ、聞こえる?その調子ょ。焦らないで」


トランシーバーのマイクがオンになり、マリレの荒い息遣いがスピーカーから流れる。


「マズいわ。前方にホットゾーン」

「有害なの?」

「真下に熱源、恐らく化学反応があり、金属が熱っせられてタンク車から流出した薬品が致死性のガスになってる。マリレを右側に行かせて」


エアリがトランシーバーに叫ぶ。


「マリレ!右側に寄って。左に近寄るな。右側ょ!」


ところが、次の瞬間またまた瓦礫が崩落!


「マリレ!マリレ!応答して、マリレ!」


トランシーバーからは空電が流れるのみ。またまた無言で立ち上がるエアリ。一言も口を聞かず瓦礫の中へと飛び込むw


「マリレ!エアリ!ああっ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラボにいる僕達にスピアが泣きついて来る。


「何があったの?スピア、落ち着いて!」

「ミユリ姉様!私、止めたンです。ソレなのにルートが見つからないママ飛び込んだマリレから応答が途絶えた。エアリも応答ナシ」

「全くあの2人は!ソンなコトで腐女子の良いお手本になるとでも思ってるのかしら。毒ガス濃度は?」


スピアがモニターの数値を読み上げる。


「現場の温度上昇に伴いppmも上昇中。現在2.5ppm」

「どうやって救出スル?」

「さっきの崩落前までの3Dマップは完成した。ソレに崩落の原因もホボわかってる」


車椅子の超天才ルイナが会話に割り込む。


「アルゴリズムロボットのスウォームは?」

「さっきの崩落で全滅」

「問題ナイ。マリレもエアリも死んでナイのょね?崩落流量を推定し"進行性破壊分析"で割り出してみるわ」


その場の全員を代表して僕が質問。


「えっと…何を割り出すの?」

「次の崩落を避けながら、穴を開けられる場所。ちょっとした構造計算になる。SATOの量子コンピューター衛星を使わせてもらうけど」

「その場所がわかれば、私がみなさんとウチの子達を助けに参ります」


僕は、出来る限りイヤラシイ感じが出ナイよう注意しつつ、全く不本意ではアルが戦略的現地から不可避の質問を行う。


「ミユリさん、今日は"ロケットパンツ"か?」

「はい、テリィ様。(カラー)はピンク」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんがスーパーヒロインに変身したムーンライトセレナーダーは、体内に電気ウナギのような発電器官を持つ。

つまり、闘いながら発電し特殊なパンツに強電圧をかけるコトによるイオンクラフト効果で空を飛ぶコトが出来のだ。


HOUR 31(31時間後)


再び深夜。交差するサーチライトに照らされ、現場上空をイオンの風で慎重に浮遊するムーンライトセレナーダー。


「テリィ様?」

「ムーンライトセレナーダー。作戦に変更はナイ。まもなくZERO HOURだ。神田明神の御加護あれ」

「ROG。成形炸薬弾、装填。テリィ様お気に入りのザクバズーカみたい…よいしょ」


彼女はバズーカ砲を構えている。スウォームが選んだ1点を成形炸薬弾で狙い撃ち一気にウィナ達の救出路を開く。


クレージーだろ?レスキューの試験なら零点だょ←


「行きます!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


一方、瓦礫の下でも動きがアル。


「マリレ!マリレ、聞こえる?大丈夫?」

「…エアリ?何しに来たの。さっきの崩落ヤバっ。帰り道が消えちゃったわ。私達、もしかしてゲームセット?」

「延長戦に突入ょ!とにかく、ウィナのトコロまで行こう?喘息の吸入器を持って来たから届けなきゃ。ウィナ、聞こえる?パーサーのジフリさん、返事をして!」


トランシーバーのやりとりにスピアが加わる。


「マリレ!エアリ!サーモビジョンでモニターしてる。マリレ、貴女はウィナの近くにいるわ。エアリ、貴女はマリレの3m後ろにいる」

「え?行き止まりナンだけど。道を間違えた?直進で9、その後30度左、右に7でしょ?」

「エアリ。ソレ、メートルだから。貴女はヤードで数えてるでしょ。最初の分岐点に戻って3.28フィートを足して」


テントの中で頭を抱えるスピア。


「あぁ私のせいだわ。うっかりしてた」

「みんな疲れてる。気にするな」

「テリィたん…」


そして、全てが行われる瞬間が来る。


「ムーンライトセレナーダー、バズーカを撃て!」

「スピア、ウィナょ!ウィナが見えた!」

「メイドさんが来た!ハレルヤ!」


エアリとマリレが、瓦礫に挟まれた幼女ウィナ・エステと老パーサーのジフリ・トイエを見つける。

直後に頭上近くの瓦礫が溶け落ち穴が開く。見上げれば夜明け前の暗い空。新鮮な空気が流れ込む。


ムーンライトセレナーダーが降り立つ。


「貴女達、も少しよく考えて!私達ヲタッキーズは…」

「腐女子のお手本ですか?姉様、遅かったじゃナイですか」

「あぁ助かった!神田明神様、感謝の言葉もありません。ハレルヤ!」


さっきまで3ppmまで跳ね上がっていた数値は2.5へ。

ウィナは、吸入器をくわえて深呼吸。ジフリさんは…


メイド服にレオタードのヒロインに抱きつく←


「ジフリさん、とりあえず、マスクをつけて…も少し離れてください。エアリ、ジフリさんとマリレをお願いね。私はウィナちゃんを運ぶから」

「え。姉様ズルい。絵になる方を選んで…マリレ、もう貴女、ロケット噴射で自力で脱出出来るでしょ?」

「ダメ。瓦礫が崩れちゃう」


エアリに抱きつくマリレ(とジフリさんw)。


「さぁ逝くわょ。テリィ様と…マスコミが外で待ってるわ。あら、ウィナちゃん?貴女…」


ウィナを抱くムーンライトセレナーダーの手が、ウィナが流す"青い血"で染まる。"blood type BLUE"?


幼女は今、スーパーヒロインに覚醒スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「そうか。やっと何があったかわかったわ!」


スピアとサーモビジョンの前で眠気で意識が飛びそうな僕の耳に別のモニターから、超天才ルイナの声が飛び込む。


「テリィたん!記録があれば証明出来るけど?!」

「え。何が?」

「ポイントの切り替えに失敗しても、ライドシェア新幹線は分岐点前で止まレるハズだったのでしょ?」

「そーさ。そもそも、そのための"キロポスト"だからね」


確か、パーサーのジフリさんもソンなコトを逝ってたな。


「あのね。新幹線の運行って数学なの。新幹線の質量と速度で停止距離が決まる。あの新幹線は、パーサーが思ってたより重かった。だから、計算通りの停止距離では止まらなかったのょ」

「ソレ、警察の仕事だな。ラギィ警部に確認してもらおう」

「スピアにテリィたん。お疲れ!」


エアリとマリレが本部テントに入って来る。

ミユリさんは外でマスコミに捕まっているw


「スピア。瓦礫の中のナビゲーション、ありがとう。ホントにお疲れ様でした」

「結局"ミニ8駆スウォーム"は全滅ょ。もっとボディを強化しなくちゃね」

「今回のスウォームの働きは勲章モノね。次のロボットには勲章をつけてあげなくちゃ」


煤だらけのマリレがスピアの肩を叩く。


「スピア。私、無茶してゴメンね」

「トンでもナイ。マリレが行かなきゃ私が突入してた」

「え。貴女が?スク水(彼女のトレードマーク)で?」


テントにドッと笑いがあふれる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「みなさん!ご苦労様でした。いやぁ助かりました!」


最後にテントに顔を出したのは、スタートアップ"貨物超特急"のリチャ・ドコリCEO。

CEO同士だからか、気安く僕に握手を求めて手を差し伸べるが握り返したモノか躊躇w


「おっと、ココにいたの?リチャ・ドコリ、手を後に。逮捕します。貴方には弁護士を呼ぶ権利がアル…」


後から追いかけて来たラギィ警部が"逮捕"スルw


「警部?コレは…なぜ?」

「運送費を安く抑えて落札し、その分儲けを出すために積載量をゴマかして大量に積んだでしょ?事故った"004便"は1万t(トン)と申告して実際は1万2000t(トン)を積載してた。運輸事務所の誰を買収したの?」

「待て。何かの間違いだ」


マスコミをまいたムーンライトセレナーダーが加わる。


「そう、間違いだったわ。今まで貴方が捕まらなかったコトがね。でも、もうお終い」

「貴方がルールを守れば、ポイントの切り替えミスがあっても、2.4kmギリギリで新幹線は停車出来た。つまり、今回の事故は起きなかったの」

「…悪事を働いたとは思っていない。仕事のためなら、ヲタッキーズだってルールを破るだろ?…イテッ!」


連行するパトカーのドアに、リチャCEOの頭をぶつける…ムーンライトセレナーダーw

ムーンライトセレナーダー、いや、ミユリさんかな?しれっとした顔でラギィに告げる。


「マネしないでね。私達は腐女子のお手本だから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


本部テントの中は完全な静寂だ。


スピアとマリレが肩を寄り添い合って寝息を立てている。

仮眠をとったマリレも沈没してて、誰かが毛布をかける。


僕は…ムーンライトセレナーダーの膝枕←


事故現場に2度目の朝が来る。東から登る太陽に新幹線の残骸が背の高い影を落とす。

最後の消防車が引き上げた現場でノーマスクの作業員が照明器を下げて後片付け中だ。


朝の光が全てを塗り替えて逝く。

アキバの新しい今日が始まるw



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"脱線事故"をテーマに、新幹線の貨物事業に新規参入したスタートアップCEO、貨物線の運転士、副運転士、ライドシェア新幹線の運転士、妻、娘、老パーサー、同乗カップルや母娘、新幹線フレイターと対抗するトラック王、JRレールレンタル事業のお客様係、事故原因を追い、生存者の救出に腐心する超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。


さらに、新技術のスウォームドローンや新技術を巡る主人公らの確執などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、第8波コロナがピークアウトしつつある?秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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