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80 ちょっとだけ昔話!


 夜はそうして更けていき、朝日が昇ります。


 みなさん、目覚めの表情はお世辞にも素晴らしいと言えるものではありませんでした。


「……はあ。なんだか、疲れが残っているような気がしますわね」


「ねー。屋根のない所で寝るなんて慣れないから落ち着かないって言うか……」


「……眠い」


 御三家の皆様が大変どんよりしています。


 慣れない野営は相当ダメージがあったようです。


「はいはい!しっかりしなさい、これくらいで音を上げるようじゃこの先やっていけないわよ!」


 そんな三人の様子を見て、シャルが意識を叩き起こすように声を掛けています。


 わたしとシャルは例の如く耐性があるので、割と平気なのです。


 “はあ……”と、溜め息のような重たい空気を感じながら今日も一日が始まります。


        ◇◇◇


 その後の足取りは順調そのものでした。


 昨日培った連携は更にその精度が高まっていき、デーモンウルフの群れを難なく突破していきます。


 そのおかげで足を進める速度は昨日よりもずっと速くなりました。


 長くて3日は掛かるかと思われましたが、2日目にしてフェルスの目前まで到達することが出来ました。


「……森ね」


 シャルが前方に生い茂る木々を眺めて、ぼそりと呟きます。


「ここから先の情報はギルドにもありませんでしたわ、もしかすると森の中の魔獣の種類は今までと異なるかもしれません」


「それにフェルスのどこにゲヘナがあるかは分からないんだよね?結構探索することになりそうな予感が……」


「いえ、そもそも噂程度ですので本当にここに本拠地があるという保証はありませんの」


「あ、そっか。じゃあ検討はついていないから血眼になって探す必要があるんだろうけど、そもそもゲヘナがないってパターンも考えられるんだ」


「そうなりますわね」


 ふう、とこれからが大一番を迎えるであろう展開を前にしてリアさんとミミアちゃんが呼吸を整えています。


「……今日はもう遅い、明日にする?」


 そこでセシルさんが全員の疲労度や明日の作業量を考えて提言します。


「そうですね。夜は視界も悪いのでゲヘナの本拠地があっても見逃すかもしれませんし、ここまでにしておいた方がいいですかね?」


 他の皆さんにも意見を伺うと様子を見ると、全員こくりと頷いてくれました。


 休む場所ですが、ここではゲヘナのメンバーがいた場合に見つかってしまう可能性があります。来た道を戻ることになってしまいますが、かなり距離をとったポイントになりました。





 そうして夜ご飯を食べ終えると、みんなで火を囲みます。


 さすが、というべきなのでしょうか。


 昨日は野営にげんなりとしていた御三家令嬢さんたちでしたが、今日は皆さんてきぱきとこなしていくのでした。


 この適応力と柔軟性はすごいです。


「……あの、一つお聞きしたかったのですがよろしいですか?」


 みんなで揺れる炎に視線を注いでいる中、リアさんがわたしに声をかけました。


 その表情は真剣です。


「なんでしょうか?」


「今更にはなるのですが。どうしてエメさんはそこまでゲヘナ……いえ、魔王にこだわっていますの?」


「……えっとぉ」


 改めて聞かれてしまって、ちょっと戸惑ってしまいます。


「僅かですがゲヘナと魔王が繋がっている可能性がある。ですが魔法協会はゲヘナのような小規模組織を相手にしない、それゆえエメさんご自身で確かめようとする。それは自然な流れ、そう思っていましたが……やはり違和感がありますの」


 セシルさんとミミアちゃんはこの会話には口を挟まず、聞くことに徹しています。


 もしかするとリアさんと同じように考えていたのかもしれません。


「そうでしょうか?魔王に近づけるチャンスがあるかもしれないのに、見過ごすことなんて出来ません」


「言葉に棘があるのは承知で言いますが、事もなげにそう言いきれてしまう事こそ異常なのですわ」


「……」


 異常、という単語に思わず返す言葉を失ってしまいます。


 それを察してくれたのか、リアさんは慌てたように矢継ぎ早に話を続けます。


「いえ、魔法士の最終目標は確かに魔族の根絶、それは魔王を倒すことも同義です。ですが全員が全員そう思っているわけではないのは、ご理解頂けますわよね?」


「そう、ですよね……」


「人には様々な事情がありますから。魔族と戦うことを望んでいない魔法士だっているはずですわ。そんな中、エメさんの魔王に対する迷いのなさは際立っています。正直な話、学園にいる誰もがゲヘナと魔王の繋がりを知ったところで行動には移さないでしょう」


 セシルさんは、その話を聞きながらこくこくと頷いています。


 セシルさんには少しだけわたしのお昔話をしたことがありましたので、リアさんに共感しているのでしょう。


「ですから気になるのです。何がエメさんをそこまで駆り立てるのか、その原動力はどこにあるのか、を」


 リアさんは真っすぐにわたしのことを見つめてきます。


 こんな危険な旅を手伝ってくれている方ですし、今までのようにはぐらかすだけではいけないのかもしれません。


「そんな大した理由ではありませんが。……わたしの故郷は小さい頃、魔族に滅ぼされたんです」


「……そうでしたの」


「いえ、それ自体はよくあるお話しですから。別にわたしだけ不幸というわけでもありません。むしろシャルもいて両親も健在ですから恵まれている方だと思っています」


 故郷はその他全員が亡くなったのですから、わたしは幸運です。


「ですが、そこに現れた魔族はたった一人。わたしの故郷はたった一人によって何もかも失ったんです」


「それって……」


 察したリアさんが息を呑みます。


「ええ、それが魔王でした。突然降り立った魔王は何を要求するわけでもなく、ただ村を破壊したんです」


 あまりに突然で、すぐには理解できていなかったと思います。


「そしてわたしは『どうしてこんなことするの?』と尋ねたんです」


「魔王と直接ですか!?」


「ええ、細かいことは全然覚えていませんが。その会話だけは覚えています」


 そして、その返事がわたしにはショックでした。


「魔王は一言『気分』とだけ答えたんです」


「……そうでしたの」


「ええ、理由なんてないんです。理由一つなく奪われたんです。それが魔王の在り方なんです」


 理不尽、というのはこういうことかと幼心に知った瞬間でした。


「ですが、よくご無事でしたわね……?」


「その後、魔法士の方に助けられたんです。あの人がいなかったらわたしたちも殺されていたでしょうね」


 その場を救ってくれたのがイリーネ・アナスタシア。


 イリーネがきっかけとなって、わたしは魔法士を目指すをことを決めたのです。


「だから、わたしは魔族の中でも特に魔王が許せないんです……その思いが人よりちょっと強いのかもしれませんね」


「いえ、そうとは知らず……異常だなんて言ってしまって申し訳ありませんでした。平和に生まれ育ってしまった私達には到底計り知れませんの……」


 リアさんが深々と頭を下げていました。


 聞いていたセシルさんとミミアさんもバツの悪そうな表情を浮かべています。


「ああ!やめてくださいっ!別に面白い話でもないので話してこなかったわたしもいけないんですし……気にしないで下さい!」


「そうよリア。わたしも同じ目に遭っているけど、こいつほど執拗な思いはハッキリ言ってないわ。だって家族は無事だったんだから。そういう意味では異常って表現は的確だから問題ないわよ」


「シャルが、それ言っちゃうの!?」


 構いませんけど、わたしを突き放す必要もないような!?


「わたしは人より魔法士の才能があったからこの道を選んだけど。あんたは昔からどれだけ練習しても魔法が使えなかった。だからわたしは“魔法士は諦めろ”ってずっと言ってきたけど、“魔王を倒す為だから”の一点張りで全然聞く耳を持たなかったのは頭おかしいとは思ってたわよ」


「「「ああ…………」」」


「え!?なんですか、その皆さん妙に腑に落ちたような反応は!?」


「あんたの魔法と魔王に対する異様な執拗さは全員感じてたのよ」


「な、なんと……!」


 わたし全然その意識なかったので、驚きです……。 

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