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77 いよいよ魔獣との戦いが始まりそうです!


「ん……?」


 重たい瞼を開けると、そこは見慣れない部屋でした。


 カーテンから差し込む光を見ると、どうやら朝を迎えている様です。


 ベッドに寝ていたようですので、察するに宿のお部屋ですね。


「あ、そうでした。昨日わたし温泉でのぼせて……」


 そこから先の記憶が曖昧です。


 誰かがここまで運んでくれていたのでしょうか……?


 部屋を見渡している……と?


「みっ、ミミアちゃん!?」


 部屋のベッドは二つ、少しだけ間を空けて隣に据えられているベッドの上にはミミアちゃんが眠っている姿がありました。


「ふあっ……んー?エメちゃん、起きたのー?おはよ」


 眠気眼をこすりながら、ベッドからむくりと体を起こしたミミアちゃん。


 薄いピンクのキャミソール姿でお胸とか足がちらりしていて、肌の露出が多いのです。


「お、おはようございます……。なかなか、大人な格好ですね」


「あー、これ?ミミアの家はいつもこうなんだぁ」


「なるほど……いつもパジャマなわたしには真似できないスタイルです」


 そんな見せていい様な体をしていないですしね。


「ん?あはは、エメちゃんにも着せてるし大丈夫だよ、似合ってるし」


「へ……?」


 言われて上半身を見下ろすと、ミミアちゃんと同じように肌の露出が過ぎていました。


 気付かぬ間にキャミソールを着ています。

 

「な、なんでこんな格好をわたしがっ!?」


「安心して、お着替えはさせてもらったけどそれ以上のことはしてないから!」


「それ以上のことって何ですか!?」


 ――バンッ!


 わたしが困惑の最中にいると、扉が勢いよく開きます。


「ちょっ、ちょっとどうして貴女も一緒に来ますの……!」


「あんたの方こそ、寝ぼけているアイツを起こすのはわたしの方が慣れてるって何回も言ってるのに……!!」


 扉の向こうではリアさんとシャルが睨み合いながら部屋に入ってきていました。


 わたしを起こしに来てくれたのでしょうか?


「あら、エメさん起きてましたの?」


「げっ、珍しく早……って!なんでミミアがここで寝てんのよ!?」


 すると二人の視線は隣のベッドで寝ているミミアさんの方へ。


「いやあ……エメちゃんが心配で?」


「何のために部屋分けたと思ってんのよ!それやったらおしまいでしょ!」


 何がおしまいかはよく分かりませんが……。


「どうりでミミアさんとセシルさんの部屋を訪ねても、どちらもいらっしゃらないわけですわね……それで、セシルさんはどこに?」


「え……?セシルちゃんのことは知らないよ?ミミアは一人でここに来ただけだから」


「……え、それでは彼女はどこに……?」


 全員が沈黙します。


 一人だけ行方知れずのセシルさん、こんな朝早くに外へ向かったとも思えませんが……。


 ――モゾモゾ


「え……?」


 何やらわたしの布団の中がうごめいています。


「あんた、その布団の中……もしかして……」


「ま、まさかね……?」


 シャルが布団を掴み、引き剥がします。


「すーすー……」


 そこには小さく体を丸めて、わたしの隣に眠っているパジャマ姿のセシルさんがいました。


 布団を引き剥がしたので覚醒したのでしょうか、ぶるっと身を震わせています。


「さ、さむい……」


「寒いじゃないわよ!セシル、あんた何やってんの!?」


「……ん」


 セシルさんは一瞬目を開けてお三方の方を見ますが、すぐに興味を失ったように瞼を閉じます。


 そのまま、くるりと寝返りしてわたしにぴたりとくっつきます。


「……あったかい」


「せ、セシルさん……!」


 可愛い……!


「いやいや!ダメだよねっ!それは反則だよね、セシルちゃん!」


「それを貴女が言いますの!?」


 起きて早々、朝からひと悶着ありました。


        ◇◇◇


 食事を済ませて宿を出ます。


「……私、エメと前もこうして一緒のベッドで寝た事あるんだから。別にいいと思うんだけど」


 その後も不満げなセシルさんでしたが、“まあまあ落ち着いて”とわたしは宥めるのでした。


 そして、ここからいよいよ本格的に旅が始まります。


 クラヴィス村からフェルスまではおよそ100km弱。


 ここからは人の生活圏を超えている為、馬車などもなく徒歩で移動する必要があります。


 何事もなければ、恐らく2~3日程度で到着する想定ではありますが、魔獣なども出てくる可能性もあるので気を引き締めなければなりません。


 わたしたちはクラヴィス村を後にし、北東へ進みます。


「そういえば、リアさんこの周囲の魔獣のことを聞いてくれていましたよね?どういった状況なんでしょうか?」


「そうですわね、この辺りの魔獣はデーモンウルフと呼ばれるのがほとんどだそうです。個体としてはそこまで能力は高くないそうですが、群れで襲ってくるそうですのでソロで挑むのは控えた方がいいとのことでしたわ」


 ……あれ、一人でフェルスに行こうとしてたわたしは早速危なかったっていうことでしょうか?


「そうは言っても私たちは5人編成ですから滅多なことはないでしょうが……。ですがそれはあくまでクラヴィス村近郊の話ですので、フェルスに近づいて行けばどうなるとかは分からないそうですわ」


「なるほど……それは油断できませんね」

 

 いよいよ始まるであろう魔獣との戦いを前に緊張感がこみ上げてくるのでした。





 しばらく歩いたでしょうか、森の茂みからザザッと草の揺れる音が聞こえてきます。


「来ましたか!?」


 全員が身構えて待機します。


 ガサガサと揺れると、木の間から銀色の体毛に覆われたデーモンウルフが4体同時に襲い掛かってきました。


「ガアアアアアッ!!」


 物凄い速度で近づいてきます。


 わたしのアクセラレーションと同等のスピードがあるかもしれません。


「ええっ!ちょっといきなり襲い掛かって来たよ!?」


「魔法で迎撃するわよ!」


 全員が大慌てで魔法の準備を始めます……が。


「――炎の雨(プルヴィアイグニス)!!」


 誰よりも速く、魔法を詠唱し準備していたのはリアさんでした。


 天空から炎の雨を降らせ、迫りくるデーモンウルフを迎撃します。


「ギャアッ!」


 短い鳴き声を上げ、その体躯を焼き尽くされたデーモンウルフは消滅していきます。


「まあ、こんなものでしょう」


 ふう、と何でもない事のように髪を掻き上げるリアさん。


 やはり学園第二位の実力者、攻撃魔法においては威力も高く詠唱時間の速度も迅速です。


 それは当然皆さんも分かったのでしょう、リアさんの魔法に言葉を吞んでいました。


 ステラである彼女達にはわたし以上にその差を歯痒く感じるのかもしれません。


「ガアアアアアッ!!」


 ……ですが、その鳴き声は止んではいなかったのです。


 視界には消えたはずのデーモンウルフの鳴き声が未だ聞こえてきます。


「――後ろですか!?」


 迫ってきた前方に意識を取られ過ぎてしまったのか、背後に忍び寄っている事に気付きませんでした。


 振り返ると、そこには飛び掛かってくるデーモンウルフが一体。


 最後尾にいたわたしにその牙が向けられています。


 まずい、です。予想の外だったので反応が遅れ……


 ――ザシュッ


 ぽた、ぽたと血が滴る音。


 誰の何の血なのか、最初は理解が追い付きませんでしたがすぐに判明します。


 目の前にはデーモンウルフに刃を突き立てる男の方が立っていたからです。


「これだから魔法士は……魔獣の戦い方すらまともに知らないのか」


 悪態をついてこちらを見下ろしていたのは、冒険者のジークヴァルトさんでした。

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