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72 馬車に揺られて!


 空は快晴、実にいい天気です。


 肌寒い季節ですが、日中は太陽の陽ざしでほんのりと暖かく、コートを着るとむしろ暑いとすら感じる温度です。


 馬車の荷台に乗り、その端でわたしは外の景色を眺めています。


 何でもこれから向かうクラヴィス村までは、のどかな道のりだそうです。


 この一帯は帝都が近いだけあって魔族の一掃が徹底的に済んでいるそうです。


 クラヴィス村から先は魔獣が出て来るそうですが、この馬車での移動の間はひとまず平和ということです。


 冒険感が満載の光景で何だかワクワクしちゃいますね。


 ……外を見ている限りはですが。


 胸躍る気持ちも、後ろを振り返ると別世界です。


「「「「…………」」」」


 む、無言……。


 皆さん座って黙り込んでしまって、空気が異様にどんよりしています。


「しゃ、シャル……」


 わたしはシャルにアイコンタクトを取って手招きします。


 シャルは何も言わずに大人しくこちらに来ました。


「何よ」


「何よじゃないよ、どうして皆だんまりなの?喧嘩でもしたの?」


「……多分、普通よこれ」


「え、これが普通って……」


 こんな重苦しい普通があるのでしょうか。


「忘れてると思うけど、魔法御三家ってライバル関係にあるのよ?その令嬢たちだって仲良しこよしってわけにはいかないでしょ?」


「いや、でもケーキ屋さんの時は三人で集まってたし……」


「アレは三人の中で目的が重なったからでしょ。何もなければこんな感じになるわよ」


 言われてみれば……出発前も言い争いしてたくらいですしね。


 ですが、皆さんを集めるとこんな大変な空気感になるものだったとは……。


 いつも一人一人と話している事がほとんどなので、気が付きませんでした。


「そんな三人が、よく休日返上してまで集まったものよ」


「うん、本当だね」


「……この意味がちゃんとは分かってないんだから、大物よね」


「?」


 シャルは溜め息混じりに肩をすくめると、一緒に三人の様子を眺めます。


「――セシルさん、本ばかり読んでいるのではなくて少しは親睦を深めようとは思いませんの?」


 そんな重たい空気を断ち切るように、リアさんが口火を切っていました。


「……親睦?誰と」


「私達以外に誰がいますの」


 セシルさんは本から顔を上げ、リアさんとミミアさんを交互に見やると――


「……エメとシャルロッテはいいけど。リアとミミアはちょっと……」


 そのまま視線を本に落としてしまうのでした。


「え!?リアちゃんはともかく、ミミアも仲良くできない感じ!?」


 そんな態度に驚きの声を上げるミミアちゃんですが……。

 

「ちょっと、ミミアさん!?その言い方だと私は仲良くできなくて当然というふうに聞こえますが!?」


「え、うん。リアちゃんとセシルちゃんは合わないでしょ、水と油って感じ」


「そ、そこまで言いますの……?」


 ショックを受けるリアさんをよそに……。


「ミミアもだけどね」


「だから何でミミアもその対象なの!?」


「なんか……頑張ってる感が、疲れる」


「がんばってる感?キャラ的な話?でもこれミミアの素だから、仕方ないっていうか?」


「そう、でも私にその明るさを押し付けられるのはちょっと……」


「ミミア、押し付けてるつもりはないよ?」


「一人称が自分の名前っていうのも聞いていてツライ……。大人になったらどうする気?」


「……」


 ああ!今度はミミアちゃんまで意気消沈してしまいました!


 セシルさんの言葉の刃が鋭すぎです!


「セシルちゃんこそ本と友達なのは自由だけどさ、魔法士になったら前線に出るんだよね?皆とコミュニケーションとれないとすぐ魔族に襲われちゃうよ?」


「……」


 ――ぶるぶる


 ああ!セシルさんの本を持つ手が震えています!


 ショックを受けてますよ、アレ!


「お待ちなさい!どうして私が駄目なんですの、理由を仰ってください!」


 震えているセシルさんに、お構いなしのリアさんが詰め寄ります。


「……だから、そういう所。ガーッと来られるの怖い」


「え、これで怖いですって?……だとしたらセシルさんは今までどうやって対人関係をお築きになられたのかしら?」


「……」


 ――ぶるぶる!


 ああ!多分、セシルさんそういう所掘り下げられたくないんです!


 といいますか、この三人話す度に誰か傷つけないとダメなんですか!?


「ちょ、ちょっとシャル……このままだと喧嘩になるよ、仲良くしてもらわないと」


「わたしはムリよ……。あの三人とは絶妙な距離感なのに」


「じゃあ、誰が間に立つの!?」


「……いや、どう考えてもあんたでしょ」


「ええっ!?」


「このグループはあんたを中心に回ってることに、いい加減気付いて欲しいんだけど……」


「学園では石ころと蔑まれ、しばらく一人ぼっちでいたこのわたしがっ!?」


「地面を踏みしめるための石ころ(あんた)がなければ、星空(わたしたち)を見上げる事はできないでしょ?」


「なんか上手い事言ってるようで、わたしの事やっぱりバカにしてるよね!?」


 ぐぬぬ……!


 何にせよ、この旅路。


 大変そうな予感しかしません!

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