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42 セシルさんを我が家に!


【セシル視点】


「おかえりーって……セシル!?」


 エメの家に連れて行かれるとそこにはもう一人、妹のシャルロッテがいた。


 驚いたように目を丸くしているが、それは私も同じ気持ち。


「あ、シャル。今日はセシルさんとご飯を食べようと思ってね?」


「げっ……それあらかじめ言ってよ。お客さん来るんだったらちゃんとした食事を用意するのに!」


 気にするべきポイントはそこではないと思うのだけれど……。


 この姉にしてこの妹あり、と言った所だろうか……。


「というか、セシルってお嬢様でしょ?わたしたちみたいな一般庶民のご飯なんて食べるわけ?」


「……はっ!た、確かに!セシルさん嫌いなものはありますかっ!?」


 妹と姉の話が微妙に食い違っている……。


 言うべきだろうか……。


「食べ物は選り好みしない、何でも食べる」


 とりあえずどっちの質問にも答えられるような返事をする。


 私は食事に抵抗感があるだけで、嫌いなものは特にない。


「そう……。でも何であんたがセシルを連れてくるわけ?」


 そう、最初に話題に上げるべきはそれだったと思う。


「セシルさん今日倒れたでしょ?原因はご飯をちゃんと食べてないからみたいなの。だから我が家で食べてもらおうと思って」


「へえ……ダイエットでもしてるの?」


 あ、やっぱりそうなるんだ……。


 学園では二人でいる姿は見ないけど、こうして見ると思考回路とか凄い似ているなと思う。


「そういうわけでもない。普通にしてるだけ」


「と言って頑なに認めないので、ここはしっかり食べてもらおうと思ったの」


 相変わらずエメは私の発言を全然聞かない。


「なるほど。毎日たくさん食べてブクブク太っているあんたとセシルは正反対ってことね」


「シャル!なんでそんなこと言うの!?」


「おおかた、食べないで痩せているセシルに嫉妬してるんでしょ?仲間を増やそうとしてるわけだ」


「ちっ……ちがうっ!わたしはセシルさんの健康が心配なだけっ!」


 案外、仲いいんだなこの二人……。


「えっと、エメ……」


「はい、何でしょうかセシルさん?」


「とりあえず、下ろしてもらってもいい?」


 いつまで私はエメの背中に乗っかっていればいいのだろう。


「はっ!?それもそうですねっ!セシルさんがあまりに軽いので忘れていました!」


「怪力女」


「ちがうっ!魔術だからっ、魔術で腕力を強化しているだけだからっ!」


 二人の言い争いはなかなか終わらない。





 リビングに案内される。


「あんたの家からすればここは狭苦しい家だと思うけど好きにしてちょうだい。ご飯も口に合わなければ食べなくていいわ」


「それは大丈夫だと思うけど……」


「あ、そう。ならいいわ」


 シャルロッテはそのままキッチンへ。


「どーぞどーぞ、セシルさん!」


 エメは椅子を引いて手招きをしている。


 座れと言うことだろう。


「あ、うん……」


 座ると目の前にはテーブル。


 やる事もないため、部屋の中を見渡す。


 確かに家の中は私の家よりも狭い。


 この家全体でわたしの部屋の大きさと同等くらいだろう。


 それでも不思議と狭苦しさは感じなかった。むしろ、楽ですらあるのは何でだろう。


「はい、どうぞ」


 ほどなくして、シャルロッテが料理を運んできてくれる。


 パン、鶏肉のソテー、サラダ、スープが並ぶ。


「シャル、わたしの分は?」


「自分で運べばいいでしょっ」


「えへへ……いつもやってくれるからつい……」


 シャルロッテに怒られながらエメは自分で料理を運ぶ。


「セシルさんの家の料理のことは分からないけど、シャルは料理上手でとっても美味しいんだよ。だからね、つい食べ過ぎちゃうんだ!」


 エメは嬉しそうに笑いながらそんなこと口にする。


「馬鹿ね、他の人の料理なんて大して食べたことないんだから。サンプルが少なくてそう思うだけよ」


 ――カチャカチャ……!


 シャルロッテは何でもないような口ぶりなのに腕が震え、水とグラスを乗せたトレーがカタカタと揺れている……。


 どういう心境なのだ……。


「セシルさんも冷めない内に食べましょう!」


「この家に食事前の挨拶とか堅苦しいのないから。好きに食べてちょうだい」


「あ、う、うん……」


 思い返せば家族以外で食事を摂るなんていつぶりだろう……。


 緊張感のない食事なんて、それこそ今まであっただろうか。


 そんなことを考えながら、私はスープに口をつける。


 野菜の甘みと、コンソメの程よいしょっぱさが舌に広がる。


「おいしい……」


 ふいに無意識でそう言葉に出していた。


「ですよね、そうですよねっ!?凄いねシャル!名家のシェフにも負けない腕前ってことだよ!!」


「大袈裟よ。社交辞令って言葉知ってる?」


「私、そういうのは言わない」


「ですって!シャルはこれから料理人を目指した方がいいのかな?」


「……いや、料理人は立派な職業だと思うけど。魔法士からの転職先としては異例過ぎるでしょ……」


「あはは……そっか。でも美味しいのはいいことですよね、セシルさん」


「うん、そうだね」


 本当に、食べ物ってこんなに味がしたんだなって思う。


 今まで感じなかったのは何でなんだろう……。


 そんなことを思いながら、二人と会話をしながら食事をした。





 あっという間に食べ終えてしまった。


 食事がこんなに美味しいと感じたのは初めてだった。


「せ、セシルさん……?良かったらなんですけど……」


 そうしているとエメは何だか急にモジモジし出した。


「なに……?」


「今日、この家に泊まって行きません?」


「なんですって!?」


 それに声を上げたのは、私ではなくシャルロッテだった。


「え……ダメなの?シャル」


「い、いや……今までそんなことなかったから、つい……」


 それにしては尋常ではない驚き方だったけれど……。


「だってわたしは家に連れて来るような人いなかったもん」


「ぼっちだからでしょ」


「ふふっ……だから今こそ汚名を返上する時。家に友達を泊めればリア充の仲間入りです」

 

 エメが悪い笑い方をしている……。


「あっそう……」


「そういうシャルは友達いるのに連れてこないよね?」


「……そんなことしたら、家での時間が……ごにょごにょ」


「え?なに?」


「何でもない!」


 シャルロッテが情緒不安定になる時は、エメが関連しているような気がする。


 まだ気がするレベルだけど……。だとしたら、何でだろう……。


「それで、どうですかセシルさん!?何かご予定はありますかっ!?」


 ぐいーっと急接近してくるエメ……そう言われると、断りづらい……。


 まあ、夜はお父様もお兄様もいない時間がほとんどだし。家にいなきゃいけないルールもないし……。


「大丈夫だと思うけど……」


「本当ですか!?やった!それならお泊りしましょう!」


 すっかりエメのペースだ……。


        ◇◇◇


 家に連絡を入れると、案外すんなりと受け入れてくれた。


 たまにならこういったことは問題ないのか……。


「セシルさん、お風呂入りますよね?」


「あ、うん……」


「わたしので申し訳ないのですが着替えは用意してします。もう夜も遅いので入りましょうか?」


 そう言われて脱衣所に案内される。


「さあ、どうぞ」


「……ええっと……」


 何故だろう、エメがその場に立ち尽くしたままだ。


「向こう行かないの?」


「はい、一緒に入りますので」


「……な、なんでっ!?」


「知ってますよ、良い家柄の人はお風呂にも使用人がついて体を洗ってくれていると。この家にそんな人はいませんから、代わりにわたしが頑張ります!」


 何やら使命感を感じている様子のエメ……。


 だ、だがそれは要らぬお世話だ。


「だ、大丈夫!そんなの小さい頃だけで今はいない!一人で入れる!」


「遠慮しないで下さい!あ、それとも服を脱がすのも手伝うものですか!?」


 エメの手がこちらに伸びる……!


 こ、怖い……!


 ――ダダダダッ


 足音が近づいて来る。


「なにしてるの二人とも!?」


「あ、シャル。セシルさんと一緒にお風呂に入ろうと思ってね?」


「ふ、二人でおぶっ……!!」


 そこで吹き出すシャルロッテも何なのだ。


「ちょっ……ちょっとセシル……!」


 シャルロッテがわたしに近づいて耳打ちしてくる。


 どう逃げるべきか教えてくれるのだろうか。


「いい?あいつの体をまじまじと見るんじゃないわよ、ていうか出来るなら目をつぶって。お触りも禁止ね」


「……え」


「変なことになったらお互いに困るでしょ!?」


「……あ、うん」


 気にする所……そこなの……?



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