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34 プレゼントを選びましょう!


「思った以上にミミアちゃんの欲しい物は豪華でしたね……」


 わたしは再び教室に戻り、考え込みます。


 間違いない成功法だとは思いますが、残念ながらそれを実行する財力がありません。


 あとミミアちゃんに誕生日プレゼントあげられないなって思っちゃいましたよね……。


 手作りのクッキーとかあげたら、どんな事になるんでしょうか……?


 背筋が凍るような思いをしそうなので、これ以上考えるのはやめましょう。


「どうだった……?」


 セシルさんがわたしの様子を見かねて声を掛けてくれます。


「わたしにはちょっと早いアイディアでした。別の手段を考えます」


「そう」


 さて、他に聞ける人がいるとすれば……リアさんくらいですね。


 教室にはいない様子。どこにいるのでしょうか?


 わたしは廊下を探索してみます。





「んー……どこでしょうか」


 教室の近くには姿がありません。


 隣のクラスも遠目で確認してみましたが、いなかったですし。 


 わたしは学園内を彷徨います。


「あらエメさん、御機嫌よう」


 と思っていたらリアさんの姿がありましたっ。


 ですがここ、だいぶ教室から離れています。


「リアさん、こんな所で何をしていたんですか?」


「先生に用がありましたので職員室から帰ってきたところですが?」


「……なるほど」


「エメさん、貴女とても失礼なことを考えていませんでした?」


「いやいやっ、そんなまさかっ!」


 図星で怖いのです。


「あ、わたしリアさんに聞きたいことがあったんです!」


 慌てて話をすり替えます。


「……なんでしょうか」


「リアさんってお誕生日プレゼントに何を貰ったら嬉しいですか?」


「誕生日プレゼント……ですの?」


 意外だったのでしょう、リアさんは不思議そうな表情を浮かべています。


 ……自分から聞いといてアレなんですけど。さっきのミミアちゃんの一件で思ったことがります。


 やはり御三家と呼ばれる名家の方々ってちょっと金銭感覚が違うのではないかと。


 冷静に考えればセシルさんのレアな魔法古書だって相当高価ですし。


 特にリアさんは、その中でも一際スケールの大きいことを言う気がしてなりません。


『私にプレゼントしたいのでしたら城一つ……いえ、国一つくらいなら貰ってあげてもよろしくてよ?』


 とか言っちゃいそうです。容易に目に浮かびます。


「その人が心を込めて選んでくれた物でしたら、何でも嬉しいですわ」


「……え?」


 あれ、わたしの聞き間違いですか?


「え、とは何ですの。私そんな変なことを言いましたか?」


「いえ、すいません。ちょっと意外でして……。でも、それってリアさんは何を貰っても嬉しいってことですか?」


「その人が私のことを想って選んでくれた物なのでしょう?それを喜ばない理由がどこにありますか」


 な、なんて……素敵な方なのでしょう……!


 そうですよねっ。一所懸命に想って選べば何だって喜んでくれますよね!


「ありがとうございますリアさん、お陰で答えが見つかりそうですっ」


「私は当たり前のことを言っただけです。むしろ、これが意外だなんてエメさんは私が何と答えると思っていらっしゃったの?」


「いえ……、リアさんは城とか国くらいじゃないと喜ばないのかなぁ、なんて……」


 リアさんの眉がぴくりと動きます。


「誕生日プレゼントにそんなの贈る人がどこにいますの……。というかそんなの貰っても嬉しくありませんわ」


 そ、そうですよね。


 冷静に考えてそんなの有り得ないですし、さすがにそんな規模の物を貰って嬉しいワケないですよね。


「――それは自身の力で掴み取るから意味があるのでしょう?」


 ……あ。違いました。


 やっぱりリアさんも見ている景色がちょっと違ったのです。


 そんなスケールの大きな野望を抱く女の子がいるなんて思わないのです……。


        ◇◇◇


 放課後。


 何はともあれ、わたしはわたしなりにシャルのことを考えてプレゼントをすればいいことが分かったのです。


 繁華街を目指して帰り道を歩きます。


「じゃあ、シャルは何が欲しいのかなぁ……?」


 ……あれ。


 ぴたっ、と足を止めます。


 ちょっと待ってください。一瞬納得した自分がいましたが、何かおかしいです。


 自分なりに選ぶ重要性は分かりました。


 ですが、わたしはその中でも傾向と対策として、より喜ばれるであろうプレゼントが知りたかったのです。


 ですがこの状況って……。


「最初と何も変わっていないのでは!?」


 結局何が欲しいのか分からないまま選ぶという意味では変わりません!


 最初よりはちょっとだけ自信を持って選べそうですが……それくらいの差ですねぇ。


 とぼとぼ、と切ない足音が響きました。





 繫華街に到着しました。


 以前リアさんと来た時もそうですが、ここは人の行き交いが多いです。


 人の波に飲まれそうになりながらも、ショーケースに並ぶ雑貨や家具などを眺めてみます。


「ううん……どれも値段が張ります。さすが帝都、物価が高いのです」


 シャルは事あるごとに“食材がとにかく高い!”と言っていましたが、こういう事なんですね。


 きっと賃金も高いのでしょうけれど、学生のわたしには今のところ関係ないですしね。


 値段の高さだけが目についてしまうのです。


「あ、かわいい」


 そうしている内に、ふと目に着いたのはマネキンが着ている冬仕様の洋服。


 モコモコとしたコートや毛糸のマフラーや手袋が可愛らしいデザインをしていました。


 コートとかは買えないですけど……。これから寒くなりますし、マフラーとか手袋は良さそうですね。


 わたしはその洋服屋さんに入ってみました。


「いらっしゃいませー」


 アンティークな内装に柔らかい音楽、綺麗な大人のお姉さんが店員さんをしているオシャレなお店です。


 ……い、勢いで入ってみましたけど……わたしみたいな冴えない子がこんな所に入って良かったのでしょうか。場違いな気がしてきて緊張してきました……。


「何かお探しの物はございますか?」


 はっ!


 オドオドしているのを見破られたのか、店員さんがわたしに声を掛けてきました……!


 な、なぜ、他にも人はいるのに。あえてわたしに声を掛けるのですか……!?


「いや……お探しというよりは、何かいいものないかなとふらっと見てみただけでして……」


 ということで、このまま解放して好きに見させてください。お願いします。


「そうでしたか。この時期でしたら冬物が気になりますよね?どういった物がお好みでしょうか?」


 えええええええっ……店員さんがまだ話を続けますぅ……。


 やんわり逃げようとしたの伝わらないんですか、この人……?


 明らかにコミュニケーション能力高そうなのに、どうしてそこ察知してくれないんですか……?


「えっと、マフラーとか手袋……ですかね」


「あ、それでしたらこちらにありますよ」


 そして断れずに答えてしまうわたしぃぃ……!!


 店員さんに流されるように案内されていきます。


 こ、このまま買わなきゃいけないような空気になりそうで怖い……!


「こちらが当店でオススメの商品になります」


 そこにはずらっとマフラーや手袋が一式並んでいます。


「マフラーでしたら、特にこちらが人気でして。見た目も可愛いんですが、肌触りがとても良くて軽くて暖かいんです」


「あ、ほんとだ。気持ちいい」


 店員さんに渡されて実際に触れてみると、ふわふわとしていながら滑らかな感触がとても心地よかったのです。


「デザインもシンプルでどの服装にも合いますよ」


「へ、へえ……」


 ま、まぁ……確かに物としてはとても良いのは分かりました。


 特に不満はありませんが、大事な要素がもう一つありまして……。


「これっていくらするんですか?」


「こちらは5万ゴールドになります」


 5万!?


 マフラーに5万!?


 桁一つ違いませんか!?


「け、結構いい値段しますね……」


「そうですね。ですが天然の最高級素材を使用していますので、質感で考えるとむしろ安いくらいなんですよ?」


 いや、分かりませんって。


 わたしみたいな田舎者にそんなの分かりませんって……。


「今でしたらこのシリーズの物を2個同時に買っていただくと20パーセントオフになるキャンペーンもしていますよ?」


 この人何言ってるんですか?


 1個でも高くて手が出ないのに、どうして2個手を出すことになるんですか。


 わたしを破産させる気ですか?


「へ、へぇ……とてもお買い得なんですね」


「はい、プレゼント用に買われていく方もたくさんいらっしゃるんですよ」


 でも、そんなこと言えないわたし!!


 素直にお金ありませんって言えばいいのに!!


 店員さんも凄く丁寧だから、何だか申し訳なくて言い出せませんっ!!


「あ、でも、アレなんかも気になりますねぇ……?」


 ですが、それを買うのはあまりに無謀。他の物に興味があるフリをします。

 

 もうちょっとお手頃な価格帯だと思われる物の中で、デザインに目を惹かれたものに手を伸ばします。


 ……が、同じ物を取ろうとしたお客さんと手がぶつかってしまいます。


「あ、すみませんっ!」


 申し訳ないのです。同じ物に手を付けてしまったらこのお客さんが買いにくくなったかもしれません。


 それとも冴えないわたしと一緒のセンスなんだと自己嫌悪までさせてしまうかも……。 


「いえ、こちらこそ……って、あんた何してんの!?」


「はい……?」


 伏せていた顔を上げると、そこにいたのはシャルなのでした。

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