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33 サプライズを考えましょう!


 おはようございます、エメ・フラヴィニーです。


 今、わたしは窓の外に映る景色を眺めています。


 気持ちのいい朝、そして心は弾むように軽いのです。


 こんなに目覚めのいい朝も久しぶり……いえ、学園に入学して以来初めてかもしれません。


 なぜですかって?


 それは、わたしの魔法に進歩があったからです。


 まだまだ魔法というには稚拙すぎる出来ですが、以前より魔法らしい完成度に近づいています。


 これをきっかけにコツを掴み、原因究明も進めばきっと魔法を使えるようになるはず。


 そう思うとわたしの心はこの青空のように晴れ渡るのです。


「今日はいい一日になりそうですね!」


 そんな予感を抱かずにはいられません。


 ――バンッ!


 すると勢いよく扉を開く音。


「いつまで寝てるつもりっ……って起きてんの!?」


 シャルは、ベッドから体を起こし景色を眺めているわたしを見て目を丸くしています。


「ふっふっふ。お姉ちゃんだって朝を優雅に過ごす時くらいあるんだよ?」


「ならさっさと起きなさいよ!何を基準に悠長にしてるわけ!?」


 優等生なシャルは朝もしっかりしているので、わたしが起きる時は家を出る時なのです。


「あんたいつか絶対遅刻するわよ」


「ふふっ……甘いねシャル」


「なによ」


「ギリギリの所でシャルが絶対に起こしてくれるから遅刻はないのだっ!」


 その発言にシャルの視線が冷ややかなものに変わります。


「明日からもう起こさないわ」


「ああ、ごめんなさい!ウソです、冗談ですっ!自分でも頑張るけど、これからも時間になったら起こしに来てね?」


「知らない」


 ぷいっとそっぽを向いてシャルは学園へ向かうのでした。





 ……さて、そんなわたしと妹の一幕でしたが。今日は一つ解決しなければいけないことがあります。


 何と明日はエメ・フラヴィニーの誕生日なのです。


 つまりシャルの誕生日でもあるのです。


 帝都に引っ越してきてから初めて迎える誕生日。いつもは両親がわたしたちをお祝いしてくれていたのですが今回は二人きり。


 つまり自分達でお祝いをしなければならないのです。


 以前シャルに誕生日どうする?と尋ねたことがあったのですが……。


『誕生日?そんなの普通に過ごせば良くない?』


『そんなの味気ないよ、二人でお祝いしようよ』


『……まあ、夜ご飯くらいは贅沢にしてもいいけど。後は好きにしたら?』


 と、シャルは結構どうでも良さそうな雰囲気でした。


 ですが、それではいけないのです。


 花の10代はあっという間に過ぎ去るもの。そんなテキトーに過ごしていい日ではないのです。


 それを分からせるために、わたしはシャルに渾身のプレゼントを用意してみせるのです……!


 最近は魔法のことで忙殺されていましたが、今日と明日だけは誕生日のことだけに専念させて頂きますっ。


 さて、シャルが喜ぶこと間違いなしのビックサプライズプレゼントと言えばですね……。


「……あれ、待ってください。シャルって何が欲しいんでしょうか?」


 まさかの何も思い浮かばないのでした。


        ◇◇◇


「困りましたね……」


 学園で自分の席につくと右端でお友達と談笑しているシャルが視界に映ります。


 誕生日はサプライズ。シャルには直接聞かず、それでいて喜ばれるようなプレゼントを用意しなければならないのです……。


 こうなったら誰かにアドバイスを乞うしかありません。本当はシャルのお友達に話を伺いたいところですが、そこからわたしの計画がバレてしまう可能性もあります。


 そうなればわたしに聞ける人脈は限られています。


 わたしの視線は真横にスライドします。


「セシルさん、セシルさん」


「なに」


 セシルさんは気だるげにわたしの声掛けに反応します。


「セシルさんが貰って嬉しい誕生日プレゼントって何ですか?」


「……本」


「なるほど、知的なセシルさんならではの視点ですね。具体的にどんな本がいいんですか?」


「何でもいいけど、たいていの本は自分で買える。だから魔法関連のレアな古書は嬉しい」


「ああ……」


 少し前にリアさんと魔法古書を買い、家に帰宅した時のことを思い出します。


『じゃじゃーん、シャル見て。あったよー!』


『うわ、なにそれ汚くない……?』


『え、いや……古書ってそういうモノだよね……』


『古書って言えばそれっぽいけど、要するに年季の入った古本でしょ?読むのは勝手だけどさ、あんまりリビングでは広げないでよね。なんか菌とか移りそうだから』


『……え、あ、はい』


 あ……これはダメですね。


「参考になった?」


「セシルさん、せっかく頂いた貴重なご意見なのですが……その人、古書は菌とか移りそうって嫌悪感を示す人でした……」


「え、そんなこと思う人いるの……?」


「はい、中にはいるみたいです……」


「そう……」


 わたしとセシルさんとの空気は絶望的なまでに重くなってしまいました。


        ◇◇◇


 さっきは何やら踏んではいけない地雷を踏んでしまいました。


 切り替えて他の人にも聞いてみましょう。意見をたくさん聞くのが大事です。


 ……と言ってもわたしがそんな声を掛けられる人ってほとんどいないんですよねえ。


 最近はミミアちゃんとはお喋りできましたけど、あんなたくさんの人の輪にいるミミアちゃんにわたし一人で声を掛ける勇気はないですし……。


 一人になるタイミングってあるんでしょうか?


 わたしはジーッとミミアちゃんを観察することにします。


 休み時間、教室にいれば当然誰かと一緒、トイレも誰かと一緒、移動教室も誰かと一緒。


「ぐ、ぐぬぬ……全然声を掛けられるタイミングがありません……!」


「えっと……怒ってる?」


 わたしの憤りが隣のセシルさんにまで伝わってしまったようです。


「いえ、ミミアちゃんに声を掛けたいのですが全然一人になってくれないんです」


「……別に、いても声掛けたら?」


「ムリですよっ!ぜんぜん参加していないグループにわたしみたいな子がいきなり入ったら空気が凍ります。そうなるに決まってます!」


「……はぁ」


 そうです!こうなったら二人になるシチュエーションを作り上げるしかありません!


「セシルさん!ちょっと手伝ってくれませんか!?」


「……なに」


「わたしの台本に従ってくれればいいですからっ!」


 ごにょごにょ、と耳打ちします。


「……いいけど。それやるなら普通に声掛けた方が……」


 さあ!セシルさんの協力も得られたことですし、やりますかっ!


 ――バタン!


 わたしはその場に倒れます。


「……私の話は無視か」


 とてとて、とセシルさんは倒れたわたしの側に寄ります。


「た、タイヘン。ラピスがホントのイシコロのようにコロガッテいる。回復魔法が得意なステラの治癒がヒツヨウよ」


 恐ろしいほど棒読みのセシルさんですが、ありがたいことにわたしの脚本通りに喋ってくれています。


 セシルさんが声を上げたのですから、注目は自然と集まります。


「それってミミアのことだよね!?大丈夫、エメちゃん!?」


 思惑通り、ミミアちゃんがわたしの側に駆け寄ってくれます。


「げほっ、ごほっ……!み、ミミアちゃん、申し訳ないですけど、治療室に連れて行ってくれませんか……?」


「え、倒れたと思ったら咳……?いやでも、回復魔法を今掛ければ……」


「いえ、ダメです。絶対に治療室です」


「え?そんなに……?」


 ミミアちゃんはかなり疑問を感じている様子でしたが、わたしと一緒に治療室へと向かってくれました。





「すみません、もう大丈夫です」


 廊下に出てすぐ、周りに人がいないのを確認してわたしは足を止めます。


「えっと……咳止まったね?もう治ったの?」


「はい。仮病です」


「……? ごめんね?理由が分からないんだけど」


「ミミアちゃんに聞きたいことがあったんです」


「うん、改めて聞いても前後の行動と結びつかないのは気のせい?」


 そんなことは今は良いのですっ。


 とにかく二人きりになったらすぐに事を済ませて、皆さんの所にミミアちゃんをお返ししないといけないのです。皆のアイドルをわたしが独占するわけにはいきませんっ。


「お誕生日プレゼントって何を貰ったら嬉しいですかね?」


「そしてお話の内容も予想外!?」


「え、やっぱり難しいことを聞きましたか……?」


「ううん、とってもポピュラーな質問だけど、その前の行動がトリッキーすぎて逆に意外だったというか……」


 それはいいか、とミミアちゃんは呟いて少し考え込みます。


 ミミアちゃんのことですから、きっと可愛い答えを持っているに違いありません。


「ま、ブランドのバックが無難じゃない?」


「!?」


 期待してた方向性と違いました!!


 年上のお姉さんのような回答!学生のわたしにそんな発想ありません!


 あったところで実行も出来ません!!


「ハイブランドの洋服とかでもいいけど、プレゼントだとセンスとかサイズ感ちがったら困るしね。バックだと大きな外れはないし、有名なの渡せば大体喜んでくれるよ?」


「ナルホド……ベンキョウニナリマス」


 住む世界が違うということがよく分かりました。


 もっと、こう……背伸びしない方法を考えてみましょう。

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