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31 ミミアちゃんが大変そうです!


「さすがセシルさんです!とっても分かりやすいです!」


 溜まっていた疑問が解消され、絡まっていた糸がほどけるように理解が進みます。


「そ、そう……」


 ですがセシルさんはかなりお疲れの様子です。


「ごめんなさいセシルさん、こんなわたしに教えるの大変でしたよね」


「いや、分からない部分は整理されていたから説明は難しくなかったけど……量が……」


 大量すぎて、一気にこなす量ではなかったということですね。


「ですが、セシルさんのおかげでこの魔法工程書はかなり理解出来たと思います!」


「こんな古書まで読むなんて、だいぶ頑張る……ラピスとは思えない」


「いやいや、ラピスだからこそじゃないですか。出来ることはやらないと」


「……どうしてそこまで魔法にこだわるの?」


「へ?」


 セシルさんからわたしのことについて聞かれるのは珍しい気がします。


「魔法士じゃなくても、魔術があれば別の道で生きていける。それでも魔法にこだわる、その理由はなに?」


「それは単純ですよ。魔法が使えないと魔王を倒せないですから」


「本気?」


 セシルさんは目を丸くします。


「ええ、もちろん本気です」


「魔王を倒すなんて言う人初めて見た……」


「セシルさんは違うのですか?」


「私は生まれた時から魔法士になることが決められてたから」


 ああ……シャルが言っていましたね。御三家は魔法士を輩出することに力を入れていると。セシルさんにとって、そこに自分の意思が介在する余地はなかったのでしょうか。


「そうまでして、何で魔王を倒したいの?」


「そうしないと皆が落ち着いて眠れないじゃないですか」


 魔族に怯えながら暮らす日々。


 どこか常に死を意識しながら生きている日常、そんなのは無いに越したことはありません。


「分からない……ここの人たちはそんな不安を抱いていない」


「帝都ですからね」


 リアさんと帝都の街並みを見て、目についたのは活気あふれる人々の光景でした。


 皆が笑顔で、楽しそうに生活する街。帝都は軍備が優れていて最も魔族の侵攻を受けにくい場所ですから魔族に対する恐怖が薄れているのでしょう。


 ですが、わたしがいた村やその周辺地域は違います。常にどこかが魔族に襲われ村や人を失う、そんな出来事に溢れていて、死はすぐ近くに感じられました。


「貴女には経験があるの?」


「昔、わたしの村は魔族に襲われましたから」


 それを聞いて、一瞬口を固く結ぶセシルさん。


「私は魔族や死を身近に感じた事はない。だから貴女のような覚悟はないのかもしれない」


「いいじゃないですか、本当は皆がそうあるべきなんです。どの土地も人もこの帝都のように笑い合える場所になればいいんです」


「……貴女思っていたより、強い」


「え、えへへ?そうですか?そんな大したことないですよ」


 セシルさんに褒められて何だか嬉しくなっちゃいます。


「肝心の魔法はダメダメだけど」


「それは言われなくても分かってます……」


 だからこうしてセシルさんにも協力してもらつて頑張ってるんじゃないですか!


        ◇◇◇


 セシルさんにお礼をして図書室を後にします。


「ですがこれで、一通り魔法工程は理解できました」


 たしかに昔の魔法工程はかなり段階を踏みます。


 ですが、それは丁寧とも捉えることができます。わたしのようなセンスのない人間には、むしろ昔の魔法工程の方が魔法をより意識しやすかったのは確かです。


 後は、実際に使えるかどうかですね。


「ちょっと練習をしてみましょうか……」


 わたしはガーデンへと向かいました。





 剥き出しの地面や草原が点在し、奥には木々が生い茂る天然の空間ガーデン。


 今日はここで魔法を練習してみましょう。


「――おい、いいから俺の言う通りにしろよ」


「ですから、そんなつもりないですってぇ」


 ……と、意気込んでいましたが先約がいたようです。


 それもあんまり雰囲気の良さそうな感じではありませんが……?


 視線を泳がせると、茂みに隠れるように二人の男女の姿を発見しました。何だか見てはいけないものを見てしまっている気が……!


 に、逃げた方がいいのでしょうか……。


「俺に付いといた方が後々、得だぜ?それくらいお前も分かるだろ」


「ミミア、そんなのに興味ないって言うかぁ……」


 って、ミミアちゃん!?


 ミミアちゃんからは嫌がっているような雰囲気が流れていますが、男の人はそれを意に介さ迫っているようです。


 後ずさりしているミミアちゃんとわたしの目が合います。


「あ!エメちゃん!」


 ミミアちゃんは駆け寄って、そのままわたしの背後へと回ります。


「ど、どうしました?」


 二人だけに聞こえる声で尋ねます。


「ちょっと先輩にウザ絡みされててね?ごめんなさいだけど、口裏合わせてくれない?」


「わ、わたしで良ければ……」


 男の人は怖い目でわたしを睨みつけてきます。


「おい、お前なんだよ。俺はミミアに用があんだよ。どっか行けよ」


「え、あの、その……」


 こ、こわぁ……。


 ツンツン頭で鋭い目つきの先輩は、これでもかとわたしに敵意を剥き出しにしてくるのです。


「後輩だからって名前で呼び捨てとかウザいよねー。それともわたしが女だから舐めてるのかな?こういう男マジでないよねぇ?」


 み、ミミアちゃん……?


 わたしにしか聞こえないからってさらっと怖いこと言うのやめてくれます……?というかそんなキャラでした……?


「ミミアは、これからエメちゃんと一緒の用事があるんです。今日はもう忙しいので帰らせてもらいますね?」


 ミミアちゃんはわたしの腕に絡みながら、可愛い声でお断りをしているのです……が。


「はぁ?ミミア、こいつラピスだろ?こんな奴と一緒にいるとか頭おかしいんじゃねえのか?」


 うぐっ……今までも散々ラピスでたくさんの人との距離感を感じてきましたが、ここまで直接的に嫌悪感を示されたの初めてです。怖い見た目も相まって心臓がキュッとします。


「誰と付き合おうがミミアの勝手ですよぉ」


「おいおい冗談やめろよマジで。付き合う相手は選ばないとザコに引っ張られてお前までカスになるぞ?だからな、お前はこのゲオルグ・バルシュタインと付き合うべきなんだよ」


 ゲオルグさんは、自身の左胸を指して自信満々の笑みを浮かべます。


「え……この人、ステラなんですか?」


「みたいだね。でもそういうのひけらかす所がセンスないよね」


 先輩でステラとかいよいよ遠い存在すぎて怖さ倍増するのですが……帰らせてくれそうな雰囲気は全くありません。


「つうことだから、さっさと失せろよお前」


 わたしを払いのけようとしたのでしょう、ゲオルグさんの腕が伸びてきます。


 触れられるのも怖いので、するりとわたしはそれを避けます。


「え、おっ……?」


 ゲオルグさんはそれで思いのほか、バランスを崩します。


「うわぁ……イキったくせに。一番ダサいよね」


 ミミアちゃんは容赦がありません。


「ちっ……ふざけやがって。さっさと引っ込んどけよ落ちこぼれ(ラピス)!!」


 逆上したゲオルグさんが手をかざします。魔法を展開しようとしてますよねっ!?


「その雷鳴を轟かせよ――稲妻(ライトニング)!!」


 ――スバババッ!!


 雷撃が走っていきます。


 わたしは魔術で避けることは出来ますが、そうなったらミミアちゃんがっ……!


「……ほんと、センスないよね。大地の壁(アースウォール)


 土の壁が出現し、ライトニングを相殺します。


「エメちゃん、この隙に行ける?上級生が下級生に魔法なんて有り得ないから、正当防衛で懲らしめてあげよ?」


「あ、はいっ!」


 確かにこれ以上魔法を打たれても困るのは事実です。


 わたしは魔術で加速し、ゲオルグさんの横合いに迫ります。


「てめっ、いつの間に……!?」


「いきなり暴力はダメですよ……!」


 距離を詰め、ゲオルグさんの目の前で腕をかざします。今こそ修行の成果を発揮する時。


 わたしは魔力を生成し、五大元素である火と複合させ、魔法を展開させます。


 以前と違うのは、その工程が一つずつ体で感じられること。お腹から腕を通して、魔力が空間に伝播してくのが分かります。


 後はそのまま解放するだけです……!


(ファイア)!!」


 ――ボワッ


 で、出ました……!


 ガスバーナーくらいの火がっ……!


 ファイアと言うには微小ですが、炎が立ち上がります。


 ――ボボボボ


 絶妙に方向性が定まらないわたしの魔法はゲオルグさんの前髪に引火しました。


「あっづっ!!」


 思った魔法と違いましたが、ゲオルグさんはすぐに(アクア)を展開して、火を止めます。


「てめぇ……やりやがったな……!?」


「で、でも先に手を出したのはゲオルグさんでは……?」


「うるせぇ、てめぇが邪魔しなきゃ済んだ話だろうがっ!!」


 ゲオルグさん無茶苦茶です。


 しかも、再び手をかざし魔法を展開しようとしています。


 一旦わたしも距離をとってから……。


 ――ガクン


「あ、まずいです……」


 魔法と魔術の併用がいけなかったのでしょう。


 あっという間に魔力が枯渇して、全身から力が抜けます。


「え、エメちゃん!?」


「ははっ!馬鹿みてぇに調子乗るからだぜっ!ライトニング!!」


 ――バチバチ!!


 電撃の音が響きます。ああ、このままではわたし感電死しています……。


 ――バチンッ!!


 けれど、その電撃音は唐突に止んだのです。


「……えっと、これはどういう状況かな?」


 わたしの前に立ち、稲妻を消し去ったのはギルバート君でした。

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