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11 ぼっちに集団行動はツラいです!


 魔法実技の時間がやってきました。


 今日は特別演習室に集まります。


 ここは普段の演習室と違い、外の環境が用意されています。


 地面があり木々が生えたりしていて、より実践的な場面を想定して訓練する場所です。


 魔法に関しては、皆さん飲み込みが早いもので、遠距離のロウソクはすっかり打ち消せるようになっていました。


 ……それに比べてわたしは毎日隅っこで魔法を展開する練習をひたすら繰り返してるだけですがね。


 我ながら失笑ものです。


 ですがっ!それでも諦めてはいけませんっ!


 今日もわたしは魔法が行使できるようになるため訓練に勤しむのです!


 あ、ヘルマン先生がやってきましたね。


 それじゃあ今日もがんば――


「ロウソク消すのもう飽きたでしょ?今日はちがうのやるから二人一組でペアになって分かれて。好きな人同士でいいよ」


 れないーーーー!!


 あ、悪魔の一言ですっ!


 先生は悪魔だったのです!


 ぼっちが最も恐れているのは“自主的に組む団体行動”!!


 先生が選んでくれたら丸く収まるのに、自主性に任せられるとぼっちは必ず余ってしまうんですっ!


 ぼっちは一人でいる事は平気でも、集団で一人際立つことはイヤなのですっ!!


「じゃあ一緒に組もうぜ」


「おう」


「わたしたち一緒にやろ?」


「うん、そうね」


 うわわわわわっ!!


 瞬く間にグループが形成されていきますっ!


 で……、ですがこのクラスは40名。


 偶数ですから、必ずわたしともう一人余ってしまう生徒さんが現れるはずです。


 一刻も早く、組めていない人を見つけだすのです。


 わたしは、ぽつんと余っている所を見られたくないのですっ!!


 キョロキョロと周囲を見渡します。


 ふと目が合う人がいました。


「あっ、エメちゃーん!もしかして一人?それならミミアと一緒になろうよっ!」


 ニコニコで手を振って近づいて来るミミアさんっ!


 あ……怪しすぎます!!


 なぜ大人数いる女子グループから外れてわたしと組もうとするんですかっ!?


 決まってます!


 中庭でのギルバート君とのやり取りを根掘り葉掘り聞くためですっ!!


「だだだっ、大丈夫ですっ!わたし組む人いますのでっ!」


 ミミアさんから距離をとるようにわたしは後ずさりします。


「ええ?ウソー。どこにいるのぉ?」


「そそそ、それはですねっ……!!」


 グルグルと視界を巡らすと……いましたっ!


 一人だけになっている子がいましたっ!


 わたしは駆け寄ります。


「せ、せせっ、セシルさん……!!」


 ――びくっ


「な、なに……」


 いきなり近づいて来たわたしに驚くセシルさん。


 そうです、セシルさんもぼっちなのです。


「一緒にペアを組みましょう!」


「いや」


 秒で拒否されましたっ!


「なぜですかっ!?」


「ステラとラピス……釣り合わない」


「けっこう辛辣ですっ!」


「だ、だから他の人の所に……行って」


 セシルさんはわたしに慣れてきた為か、思ったことをストレートに言って距離をとろうとしてきます。


 ですが、わたしに行ける他の場所などないのですっ。


「ですがもう皆さんほとんど組み終わっていますよ?セシルさんもこのままだと余っちゃいますよ?」


「別に、いい……」


「一人は目立ちますよ?」


「気にならない」


 わたしとは比べ物にならない強靭なメンタル!!


 というか、わたしと一緒にいるより一人の方がいいって、どれだけラピスが嫌なんですか……。


 傷つきましたが、でもわたしも引き下がるわけにはいかないのですっ……!


「ダメですっ、一緒にやりましょう」


「……ほ、他の人に……」


「一緒に組んでくれないと、これから事あるごとにずっとセシルさんに付き纏います」


「……!!」


「常にわたしと一緒にいるのと、今だけなのと、どちらがいいですか……?」


「そ、そんな……」


 いえ、あの、言ってるわたしもかなり傷ついてますけどね?


 そんなにわたしと一緒にいるの嫌ですかセシルさん?ラピスだからって冷たすぎません?


 本当は友達になりたいんですよ、わたしは。


「背に腹は代えられない……わかった」


 すごい無理矢理ですが、何とか組めました……。


 わたしはミミアさんの方を振り返ります。


「せ、セシルさんと組むことになってたんですっ!」


「え~。なんだぁ、残念。今度は一緒にやろうねー!」


 そう言ってミミアさんは笑顔で戻ると、他の女の子とペアを組むのでした。


「あ、あんな簡単に……わたしはこんなに必死だったのですが……」


「な、なんであの子を断って、私にこだわる……?理由が分からない……」


 ――ビクビク


 ああ、事情を理解できないセシルさんが怯えています。


 申し訳ないですが……理由は説明できないのです。


 



 クラス全員がペアを組み終わりました。


「あ、分かれたねー?それじゃペアの代表者くじ引きに来てー」


 先生の指示に従い、ランダムで順番を決めます。


 わたしたちは3番目になりました。


「はい、じゃあ最初になったペアの人達きてー」


 するとそこには二組のペアが集まります。


 2対2で向き合う構図になりました。


「あ……シャルだ」


 そこには女の子と組んでいるシャルの姿。


 相手は男の子のペアです。


「それと皆、これ持ってね?」


 先生は四人にペンダントを渡します。


 その先には丸い石が下がっていました。 


「ヘルマン先生……これは?」


 シャルが尋ねます。


「魔石だよ。効果は魔力吸収、演習用の高価なもので恐らく君たちの魔力じゃまだ壊せないと思う」


「これをどうしてわたしたちに……?」


 先生はにこりと笑います。


「今日の実技練習はね、2対2での模擬戦。クリア条件は相手ペアの魔石奪取ね」


『ええ……!?』


 生徒全員に動揺が走ります。


「いきなり実践的ですね?」


 それでもシャルは冷静を保ったまま質問を続けます。


「安全面には配慮してるよ?魔法で傷つかないように魔力吸収の魔石を持たせているからね」


「ですが、魔法が効かないのでは優劣のつけようがないと思うのですが……」


「実践では必ずしも相手を叩きのめすだけとは限らないよ?魔族を傷付けずに捕獲することを要求される時だってある。その時、君は断るのかい?」


「それは……」


「違うよね。魔法は創意工夫、これはその練習だと思ってやってみてよ」


 なるほどなるほど……。


 相手を傷付ける方法以外で、相手の魔石を奪えと言うことですね……?


 大変難しい課題です。


「せ、先生……」


 今度はもう一方のペアの男の子が声を上げます。


「なに?」


「だからと言っていきなり相手がステラのシャルロッテさんだと実力差が……」


 確かに、自由意思で集めたメンバーでは実力が均等ではありません。


 わたしとセシルさんはステラとラピスなので完璧にバランス取れてますけどね……はは……。


「大丈夫、別に結果だけを見てないから。実践では実力が上の魔族を相手にする時だってある。それをどう工夫して逃げ抜くか、または出し抜くかの機転も重要だよ。そのために純粋な魔力では優劣がつかないように設定してるわけだしね。複合的な要素で見てるから安心して」


「は……はあ……」


 男の子は一応、返事はしますが……どこか不安げな様子。


 理由は分かります。


「あまり細かいこと気にしてなくていいわ。要は相手の魔石を奪えばいいだけの話なんだから」


 だってあんな戦闘オーラ全開のシャルが目の前にいるんですから……!


「はーい、それじゃはじめー」


 ヘルマン先生の緩い合図で模擬戦がスタートしました。


「お前は土魔法で土を出せ、俺はそれを風魔法で吹き飛ばす……!」


「視界を奪うのか?」


「そうだ、その隙を狙えば……!!」


 男の子は戸惑いながらも作戦を練りました。


「シャルロッテちゃん、向こう土を飛ばすって言ってるよ……?」


 シャルのパートナーが意見を求めます。


「気にしなくていいわ、視界なんて関係ないから」


「え……?」


 するとシャルはおもむろに地面に手を這わせます。


「向こうなにしてる……?」


「顔を伏せてる……あれじゃ視界は確かに奪えないけど、向こうだって何も出来ないんじゃ……」


 困惑する男の子たち。


「――アクア!!」


 それをよそにシャルは魔法を展開します。


「え、なにして……?」


 手と視覚は魔法の方向性に深く関与します。


 地面を向いている状態では、当然魔法は地面に向かうわけですが……。


 ――グシャアァ


『うわああっ!!』


 何も起きないように見えたシャルの魔法は一転、男の子たちの足元を泥沼に変えてしまいました。


 胸元まで浸かってしまった男の子たちはもう成す術がありません。


「はーい。回収するわよ」


 いとも容易くペンダントを奪うシャル……。


「で、デタラメだ……地面そのものをぬかるみに変える水量を魔法で生成するなんて……!」


 地面に嵌る男の子ふたりをシャルは見下ろします。


 その口元には笑みが浮かんでいます。上機嫌です。


「まぁねー?先生はああ言ってたけど、結局格上が相手じゃ逃げるのですらムリなのが道理なのよねぇ」 


 先生の発言を全否定するような、元も子もないことを言ってしまうシャル……。


 我が妹ながら恐ろしい子です。

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