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03.夫と夜会に行きます

読んでくださり、ありがとうございます!


 「おかえりなさいませ」

 「あぁ……」


 夕食前に帰宅されたサイモン様。

 少しお痩せになったような気がします。

 相変わらず無表情なサイモン様の心情は読めません。

 視線を少し交わしただけで、すぐにレナルドと話し込まれていました。



 ◇◇◇



 「夜会……ですか?」


 ほぼ会話をすることなく終えた夕食後、サンルームでお茶をしていた私にサイモン様が告げたのは、今度王城で開かれる夜会へ出席しなければならないという事務連絡でした。


 「シャーロット王女殿下の婚約発表を兼ねた夜会だ。国王から直々に招待状を頂いたから断れない」

 「そうですか」


 シャーロット王女殿下は確か今年で16歳。

 聡明で慈悲深い美姫と有名で、目に入れても痛くないほど国王が溺愛されていたと聞いています。

 そのため、数多ある縁談を全て断られていたとか。

 そのシャーロット王女殿下がついに婚約されたとなれば、盛大な夜会を開こうというのも納得です。


 「その夜会には隣国の王族たちも招待されている」


 サイモン様の声が硬くなりました。

 隣国……とはレティアお姉様が嫁がれたカハサール国も含まれているのでしょう。

 つまり来賓としてジュリアス王子殿下とレティアお姉様も来られるはずです。


 レティアお姉様が婚約されてから、サイモン様は夜会へほとんど顔を出さなくなりました。

 今回のように王族が主催されるもののみに留めています。

 しかしレティアお姉様が来られる夜会は初めてです。


 私はサイモン様の様子を窺いました。

 

 サイモン様がどう思われているかはわかりません。

 でも愛する人が他の方の伴侶として参加されている夜会など、出たいと思えないはずです。


 「サイモン様、どうしても参加されたくないのであれば私が何か策を」

 「いや、いい」


 どうにかして参加しない方法を考えようとしましたが、サイモン様の強い意志によって阻まれました。

 

 「申し訳ありません。差出がましいことを致しました」


 思わず頭を下げました。

 サイモン様は黙ったまま、その場で立ち尽くしています。


 「気を遣わせてしまったな。私の方こそすまない。ドレスやアクセサリーは君の好きなものをいくらでも頼んでくれていい。まだ書類を片付けなければならないから……これで失礼する」


 

 頭を上げると、サイモン様の後ろ姿が視界に入りました。

 


 もうサイモン様のお心に寄り添うことすらできない。


 

 それはサイモン様が私の前でレティアお姉様を想って泣いた日を境に感じていたことでした。

 それまでは私に心の内を曝け出してくださっていたと思っていたのに……。


 私を見るとレティアお姉様を思い出されて嫌なのかもしれません。


 そう思うと胸の中にストンと落ちるものがありました。



 ◇◇◇


 夜会当日、私は紺色の生地に金色の刺繍が入ったドレスを身に纏っていました。

 まさにそれはサイモン様のお色。


 本当は別の色味をと思っていたのですが、侍女長のマリーが譲りませんでした。

 

 それもこれも仲の良い夫婦を演じるためです。


 きっとサイモン様は不満に思うでしょうが、承服していただくしかありません。



 いつもハーフアップにしていることが多い髪は、ハンナによって綺麗に纏め上げあられ、銀細工の髪飾りが飾られています。

 お化粧もいつもより濃いめにされ、ぼんやりとした私の顔が幾分かハッキリしました。


 サイモン様はお仕事からそのまま会場へと向かうため、王城で待ち合わせをしています。


「奥様、おキレイです」


 公爵邸のエントランスへと向かうと、レナルドを筆頭に使用人たちが出迎えてくれました。


「ありがとう。留守を頼みます」


 そう言い、使用人みんなに視線を送ると、みんなが温かな視線を送り返してくれました。

 さぁ、ここからは社交です。

 公爵夫人として恥じない振る舞いが求められます。

 私は戦場へ赴くつもりで馬車へと乗り込みました。



 王城へ着くとサイモン様と合流しました。

 サイモン様は私を見つけると、少し目を瞬かせたような気がしましたが、いつものように無表情でエスコートしてくれます。


 サイモン様は前髪を後ろへ流し、その美顔を露わにしていました。

 中性的な顔に黄金の瞳が輝いているのがよくわかります。

 黒の燕尾服が背の高いサイモン様をさらにスタイリッシュに見せているようでした。


 本当に美しい方。


 以前は「氷の貴公子」と呼ばれていたサイモン様です。

 その名に恥じない佇まいにドキドキと胸が高鳴りました。

 しかし、ふと冷静になったのです。


 サイモン様がここまで着飾るのはレティアお姉様が来られるから。

 

 そう思うと舞い上がった気持ちがしぼんでいきました。

 


 久しぶりに踏み入れた王城のホールは相変わらず煌びやかで、私には少し眩し過ぎます。

 知り合いと談笑していると、大きなファンファーレが鳴り響きました。


 王族と近しい血筋の方たちが入場され、続いて来賓が入ってこられます。


 もちろんその中にはジュリアス殿下とレティアお姉様の姿もありました。

 レティアお姉様は相変わらず美しく着飾っておられましたが、少し雰囲気が変わられたように思います。

 

 ――ジュリアス殿下との距離が……遠い?


 そうです。以前はジュリアス殿下とベッタリ寄り添い、見ているこちらが恥ずかしくなるほど近かった二人の距離が、いささか遠いように感じたのです。


 隣にいるサイモン様を覗き見ると、表情筋はピクリとも動きません。

 私にはサイモン様が何を感じられているのかわかりませんでした。

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