委員会
それは俺が一年生の時、二学期が始まった頃の事だった。
季節はまだ夏。九月というと秋をイメージするが、実際はまだ夏の暑さが猛威を振るっており、暑苦しい時期。
いつもの様になんともない毎日。一人で登校して教室でもほとんど一人で過ごす。何気ない変わらない日常。
その日の朝、ホームルームで担任がクラスに連絡事項として言った。
「あ~、それから今日の放課後から体育祭実行委員は委員会があるからな。え~っと実行委員は……久慈と、それから白雛か。よろしく頼むぞ」
担任はそう伝えると教室から出て行く。
俺は部活動が盛んなこの学校で部活にも入らず、かといってバイトもしていない。更には勉強に力を入れているわけでもないという、何ともやる気のない生徒だった。そんなやる気の無さからかクラス内の係も委員会もやる気は無かったのだが、どちらか一つはやらなくてはならず余りもので残った体育祭実行委員をやる羽目になっていた。
藤沢市立霞ヶ丘高校は学校行事にも力が入っている節がある。文化祭や体育祭は毎年他の学校の生徒や、見学を兼ねた中学生が大勢来るのだ。
そんな中、楽しく賑わう体育祭を盛り上げる体育祭実行委員がクラス内で残ってしまうというのは予想していなかった。
しかし、他の委員会と違ってその時期だけ活動すれば良いその委員会は少し都合が良かった。
(今日から少し面倒事が増えるのか……)
心の中で悪態をつく様に呟いてしまう。
そうして一時間目の授業までの休み時間で、教科書などを準備していると声を掛けられた。
「久慈君、今日からよろしくね!」
とても明るく優しさを纏ったその声には聞き覚えがあった。
このクラスに在籍していれば、誰もが彼女の声を聞いたことがあるだろう。そのはつらつとした凛とする声色、ブロンドの様な亜麻色の真っすぐな髪。その色がより鮮やかに見えるような艶めき、その美しい髪色に見合う精緻な顔立ちと細く整った鼻梁と深く輝いている紫色の瞳。身長は低めだがその整った貌と絶妙に嚙み合っていて誰もが見惚れてしまう美少女。性格も明るく元気でクラスの人気者である彼女を知らないはずがない。
そう。彼女——白雛香茂実だ。
しかし、今まで一度も会話をしたことが無いのにここに来て急に声を掛けられると何を話していいのか分からなくなった。
とりあえず無視だけは出来ないので適当に返事をする。
「……よろしく」
俺はその目つきの悪さと口数の少なさから、クラスメイト達と交流をする事が殆どなかった。
一方でクラスの——いや、学年全体で人気を誇っている彼女は誰とでも仲良く接している。
そんな白雛と委員会活動で一緒に活動していくというのは、俺にとって少し重荷だった。もはや対局のカーストと言ってもいい存在と一緒に過ごさなくてはならないのだ。ただでさえ委員会という物自体が面倒事なのに、人気者の白雛といたら良からぬ視線を集める事になるのではないだろうかと少し憂鬱になる。
「そういえばもう二学期になるっていうのに私、久慈君と話すの初めてだよね!」
なんと白雛は挨拶だけではとどまらず、会話を広げ始めてきた。
「そうだね。うん」
我ながら何ともつまらない返しだった。
そんな返事になってしまうのは周りからの視線が痛かったからなのだろうか。気づけばクラス内から視線が集まってしまっていた。
「体育祭成功させるために頑張ろうね!」
白雛は嘘偽りない澄み切った笑顔で俺に笑いかけて言った。
「あ、あぁ」
俺はそんな眩しい太陽に気圧されて、返事までもが微妙になってしまった。
そうして休み時間は終わり、授業が始まる。