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冬の朝に見る霞はどこまでも美しくて  作者: 森菜香ぱるむ
4/5

友人

「ん~~っ!美味しかったぁ!」


昼休みが始まってから二十五分ほど経つと、香茂実は満面の笑みでお弁当を食べ終える。


「本当に美味しかったよ。ご馳走様でした」


「おそまつさまでした」


昼休みが終わるまで残り二十五分程猶予があった。


いつも弁当を食べ終えると二人は教室へ戻って他の友人たちと会話を楽しむ流れがあるので、中庭を後にして教室へと戻る。


そして教室へ戻る途中の階段でふと香茂実へ質問をした。


「そういえば、もうすぐ大会だっけ?」


香茂実の所属しているバレー部は、もうじき大会を控えているのではないかという事を思い出したのだ。


「うん!そうだよ!三年生たちは最後の試合だし、頑張らないと!」


「いつだっけ?俺も見に行こうと思ってさ」


「え⁉来てくれるの⁉嬉しい!私がんばっちゃう!」


香茂実はとても嬉しそうに気合を入れている様子だった。


「だって香茂実も出るんでしょ?なら、応援しに行きたいなと思って」


「うんうん!出るよ!頑張っちゃうよ~っ!」


「んで、いつなんだ?試合の日って」


「えっとね、初戦は五月の二十八日だよ」


「五月の二十八日、ね。了解」


香茂実の初戦の日をしっかりと頭の中に焼き付ける。


そんな会話をして教室へと着いた二人は、戸を開けて中へと入る。


「それじゃ悠貴、また放課後ね!」


「あぁ」


そう言って香茂実は、同じクラスで同じ部活に所属している友人たちの元へと駆け寄って行った。


「あのね!悠貴が試合見に来てくれるの~!」


そして香茂実は、はつらつとした様子で友人たちに喜びを伝えていた。


「えぇ~良かったじゃ~ん」


「この幸せ者め~」


そんな楽しそうな会話をしている香茂実を横目に自分の席へと着くと、声を掛けられた。


「おう、おしどり夫婦。今日もイチャイチャラブラブしやがってこの野郎」


そう声を掛けてきたのは、少し明るく染めた茶髪のツーブロックが特徴的な男子生徒。身長は悠貴より8センチ程低い170センチ。その見た目と身に纏うおおらかで明るい雰囲気は誰でも接しやすいと印象を与える。


そんな彼の名前は本井一馬(もといかずま)。昨年悠貴と同じクラスでよく話していた友人だ。更に言えば悠貴と香茂実をくっつけてくれた立役者だった。


今のこの幸せな毎日が送れているのは、一馬のおかげと言っても過言ではない。


「別におしどり夫婦じゃないから……。なんだよ一馬」


「なんだよ~、お前とこうして話せる機会と言えば授業間の休み時間と、この昼休みのタイミングぐらいしか無いから来てやったっていうのによぉ」


「はいはい。嬉しいです」


「ったく、春樹ちゃんは素直じゃないんだからぁ」


一馬は冗談っぽくふざけて気持ちの悪い口調で言った。


「うわ、気持ち悪っ」


「冗談冗談。俺にその趣味はねぇから」


「そんなのあったら速攻で縁を切ってるよ」


「おいおいマジかよ。俺らの友情ってその程度の物だったのかよ⁉」


「そんなもんなんじゃない?」


一馬の訴えかけに一切動じず冷たく返して見せると、一馬はカッと笑って言った。


「ははっ!間違いねぇ!」


「本当にお前はテキトーばっかりだな」


「悠貴、お前にだけは言われたくねぇぞ?」


「俺は別にテキトーじゃないだろ」


すると、一馬は悠貴の席の後ろの席を借りて座り込みながら言った。


「だってお前部活もやってないし、バイトもしてないし、授業もほとんど寝てるじゃん」


「……」


正直それを言われると痛い。


一馬は俺と違ってしっかりと部活に所属している。一馬が所属している部活はサッカー部。一馬は中学の頃強豪校に所属していたらしく、サッカーの腕前はかなりのものらしい。一馬の顔立ちは悪くなく、むしろいい方である為学年でもひそかに人気を集めているらしい。もっとも、この情報は香茂実から聞いたものだが。


一馬本人はその事など全く知らず、能天気に生活をしている。もしもそれを伝えてしまえばきっと一馬は調子に乗るだろうと思ったからだ。


しかし、もしも彼に本気で恋をする人物や、彼自身が本気で好きになった人が出来たのならば、その時は出来るかぎりの事を尽くしてあげたいと思っている。それは、自分が一馬に感謝をしているからこそ芽生えた気持だった。


「まぁ、確かにテキトーと言われれば、テキトーなのかもしれない……」


「なんだよ。結局折れるのかよ。なら、最初から言うなし」


「それもそうだな」


学校生活を送る上で一番楽しい事、好きな事を上げるのならば香茂実と過ごしている時間だとはっきりと自信を持って言えるが、次に好きな時間は一馬とこうしてどうしようもない会話をしている時だろう。


それらの要素が積み重なって俺は、日々の学校生活に十分すぎる程の満足感を得ていた。


「ってか話変わっちまうけど、お前ら付き合い始めてどれくらい経ったよ?」


不意に一馬が質問を投げかけてくる。


「ん?えっと、付き合い始めたのが去年の十一月の二十五日だったから……今月の二十五日で半年になるかな」


「おぉ……!結構長く続いてるじゃん。まぁ、お前ら二人のいつもの雰囲気見てれば何も心配とかしてないけどさ」


そう。香茂実と俺は非常に順調だった。今まで特にこれと言った衝突も無く、幸せに順風満帆に過ごしてこれている。


「そうだなぁ……最初はこんな感じになるなんて全く思ってなかったからなぁ……」


「懐かしいぜ本当に。白雛から相談受けた時はびっくりしたもんだぜ。だってお前らの接点っていえば文化祭実行委員ぐらいだったろ?加えてお前目つき悪いし、何人からかの女子からは密かに怖がられてたりしてたしよ。あの時は本当に驚いたなぁ……」


「さりげなく思い出すついでに人の事馬鹿にするのやめろよ」


「わりぃわりぃ」


でも、一馬の言う通り本当に懐かしい。


香茂実との始まり。


彼女はとても明るくて元気で、クラスの誰もが彼女の魅力に魅かれていた。それに比べて俺は地味で親譲りの目つきの悪さであまり人と関わらなかった。


そんな俺が太陽の様な存在である香茂実と付き合う事が出来た出来事——

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