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冬の朝に見る霞はどこまでも美しくて  作者: 森菜香ぱるむ
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 暖かな日差しがその熱を少しずつ強めていく時期。春の暖かな空気が夏の暑い空気へと変わり始めるは五月の十六日。


 俺、久慈悠貴(くじはるき)学校へと向かっていた。


「今日は少し熱いな……」


 燦然さんぜんと光り輝く太陽を手で覆いつつ見つめて言う。


 まだ夏本番という訳でもないこの時期で夏服である半袖を着ておらず、少し後悔をして季節の変わり目というのが一番服装に困ると思った。


 悠貴は現在高校二年生で、藤沢市立霞ヶ丘高校に通っている。


 悠貴の家から霞ヶ丘高校までは左程遠くなく、大体歩いてニ十分ほどの場所にあるため徒歩で通学している。


 狭く静かな住宅街の路地を進んで曲がり角を曲がって抜ければ、そこは大通り。その大通りを突き進んでいけば霞ヶ丘高校がある。


 現在の時刻は八時ニ十分。


 ここからだとおよそ十分で霞ヶ丘高校へと着く。


 まだ朝早いというのに大通りでは車が行き交い、先ほどまでの静寂に包まれた住宅街から一気に喧噪の地へとやって来る。


 そしてしばらく耳に付けているイヤホンで音楽を聴きながら大通りを進んで行くと、悠貴と同じ制服を着た学生たちが散見されるようになる。


 歩行者用の道路は生徒達で賑わい、皆友達同士で楽しそうに登校している。


 そんな雑踏の中をかき分けるように一人、自分の世界に入り込んで学校へと向かう。


 耳朶に伝わる重低音が、リズムが、自分を世界から隔絶された場所へと連れて行ってくれる。俺はこの時間が大好きだ。


 誰にも邪魔されない。自分だけの世界。


 悠貴は流れてくるアップテンポな曲に合わせて歩く速度を速める。


 そうして学校に着くと下駄箱で靴を履き替える。


 二年生になった悠貴の教室は、一年生だった時の一つ下の階である三階にあった。


 教室の戸を開けて教室へと入って行く。


 教室には既に沢山の生徒達がおり、賑わっていた。


 机に腰を掛けて談笑している男子生徒達。


 一人の女子生徒の周りに集まってキャッキャと話している女子生徒達。


 ホームルームが始まる五分前という事もあり、ほぼ全てのクラスメイト達が教室内には居て悠貴はギリギリで教室へやって来た。


 そして悠貴は自分の座席へと座り、教科書を鞄から取り出して机の中に入れていると声を掛けられる。


「おはよう。悠貴!」


 机の中に入れようと目線を下に落としていたが、声がする前方に目をやるとそこには一人の女子生徒が立っていた。


 先程教室に入ってくる際に、他の女子生徒達に囲まれて楽しそうに話していた女子生徒。身長は低めの148センチ。その相貌はとても見目麗しく、誰もが彼女を見るたびに立ち止まってしまう程の美少女。鮮やかな金色でもない銀色でもない亜麻色のサラサラロングヘアーが特徴的でよく目立つ。その派手な見た目通り制服もやや着崩していて、腰には自身の髪色に近しいベージュのカーディガンを巻きつけ、スカートは下着がギリギリ見えない程度に幾重にも折られている。更にワイシャツの第二ボタンまで開けている彼女の胸元には大きな山が、確かな重量感で存在している。そんな容姿が彼女の明るい性格を容易に想像させる。そして明るく派手なその髪色と同じぐらい光り輝く濃いアメジスト色の双眸で彼女は俺を見つめていた。


「おはよう。香茂実(かもみ)


 そう挨拶を返した。


 彼女の名前は白雛香茂実(しらひなかもみ)


 去年も同じクラスであり、同じ委員会に所属していた。そして香茂実と俺は半年程前から付き合っている。


「もぉ~!悠貴はいっつもギリギリで登校してくるんだから!全然話せないじゃん!」


 香茂実はわざとらしくぷんぷんと怒ってみせる。


「ごめんごめん。でも、朝はなるべく寝てたいんだよ」


「むぅ~」


 それを聞いて分かりやすく拗ねる香茂実。


「その代わりになるか分からないけど、今日の放課後は空いてる?」


「えっ……う、うん。空いてるよ?」


「じゃあ、放課後遊びに行こうよ。いつも朝喋れない代わりに沢山遊ぼう」


 すると、それを聞いた香茂実の目はどんどんキラキラと輝きを増して見開かれていく。


「絶対ね!絶対だからね⁉約束だよ?」


「別に嘘はつかないから安心してよ」


「やったーっ!」


 香茂実は飛び跳ねて喜びを全身で表現する。


 本当にこういう所が可愛い。


 分かりやすく感情を全身や表情で表現してくれる彼女の全てが好きだが、特に好きなのはやはり喜んでいる姿だった。


 この光景ならいくらでも見続ける事が出来るのだろう。香茂実の幸せが俺の幸せにつながるのだから、香茂実をついつい喜ばせてしまいたくなる。


 そんな喜ぶ香茂実へ問う。


「今日は部活無いんだ?」


「うん!今日はオフだよ」


 香茂実は未だ嬉しそうな表情を隠し切れていないのか、ニコニコと答えてくれる。


 香茂実は部活に所属をしている。


 市立霞ヶ丘高校は進学校でありながら、部活が非常に盛んという特色がある。大体の生徒達はその雰囲気に呑まれて部活に入部してしまうようだ。しかし、香茂実は呑まれたというよりも率先して入ったというのに近いだろう。


 香茂実は小学校の頃からバレーボールを続けていて、高校でもバレー部所属している。


 一年生の頃から期待されるほどバレーの能力は高いようで、部活の仲間たちからの信頼も厚い。


「そっか。なら、気兼ねなく遊べるな」


「うん‼」


 香茂実は明るく柔和な笑みで頷く。


 そんな会話をしていると担任が教室へ入って来て、それと同時にチャイムが鳴り響く。


「あっ、ホームルーム始まる。悠貴、放課後絶対だからね!」


「だから嘘はつかないって……」


  自身の席へと戻りながら念を押す様に言って来た香茂実にそう伝えると、彼女はニッコリとした笑みだけを向けてきて返事をしてきた。


「それじゃあ、ホームルーム始めるぞ」


 担任が教壇に立ちクラス全体へそう伝えて授業が始まって行く——



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