プロローグ
「おやすみ」
俺はベットで気持ちよさそうに、何者にも縛られることのないように寝ている彼女へそう告げる。
溢れ出る思いが零れないよう噛み締めながら、殺しながら。
静謐さが包み込む清潔で白いっしょくたな室内。
まるで音が伝達し得ない真空に居るような感覚に陥るほどの静寂。
そんな静寂の中、ある音だけが背後から囁くように聞こえる。
ヒューっと言う音ともに俺の肌を冷やす。
カーテンはヒラヒラと揺れ、冬の寒気が室内へ入り込んできている。
「寒いよな……」
彼女へそう告げる。
そして窓を閉めようと後ろを振り返った瞬間——
外はもう朝になる頃だったようだ。水平線からは朝日が上がっている。
その神々しく澄んでいる日差しが目尻に浮かぶ涙に反射して眩しくなり、目を細めてしまう。
涙を拭き取り、もう一度外を見るとその光景に思わず目を見開く。
「……」
冬の透き通った冷たい空気が朝日に照らされて光り、輝く。
その光は霧みたいにうすぼんやりと白く、それを淡くしかししっかりと輝きを持つ橙色が照らす。
その光景があまりにも幻想的すぎて、呆然としてしまうほどだ。
「見せてあげたかったな……」
この光景を前にこぼれた言葉はそれだった。
それは願いなのか、それとも希望なのか。
しかし、それももう叶わない。
外に見える神々しく希望に満ち溢れた明るい光とは対照的に、俺の心はどんよりとくらい雨模様だった。
だって彼女は——
暗く陰る俺の心に暖かく差し込む光が眩しくて胸がキュッと苦しくなる。
外の美しい景色を見て涙が再び溢れて止まらなくなる。
俺はきっと生涯この景色を忘れることは無いのだろう。
そんな思いを胸に俺は、外の景色を目に焼き付けながら窓を閉めた——