五之巻:脱ぐでござる
数日後、殿下よりお手紙が届けられたとのことで、親父殿の書斎に呼び出された。
「殿下がシルヴィアを王宮での舞踏会に誘ってきた」
上質そうな紙を片手に親父殿が言う。
ちなみに婚約の件だが、実は聖女はそのお役目のうちは嫁げぬらしい。ただまあ、殿下に婚約を申し込まれているというのが公になっている以上、他家との婚約は進められぬ。
唾つけられたというものでござろうか。
「ふむ、光栄な話にござるな?」
「そうだね。お受けしないと。衣装は仕立てているのを急がせよう」
某は礼を取り、部屋に戻る。
「旦那様は何と?」
カチューシャが尋ねた。元々、某には何人ものメイドが交代で仕えていたが、最近は彼女が専任となっている。
某は今の親父殿からの話を伝えた。
「聖女としての力量をしっかり見せねばな」
「……舞踏会ですよね?」
「うむ、武闘会と言っていたでござる」
某たちは互いに首を傾げる。
「舞踏会とはダンス、踊りをするのですよ」
なん……だと……。
彼女は心配そうに続ける。
「お嬢様、ダンスは覚えておられますか?」
踊りか。どれ。某は手を前に出して構える。
それ、パンパンパン。パパンがパーン。ちゃっちゃらーっ、ちゃっちゃちゃーちゃー、ちゃっちゃらーちゃらー、ほいほい。
「お嬢様、何ですその珍妙な動きは」
「盆踊りにござる」
「王宮でそれやったら死刑ですね」
「それほどにござるか!?」
こいつはヤベぇという表情のカチューシャ。
むむむ。
「お主は踊れるでござるか?」
「拙いものであれば……」
カチューシャはわるつの基本のすてっぷとやらを踊ってみせた。成る程……。
「カチューシャ。脱ぐでござる」
「!?」
スカートを脱がせて今のをもう一度踊らせる。
一曲終わり、恨めしそうにこちらを見る彼女の前で某は叫ぶ。
「忍法、猿真似の術!」
某が全く同じ動きをするのを見て、彼女が瞠目する。
「これなら何とかなりそうですね!でもなぜ脱がせたのですか」
「うむ、スカートをはかれていると足捌きが分からぬ故」
スパァン!
「なぜ叩く」
「それならズボンをはいても良かったでしょう!」
……おお。
「旦那様と奥様にきちんと踊って貰いましょう」
王宮での舞踏会で粗相があってはいけないと某が不安がっているという旨を、カチューシャは親父殿とお袋殿に伝え、翌日は舞踏会での所作からダンスと一通りやって貰ったのである。
親父殿とお袋殿はとても良い雰囲気になっておった。これは年の離れた弟でもできるやもしれんでござるな!