三十八之巻:終わったにござるな
「南無阿弥陀仏」
服部半蔵の屍に念仏を唱える。
「終わったにござるな」
すると某の身体から光が溢れ、収まった時になんと某の身体は二つに分裂していた。
「某?/わたし?」
「シルヴィアか?/おいしそうさん!」
心の中に優しげな声が響く。
――ありがとうございます、おいしそうさん、シルヴィア。極まった忍者聖女の力はこの世界には過ぎたものです。申し訳ありませんが魂を分け、肉体を持たないおいしそうさんには身体を用意致しました。
おお、それは忝い……ん?
「何で某がまだ女性の身体なのでござるか!」
正面に立つシルヴィアがにまにまと笑う。
「そりゃあ殿下を愛しちゃってるからでしょ?」
「ぐぬう……いや待て、同じ外見なら中身が女の方を選ぶのでは?」
「大丈夫だってー」
二人並んで数日かけて辺境へと歩いて戻らんとする。
だが途中で正面より軍馬の音が。辺境領を出て迎えに来てくれたのか。某たちは手を振る。
軍は停止し、白馬に乗ったハルトビッヒ殿下が下馬して歩みを進める。
「シルヴィア!……ん?」
「なんか増えたにござる/魔王は討伐いたしました」
「おお!」
魔王討伐の報が軍に広がっていき歓声が上がる。旗が、手が振られ、盾が打ち鳴らされる。
殿下は某とシルヴィアと順に握手し、感謝の言葉を告げた。
うむ。
二人が親しげに耳打ちなどしている時に、某はそっと後ろに一歩下がる。
そして踵を返して走り去ろうとした。だが某は後ろから抱きすくめられた。
「なぜ逃げる」
「聖女が二人いても世が混乱するであろう」
ぎゅう、と抱きしめる力が強くなった。
「そんなものはどうとでもなる。私を放って逃げるのは酷いと思わないのかい?」
「本物のシルヴィアがいる。殿下は某が居なくなってもシルヴィアを愛すると言っていた筈」
「もし君が居なくなったらという話だ。君はここにいる」
「うう……なぜ某なのだ」
「私が最初に見染めたのは君だよ?」
某はシルヴィアの方を見た。にまにまと此方を見ておる。
「待て、お主はどうするのでござる?」
「クリストフ君にアプローチするしか!」
逃げてー!という言葉が浮かんだが……いや、別に悪い縁談では無いのか。
うぬう。
くいっと顎が摘まれた。
「私を見て」
顔が良くて落ち着かぬでござる。
「私が嫌い?」
「嫌いではござらぬ……」
「私が好き?」
首を僅かに動かす。
「声が聞きたいな。私が好き?」
「…………うむ…………っ!」
某の口は殿下の唇で塞がれた。兵たちの歓声が一段と大きくなる。
エピローグ
こうして、後に聖魔忍戦役と呼ばれる戦は終わった。
帝国はこの三年後に即位したハルトビッヒ皇帝の元、その最盛期を迎えることとなる。
後の歴史書には、大聖女シルヴィアが彼の皇妃として王都にいたという話と、旧魔族領のクリストフ辺境伯夫人であるという話が共に残されている。
辺境のシルヴィアから王都のシルヴィアへと宛てられた書簡は何通も現存しており、どちらのシルヴィアも実在の人物であったことは間違いない。
だが、どちらが魔王討伐という偉業を成したかについては定かではない。また、頻繁に書簡の中に登場する、おいしそうという言葉が何を示すものなのかも伝わっていない。
ただ、どちらのシルヴィアにも共通していることとして、夫からも民からも良く愛された女性であったということだ。
――完
ξ˚⊿˚)ξ <ご高覧ありがとう御座いました!
ξ˚⊿˚)ξ <…………。
☆☆☆☆☆
ξ˚⊿˚)ξ <手裏剣術!百花繚乱!
ξっ˚⊿˚)ξ╮==★
★★★★★
ξ(*´˘`*)ξ❤
ξ˚⊿˚)ξ <また、私のメイン作、『なまこ×どりる』もよろしくお願いします!
下の黄色と黒のバナーからいけますので。こちらも完結間近。ぜひー。




