三十七之巻:最後の忍法!
某の分身が消し飛び、傷を負い治癒の光が即座に癒す。魔王もまた肉が千切れ、再生する。
互いに破壊と再生を繰り返しながら、次第に消耗だけが重なっていく。
某はもはや分身を保てず、翼も折れ、魔王の身体も纏った闇は剥がされ、体躯も小さくなってきた。
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
終局が近いにござる。
「これが最後の攻防となろう」
魔王・服部一蔵はそう告げた。
某は答えず、剣を構えた。
「忍法!天地終焉!」
一蔵より放たれた闇の波濤は全方位より某に襲いかかる。受け止める力は残っておらぬ。某は剣に光の力を込め、一点より波濤を貫く。僅かに開いた穴より身を潜らせ死地を抜け出す。
だが二の手が打たれている。一蔵は右手に闇の剣を形作り、某の首を両断せんとしており、某の剣は今の脱出でほぼ光を失ったにござる。
剣で受けるも闇に弾かれ、某の身体は深く斬り裂かれた。
「馬鹿め!見えておるわ!」
一蔵は天高く跳躍した。闇の剣を振った刹那、跳び上がった影に気づいたのである。
「この俺に身代わりなど!」
そうして空にて闇の剣を腹へと突き刺し……、奴の顔が驚愕に染まる。
某は木人形に聖女の衣を着せて投げ上げたのである。
某は斬られて地上にいる方でござる。下着一枚の姿で全身を血に紅く染めつつも、死に至る深傷を治癒の魔術で即座に癒す。
そう。肉を斬らせて、ついに魔王に致命的な隙を作ったにござる。
某は跳び、一蔵の腰にしがみ付いた。
「や、やめろ!」
天地が逆転する。
「これが最後の忍法!飯綱落とし改め!」
某は残る神の力を燃やす。某と一蔵は一塊の火球と化した。
「忍法!日輪落とし!」
奴の頭を下に地上へと落下する。
魔王の声にならない断末魔の悲鳴が響き、闇が飛び散ってゆく。魔王の最期にござる。
残されたのは小柄な人間の体のみ。
「馬鹿な……、なぜ全なる一となった俺が貴様なんぞに……」
某は息を整え、それに答える。
「全なる一とは太極のことか」
一蔵は頷いた。某は前世にあった太極を示す白と黒に分かれた円の紋様、陰陽魚を思い起こす。
「愚か。太極とは陰と陽の合わさったもの。我ら陰の者たる忍びと、闇の王たる魔王の力を合わせて太極に至れるものか」
「そうか……まさか貴様!」
某は右手から聖女の光を、左手から忍法で闇を生み出してみせた。
「光と闇が両方備わり最強に見える。そういう事にござる」
「ぬかったわ……ぐふっ」
某は拳を握り締める。
「……魔王・服部一蔵、討ち取ったり!」




