三十二之巻:こいつ人の話を聞かないにござるな!
美しいがどこか歪なものを感じさせる魔王城の城門前、般若面を被ったような角の生えた大男が叫んだ。
某はばさりと外套を脱ぎ捨てて答える。
「また風?それに毘沙門天にござるか?」
なぜ和風の名前でござるか!
「四天王の長となった際に魔王陛下より賜りし名よ!聖女シルヴィアよ、よくぞ他の三人を打ち倒し、ここまで参った!」
「三人……?」
「だが我を他の三人と同じと見縊るなよ!」
「いや、だから三人?」
「陛下の御前に貴様を行かせるわけにはいかぬ!」
ぬぬぬ、こいつ人の話を聞かないにござるな!
毘沙門天はその手を大きく広げた。
「さあ聖女よかかってこい!」
「では御免!」
某は聖女の衣のスカートより苦無をそれぞれの手に忍ばせ、抜き打った。
「スリケンジュチュー!」
毘沙門天は十字手裏剣を二枚投げ撃ち、某の苦無を宙にて弾き飛ばす!
なんという技前!
しかも奴の方が膂力に優れる。手裏剣は勢いを減じつつも某へと向かい、某は側転して回避!
「手裏剣術、百花繚乱!」
「スリケンジュチュー、ヒャッカリョラーン!!」
両者の間で無数の金属が交差し、弾かれる。やはり某の方が速いが力に劣る!
某は左右に走らされながら手裏剣を投げるが、奴はその場から微動だにしない。
某の頬を十字手裏剣が掠め、血が散った。
……ぬう。
「我は魔王陛下直々にその技を教授されたのだ」
魔王陛下とやらが忍びの技を……?
某は杖を小脇に構え、印を結ぶ。では聖女の力なら如何か。
「臨兵闘者皆陣列在前!」
毘沙門天も同じ印を結ぶ!あれは!
「リンピョットッシャカイジンレッザイゼーン!」
某と同じ!
「忍法!光遁の術!」
「ニンポー!アントーンノジュチュー!」
聖女の杖の先から光が矢となり放たれ、毘沙門天の双掌から闇が放たれた。それは両者の中心で激突!
その力量は互角か拮抗する。
「ぬおおおおぉ」
「ふぬうううぅ」
――おいしそうさん!
シルヴィアか!
そこに内なる聖女シルヴィアが力を加え、聖女の杖がさらに眩く輝く!
じりじりと光が闇を飲み込んでゆく。
「くっ、瘴気の衣よ!」
毘沙門天の身体が闇を纏った。そこに直撃する光!爆発!
「ふはは、効かぬわ!」
爆発の中毘沙門天が叫ぶ。然もあらん。光遁の術は奴の繰り出した闇遁の術と打ち消しあい、ほぼ勢いがなくなっていたであろう。
煙が晴れた。
「ばかな、聖女がおらんだと!」
遁法とは姿を隠す技よ!高く跳躍、頭上を取った某は飛び降りながら回転。右手の懐剣に聖女の力を通して首を狙う!




