三之巻:それは変わり身でござる……ですわ!
どうも調べていると、某は南蛮ではなく、仏教で言う三千世界のどこかに転生したようだ。
今世の親父殿は侯爵とかいう、大名のような地位についておられる。なんと某はその娘であるようだ。
前世では田舎忍者と馬鹿にされ、腹黒大名の密偵として使い捨てられたのが、何の因果か。
親父殿の元には揃いの鉄鎧を着た旗本衆がいるので、戦でもしているのかと思いきや、魔族なる妖から領土を護るためとのこと。
そして聖女とは、その魔族を追いやる力があるらしい。
……坊主か祓い屋の類であろうか。
「聖女の力を示せと」
数日後、皇帝からの使者を名乗る禿が屋敷を訪れて言った。
親父殿やお袋殿は憤慨している。
どうも元々力不足を疑われていた聖女が最近言動が怪しくなったとのことで……まあ某のせいだが……聖女として適格か疑問視されているらしい。
他家の貴族からの文句らしいが、皇帝からの使者である。
皇帝とはつまり前世で言う帝か将軍であろう。そこからの依頼を受けぬわけにはいかぬし、家に迷惑をかける訳にもいかぬ。
「某……わたしが力を示せばおさまりましょう」
王宮、皇帝が住まう城はうちの屋敷より遥かに広く、前世の城とも異なる風情である。
その庭には立会人として大勢が並んでいた。
すらりと背の高い美丈夫。皇帝陛下の長男たる、ハルトヴィヒ皇太子殿下が話し掛けてくる。
「ははーっ」
某が平伏すると、くすくすと笑い声が聞こえた。
「楽にして」
某は頭を上げる。殿下はにこにこと笑ってこちらを見下ろしている。
ふむ、やんごとなき立場の方ながら、なかなか良く鍛えられた身体をしておる。
某が感心していると、先代聖女とやらが聖なる浄化の光を出すよう求めてきた。
「ふむ、如何にせむ」
尋ねると、やりやすい様に精神を集中すれば良いとのこと。
某は庭の中央へと1人歩み出た。
「いざ参る」
某は手早く手を組み替えて印を結ぶ。九字を切るのだ。
「臨兵闘者皆陣列在前!忍法光遁の術!」
城の庭は浄化の青白い光で満ちた。その光は王都全てを暖かく包みこんだという。
「素晴らしい!」
殿下は感極まったように某に抱き着いてきた。
しかしそれは某の用意した木人形だ!
既に庭の木の梢に立っている某は腕を組んで叫んだ。
「かかったな、それは変わり身でござる……ですわ!」
木人形を抱えて殿下は呟いた。
「……面白い女」
こうして某は何故か殿下に気に入られ、翌日届けられた婚約の申し出に、某と親父殿は頭を抱えるのであった。
「解せぬ……」
ξ˚⊿˚)ξ <短編版はここまで。
明日からは毎日1話更新予定ですの!