二十八之巻:少しは元気になったでござるか?
「ぐすっ……ぐすっ…………」
しばらくして少年は泣き止んだ。某はぽんぽんと頭を叩き、体から離す。某の胸が涙に濡れておる。
「少しは元気になったでござるか?」
こくり、と頷かれた。
メイドに目配せすると、すすと寄ってきたので尋ねる。
「飯は食っておるか?」
「取ってはおられますが、あまり……」
であろうな。頬に手をやると少し窶れておる。
――ふおぉぉ。
「甘く、温かいものをここで軽く。夕食は食堂で皆と食べよう。消化に良いものが良い」
「かしこまりました」
机に菓子や茶器が並べられていく。
「茶会をしようぞ」
クリストフ殿を誘って席へ。正面では遠いか。横に座る。
この世界で良く食すようになったクッキーなる干菓子を摘んでいると、メイドが茶を……ふむ、飲み物はココアか。
「牛乳と泡立て器はあるにござるか?」
某は牛乳をしゃかしゃかと泡立てるとココアの上に盛る。
――おいしそうさん何を?
某の技を以ってすれば子供を喜ばせることなど朝飯前よ!
楊枝のような細いフォークでちょいちょいと形を整え、ココアの粉をフォークの先につけてちょいちょいと。
「忍法、立体ラテアートの術!」
「にゃんこ!」
某の造形した三毛猫が如き泡を見て、クリストフ殿はきらきらと目を輝かす。
――良かった、召喚したのがおいしそうさんで本当に良かった……。
それほどにござるか!?
とまあ茶を喫し、クリストフ殿を喜ばせるべく、某が部屋の壁に張り付いたり火を吹いたりしていると夕飯の時間である。
「明日からは表にも出よう。身体を動かすのも大事にござる」
「はい」
そう言って手を繋いで食堂へと向かう。
親父のレオパルド殿が驚いた顔でこちらを迎え、ハルトビッヒ殿下が不機嫌そうな顔で迎えたのであった。
「部屋から出られたのか!」
「ご迷惑をおかけしました。お父様」
「聖女殿、ありがとうございます……!」
少年は伯に、伯は某に頭を下げる。
そしてはっと気づいたのか跪いた。
「お初にお目にかかります。ハルトビッヒ殿下」
「初めまして、クリストフ殿。楽にしてくれ」
「いえ、殿下の婚約者たる聖女様に触れるなど失礼を」
「む、某から触ったのでござるゆえ」
殿下はぴくりと頬を動かし、ちらりとこちらを見て、ふーと溜息をついた。
「許そう。彼女もそう言っているしな」
クリストフ殿は立ち上がってにこりと笑う。
「寛大なる皇太子殿下、感謝致します。聖女様に抱き締められて頭を撫でて頂いたのもお許し頂けるのですね」
「ぐぬぬ、うむ」




